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4,初恋のために背水の陣をしく
しおりを挟む「あの、失礼を承知でお聞きしますが、1回目と2回目の婚約解消の理由は何だったのですか?先日、ご自分から婚約を解消するのは初めてだと仰られていましたが・・・。」
先程の疑問は、俺にとって答えづらいことのようだ、と気がついたアルベルタ嬢は話題を変えてくれた。
次の話題は答え慣れたものだったので俺は安堵した。
この質問なら嫌というほど聞かれてきたので、寝てても答えられるぞ。
「1回目は11歳で、海の向こうの国に押し切られて末の姫君とお互い顔も知らないままに婚約したのだが、3年後にやっぱり国外に出たくないという勝手な理由で解消された。2回目は2歳上の山の国の公爵令嬢だったのだが、1年後に従者と駆け落ちした。」
目の前のアルベルタ嬢の口がぽかんと開いている。そう、俺は逃げられてばかりなんだ。
「3回目は国内のご令嬢で恋人のいない人を選んだのだが、ご存知のとおりだ。俺は弟のように見目が良くないからか、女性に好かれなくてな。」
よく考えれば恥ずかしい話だと、俺は頭をかきながら俯いた。
「そんなことはありませんわ!皆、見る目がないのです。私は第2王子殿下より、王太子殿下のほうが好きです!」
彼女はいきなり拳を握りしめてソファから立ち上がりそう叫んだ。
今度は俺がぽかんと口を開ける番だった。
今、とても嬉しいことを聞いたような。
でも今、結婚してくださいと言ったら断られると弟に忠告されたし。
どうすればいいんだ、誰か教えてくれ!
脳内で騒がしく対応を考えていたら、彼女が我に返った。
俺と目が合った彼女は、髪と同じくらい真っ赤になって、
「私ったらなんてことを。王太子殿下、これは気にしないでください。もう絶対に忘れてくださいーーー!」
と叫びつつ、部屋から走り出ていった。
また、逃げられた・・・のか?
「お兄様!何をやってるの!なんであそこでプロポーズしなかったのよ?!」
直ぐに続き部屋の扉から転げるように弟妹達が飛び出してきた。
お前達、王族が覗き見とはいかがなものか。
「姉上の言うとおりですよ、絶好の機会だったのにもったいない。」
「だが、リーンが今結婚の申込みをしちゃいけないって言ってただろ。」
「リーンのせいなの?!お兄様も、臨機応変って知らないの?!」
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「姉上、酷い・・・。」
涙目になって赤くなった頬を両手で擦っている弟は放っておいて、俺は妹に助けを求めた。
「俺はやっぱり、諦めたくない。少しでも好かれているのなら、アルベルタ嬢と結婚したい。どうしたらいい?」
俺のその台詞にメラニーが驚いて目を見張り、直ぐににっこりと笑った。
「お兄様が結婚に積極的になったのは初めてね!いいわ、私が全面的に協力するわ!リーンは私の手足となって働きなさい!」
弟は逃げたそうな顔をしたが、こうなった姉に逆らえないことをよく知っているので渋々頷いた。
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「彼女が私の侍女として来てくれている間に、王太子妃教育もできるだけしておくわ。もちろんお兄様を売り込むことが最優先だけど。」
頼もしい妹がどんどん計画を立ててくれる。
「でも、姉上、アルベルタ嬢は兄上の婚約者候補から外れてるけど、そこはどうするの?」
弟からの疑問に、メラニーが詰まった。目を泳がせて答えを探している。
「もう、お兄様が簡単に候補から外しちゃうから!とりあえず、候補者をそのままにしておくのは気の毒だから内定したことにして解散しましょ。」
「え、それいいの?!」
「いいのよ。お兄様、アルベルタ様を捕まえられなかったら一生未婚で過ごすくらいの気合で行きましょう。」
「姉上、それはマズイでしょ。」
「マズかないわよ。それっくらいの意気込みなくてどうして好きな人が手に入ると思うの?それはリーンが一番よくわかってるんじゃないの?」
「そりゃそうかもしれないけどさ、兄上は王になるんだよ。独身なんて無理でしょ。」
「リーンが子どもをたくさん作って養子に出せばいいじゃない。」
リーンハルトは、愛する婚約者との子ども、でイロイロ想像してしまったらしい。
あっという間に鼻血を吹いて熱が出て、側近によって回収されていった。
哀れな弟を見送って、メラニーが半眼でつぶやいた。
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あまりの辛辣さに、俺は弟に同情した。
「好きだって気持ちがわかりやすくて便利だと思うんだが・・・。」
「え、自分を見て鼻血を吹く男とは一緒に居られないでしょ?それにあれでは好きな人に近寄れもしないわよ?不幸でしかないわ。お兄様は、ああならないでよね。」
ぼそっと弟を援護してみたものの、妹に秒殺された。
どう返事しようか迷っているうちに、妹によって半年後の王宮の夜会でアルベルタ嬢に結婚を申し込むということに決まった。
それまでに彼女と気持ちを通じ合わせられるよう努力してね、と言い置いて妹は張り切って部屋を出ていった。
弟は熱を出したら数日は寝たきりだし、1人になった俺はどうすればアルベルタ嬢と仲良くなれるか考えた。
が、なんにも思いつかなかった・・・。マズい、メラニーに怒られる。
数日後、元気になった弟に学園の様子を尋ねた。
「アルベルタ嬢は学園で元婚約者達にいじめられたりしてないかな。」
彼は首をひねりながら答えた。
「うーん、最高学年の棟は僕のとこから離れすぎててよくわからないけれど、噂ではいじめているのはアルベルタ嬢の方、って言われてたよ。でも、彼女はそんな事しないと思うんだけど。」
俺は思わず、弟の肩を掴んで揺さぶった。
「彼女がいじめなんてありえないだろ?!あいつらとは関わりたくない感じだったし、あの時正論であの2人をどやしつけた彼女はそれはかっこよかった。彼女がそんな事するはずがない。」
ゆすぶられながらこくこく頷く弟に、俺は滅多にしない命令を下した。
「リーンハルト、学園の噂を拾って真実を確かめ、彼女の助けになってこい。」
「了解です!」
無害そうに見えてその実、我々の中で一番腹黒い弟はどこか嬉しそうにそれを了承して出ていった。
彼に任せておけば、学園内は大丈夫だろう・・・多分。
それから、機会を捉えてはアルベルタ嬢と話をした。
最初はお互いぎこちなかったが、回数を重ねるにつれてくだけて話せるようになった。
思ったより侍女の仕事は大変だという話を聞いた時は、彼女に心の中で平謝りした。
それは王太子妃教育が混ざっているからだ・・・!
学園の方はリーンハルトのおかげか噂も落ち着いたようだった。
打ち解けてくるにつれて、彼女の笑顔が増え、俺は暴走しそうになる自分を止めるのが大変だった。
「ねえ、リーン。思うのだけどあの人達、実はもともとお互い好みだったのでは?」
「姉上もそう思う?多分、障害だったのはお互いの婚約者が浮気したから、残り物同士は外聞が悪いってことだけだったんじゃないかな。」
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「・・・皆、姉上みたいに鋼鉄の心臓を持ってないんだよ・・・。」
「そんな事言うのはこの口かしら?」
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