突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ

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11.街へおでかけ6

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「お待たせしました~」



 良いタイミングでお店のお姉さんが注文したものを持って来てくれました。

 私とルカは店内でしか食べられないパフェを、レイはコーヒーを注文していました。



「うわあ・・・・・・!」



 私は自分の前に置かれたガラスの器に目が釘付けになりました。

 季節限定、いちごパフェにしたのですが、赤と白のコントラストがきれいで、アイスもミニケーキも乗っていてビスキュイも添えてあって、豪華です!

 テンションが最高値まで上がって、どこから食べようか真剣に検討していたら、周りから視線を感じました。

 どうやら、ルカとレイが顔を寄せ合って話しているのを、主に女性がちらちらと見てきているようです。

 私にはその視線の流れ弾が当たってた、ということのようです。

 彼らが何を言っているのかは聞えませんが、女性達が頬を染めて貴方達をご覧になってますよ。



「なるほど、可愛らしい。このパフェを前にした顔を見る為に、男達は女性を連れてカフェに来るのだな?理解した。」

「本当、予想以上にかわいいですよねえ。いや、ちょっと、人の婚約者で理解しないでくださいよ。」

「減るもんじゃないし、いいだろ。」

「減る気がするんです!本当は二人だけの予定だったのに!空気読んでくださいよ。」

「お前に嫌がらせができるという空気を読んできたんだ。おっと、溶けるからさっさと食べよう。」



 ルカが、自分の前のチョコパフェから、大きくアイスをすくって口に入れたのを見て、私もケーキにスプーンを入れました。

 甘さ控えめで美味しい・・・アイスもいちごのシャーベットぽいのも濃厚バニラもあって幸せ。

 黙々と食べ進め、最後ちょっと苦しかったけれど、なんとか食べ切りました。

 ごちそうさまでした、とスプーンを置いたら、レイが苦笑しています。



「リディ、よく食べきったね。残すかなと思ってたんだけど。」

「少しだけ多かったですけど、残すと勿体ないですから。とっても美味しかったです。お待たせしました。」



 とっくに食べ終わっていたルカにも声を掛けると、にこにことこっちを見ながら、

「いや、いいもの見せてもらってたから、大丈夫。また一緒にパフェ食べに行くか?」

と誘われました。

 私は喜んで頷きかけたのですが、横からレイに頭を抑えられ、阻止されました。



「今度は、二人で行こうね、リディ?」

「え、ええ、もちろん。」



レイが満足そうに笑うのを、ルカが呆れたように見ていました。





 結局、カフェを出てもルカの護衛はやって来ませんでした。

 それに業を煮やしたレイは、目の前の公園へ行き、木陰のベンチに私とルカを座らせると、

「全く何をやっているんだか。護衛かその辺を巡回している騎士を僕が探してきますから、絶対に動かないで、ここで二人で待っててください。ルカーシュ、リディを頼みますよ。」

とルカに私を頼んで走って行きました。



 本当は立場的に私がルカを守らねばならないのではないですかね?難しいですけど。



 しかし、ルカと二人で置いていかれるとは思いませんでした。

 レイがいなくなった途端、会話が途絶えて、落ち着かなくなります。

 ええと、何か話すことを見つけなくては。おろおろと辺りを見回していると、隣から笑い声が聞こえてきました。



「リーディア嬢、そう緊張するな。何もとって食いやしない。」

「とって食う?!」

「いや、そこで驚くか?」



 更に激しくお腹を抱えて笑い出したルカの横で私は小さくなっていました。もう、本当に消えたい。

 しばらく笑い続けたルカは、拳で涙を拭きながら謝ってきました。



「すまん、ちょっと面白すぎて。こんな令嬢だと知っていたら、私が先に求婚するんだったな。」

「ええっ?!」



 私はさっきから彼の台詞に驚いてばかりです。

 その彼の方は、こちらを笑いを含んだ目で見つめながら、説明してくれます。



「さっき言っただろう、貴方と私が昔に会ったことがあると。あれは私と婚約者候補の顔合わせの場で、貴方も候補の一人だった訳だ。」

「それは、全く覚えておりません。」



 全く記憶にないのですが、いつの間にそんなことになっていたのでしょうか?



「結局、私は現在まで、誰とも婚約しないまま身軽な三男坊をやってるわけだが、もし、あの時、貴方ともっとよく話すことができていたら、今、貴方と婚約していたのは私だったかもしれない。」

「それは、私にはなんとも言えないのですが、私は今、ラインハルト様が婚約者で良かったと思っておりますので、その・・・。」



 どう言えばいいのか、現在の私はレイが好きなわけですから、そういう例え話をされると返答に大変困るのですが。

 困惑する私にルカは心配するなと言うように手を振りました。



「もちろん、今更どうこうしようとは全く思っていない。私だってラインハルトを傷つけるつもりはないし、身内でごたごたもしたくはないからな。」

「身内、といいますと・・・?」

「私とラインハルトは従兄弟同士だからな。」

「え、従兄弟同士。」

「なんだ、それも知らなかったのか。ラインハルトの父親は元王子で、私の父と腹違いの兄弟というやつだ。」

「申し訳ありません、人の顔を覚えるのが苦手だったので、人間関係がなかなか頭に入らず、最近急いで学んでいる所です。今は大分、人の顔を覚えられるようになっていますけど。」

「ふーん。それでは本当に貴方は身分など関係なく、ラインハルトだけを見て好きになったのだな。なるほど、あいつが大事にするはずだ。私の父は、祖父が側室をたくさんおいていた反動で母一人だが、政略結婚だからか二人がそれほど愛し合っているようには見えないんだ。それを見ていると、私は政略結婚などしたくないと思うんだが、まあ、無理な話だな。だからね、私は羨ましいと同時に、心からお前達の幸せを願っているよ。」

「ありがとうございます。私は貴方が政略結婚であろうとも、素敵な方とご結婚されるよう毎日祈っております。」

「その気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。」



 しばらく沈黙が続きましたが、なんだかさっきまでの緊張が何処かに行って、心穏やかにいられました。

 ぼうっと鳥の声を聞きながら、レイに貰ったブレスレットを見ていたら、ルカもそれに目をやって、何か思い出したように、ああ、と声を漏らしました。



「もしかして、ラインハルトの花言葉の姫はリーディア嬢か?」

「はい?花言葉とは?」



 ついでに姫って何?



「知らないか?緑の辺境ではそれぞれの花に花言葉というものがあって、花を贈ることによってその気持ちを伝える、ということが行われているそうだ。」

「そんな素敵な習慣があるのですね。私は、ラインハルト様から花束を貰ったことはないような・・・。」

「じゃ、誕生日に苗やら種やら送ってたのは誰宛だったんだ?」

「それなら、多分、私ですね。」

「なんだ、やっぱりそうなのか。つまらん、今ちょっと波乱が起きるかと期待したのに。」

「そんな期待しないでください。ただでさえ、ラインハルト様はご令嬢方に人気と聞いて気が引けているのに。」

「あれだけ好かれても、そんなこと気にしてるのか。難儀だな。」

「人の気持ちは移ろいますから、どうしても気になりますよ。」

「なら、なおさら奴に貰った花の花言葉を調べてみるんだな。毎年、かなり悩みながら選んでたぞ。」
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