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1、3回目の婚約破棄
しおりを挟む「私、ずっと前から貴方のことが好きだったの!」
「僕もだよ!ああ、でも君は王太子殿下の婚約者で、僕の手の届かない人なんだ。」
「そんなことはないわ!あの方は私のことをなんとも思ってないの、私達が愛し合っていることが分かれば快く婚約を解消してくれるはずよ!もう2回も婚約解消されてるんだもの、3回目もすんなり行くと思うわ。」
(婚約者として大事にしてたつもりだし、別になんとも思ってないわけではなかったんだが。それに俺ももう20だし、次の相手が見つかるかなあ・・・。)
ここは某伯爵家。現在、夜会の真っ最中である。
所用で会場を出た婚約者が、なかなか戻って来ないので探しに来たら、こんなところを見る羽目になった。
道理で、彼女はこの夜会に行きたがったはずだ。想い人が来るからだったのか。
それを珍しくねだられたからと、ほいほい連れてきた自分がバカみたいだ。
でもまあ、次の相手が見つかるかと心配する時点で、自分も彼女のことをそこまで愛してはなかったのだろう。
もうお互い気持ちは離れたし、快く婚約を解消してやろうじゃないか。
彼女の言う通り、2回も3回も変りゃしないさ。
投げやりな気分になって、身を隠していた柱の陰から出ていこうとした時、その場によく通る声が突き刺さった。
「貴方がた、何を勝手なことを言って盛り上がっているの?!ふざけないで頂戴!」
「アルベルタ!お前、盗み聞きとははしたないぞ!」
ちらりと覗いてみると、明るい月の光に照らされた真っ赤な髪の令嬢が仁王立ちして2人を糾弾していた。
(あの赤い髪は確か、ここの家の次女で・・・あの男の婚約者じゃないか!うわあ、修羅場だ。)
自分のことを棚に上げて俺は興味津々で成り行きを見守る。
「はしたない?それはそちらでしょう。婚約者の家で堂々と逢引とは呆れてものもいえないわ!しかも2人ともそれぞれ別に婚約者がいるというのに、恥知らずね。」
「このっ言わせておけば!僕はお前のことを一度だって婚約者だと思ったことはない!小さくて胸もないくせに、気が強くていつも上から目線で偉そうにしやがって、何様だよ。お前みたいな女はな、どんな男だってお断りだよ。僕はずっと最大の貧乏くじを引かされたと思ってきたんだ、今ここでお前との婚約は破棄だ!」
「それを決めるのは貴方じゃないわ、お互いの家よ。でも、私は賛成よ。貴方となんてもう一秒だって婚約していたくないわ。何度目の浮気よ!その女を連れてさっさと出ていって頂戴!」
「え、私だけじゃなかったの?!」
俺の婚約者が傷ついた声を出した。
婚約者がいるのに君にちょっかいをかけてる時点で、そういう男だって気づいて欲しかったな。
俺は腕を組んで柱に背を預け、空を仰ぎ見る。また婚約者探しか。本音を言えばもう勘弁してほしい。
もし奇跡的に次の相手が見つかったら、すぐ結婚しよう。そうしよう。密かに決意したところで、背後の空気が動いた。
「お前っ余計なことを言いやがって!」
相手の男が拳を振り上げている。とことん最低な奴だな。
流石に見過ごせないと、柱の陰から飛び出した俺は目の前に飛んできた男を慌てて避けた。
男が壁にぶつかるまで見送ってから振り返ると、足を高く上げて蹴りを決めたアルベルタ嬢が、俺と同じくらい驚いた顔でこちらを見ていた。
・・・綺麗な足のラインだなー・・・。
「あ、え、お、王太子様?!」
真っ青になって叫んだのは、婚約者だった令嬢だ。ガタガタ震えだした彼女に、俺は王太子用の笑みを向けた。
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「そ、そのようなことは。あの、私・・・。」
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「どうあれ、俺は、君とこれ以上関係を続けたいと思わない。」
「王太子様!私、騙されたんです、聞いてください!」
「聞きたくないな。こんな男に騙されるなんて君は王太子妃に向かないよ。1つ、いいことを教えてやろう。俺から婚約解消するのは、君が初めてだ。」
「そ、そんなぁ・・・!」
その場にへなへなと座り込んだ彼女に俺はもう関心を向けなかった。
あの綺麗な足を仕舞い、ドレスの裾も直して毅然と立っているアルベルタ嬢に近づく。
「アルベルタ嬢、災難だったね。」
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「ああ、そうだったね。女性もなんだ。」
「女当主になることもございますから。」
「なるほど。素晴らしい方針だ。自分で自分の身を守れるのはいいね。」
そういえば、あの男と婚約していたから、彼女はずっと俺の婚約者候補にはならなかったんだと気がついた。
お互いフリーになった今なら可能なんじゃないかな。という考えが頭をよぎったが、すぐに消した。
お互い婚約解消して丁度いいから結婚しよう、などと。
流石に、それはない。
会場に着く直前、あまりにアルベルタ嬢が話しやすかったので、つい、先程の感想ををぽろりと口からだしてしまった。
「アルベルタ嬢の足は綺麗だね。」
沈黙が落ちた。
「王太子殿下?そういうことは言わないものですわよ?今回は、自分の身を守るためだったということで、見なかったことにしていただけると嬉しいのですけど。」
しばらくして、凄みのある笑顔とドスの効いた声で告げられた言葉に頷きそうになって、慌てて首を横に大きく振る。
「すまない、忘れられそうにないから見なかっったことにはできない。代わりに誰にも言わないから、2人だけの秘密ではだめか?」
「王太子様は意外と正直な方なんですね。いいですわ、本当に誰にも言わないでくださいね。でないと私は兄に叱られてしまいます。」
今度は楽しそうな笑い声とともに伝えられて、沈んでいた俺の心が明るくなった。
「フェリクスー!これはなんだ!」
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昨夜寝るのが遅かったので、もう少し寝かせて欲しかったのだが。
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