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1、突撃
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玄関のチャイムが鳴ったので、私は仕方なくベッドから抜け出し、眠い目をこすりながら扉を開けた。
そこには先日、職場にきた新人の中で、一番かわいいと言われていた銀髪の女の子が立っていた。
朝も早いのに可愛いピンクのワンピースに、長い髪をふわっと纏めて白っぽいリボンをつけている。
出てきた私を髪と同じ銀の瞳を真ん丸にして見つめてきた。
「こんな朝早くからどうしたの?」
私が聞くと、その子はとても動揺して抱えていた紙袋を抱き潰した。
刺さっている長いパンがバキッと音を立てて圧し折れる。
勿体ないと眺めていたら、彼女が探るような目付きで聞いてくる。
「え、ここルキウス所長の部屋ですよね?私、ラシェルさんの部屋と間違えました?」
ラシェルと呼ばれた私は、彼女を安心させるようににっこりと笑って頷いた。
「いや、この部屋で合ってるわよ。所長に急ぎの用?」
「あ、いえ、所長はいつも朝ご飯を食堂ではなく自宅でとられると聞いて、私が作って差し上げたいと思ったのですが何故ラシェルさんがここに?しかも、寝間着ですよね、それ。」
私は笑みを浮かべたまま、彼女の持つ紙袋を残念そうに見る。
「あー、今まで寝てたものだから、寝間着でごめんね。私もここに住んでるんだ。朝ご飯ならルキウスが今、作ってる、と思う。彼のご飯美味しいよ?一緒に食べていく?」
「所長が、ですか?!朝ご飯、ラシェルさんが作るんじゃないんですか?!」
それなら勝てそうだと思ったのに、と言う後に続いた失礼な呟きは聞かなかったことにしてあげよう。代わりに言い慣れた台詞を吐く。
「私は台所に立たせて貰えないから作らない。毎日ルキウスが作ってくれてる。」
「ま、毎日・・・。私、帰ります!お邪魔しました!」
さらに紙袋をぎゅっと抱え込むと走って逃げて行った。折れたパンが落ちないか心配だったけど、何とか無事だったようだ。
寝直す気にならなくて居間に行くと、話題のルキウス所長が横の台所で卵を焼いているところだった。
「おはよう、ルキウス。オムレツ?」
私が後ろから覗き込むと、白金の長い髪をきっちり一本のみつあみにした頭が振り返って、青紫の瞳がいたずらっぽい笑いを含んでこちらを見下ろす。
ルキウスは男性の平均身長より高く、私は女性の平均身長よりやや低いため、身長差が大きい。
高い所のものを取ってもらうには都合がいいが、毎度、高所から見下ろされるのがたまに癪に障る。
さすがというか、早起きの彼はすでに白シャツと黒の細身のズボンという制服に着替えている。
汚れないように着けている紺のエプロンは、去年の誕生日プレゼントに私が贈った物だ。
「おはよう、ラシェル。オムレツは昨日食べたろ? 今朝は目玉焼き。それより、今年も朝早くから応対ご苦労さん。年々減ってくな。来年辺り、朝の突撃訪問はゼロになるかもな。」
「今年は貴方が所長になったし、増えるかと思ってたんだけどね。」
私達は魔術研究所に勤めていて、ルキウスは昨年、異例の若さで所長になった。
前任が90歳近くのおじいちゃんだったので一気に60歳以上も若返ったと騒がれた。
ルキウス曰く、『所長なんて雑務担当の役職は、研究に没頭したい人間が多い研究所では、一番不人気だから俺以外やりたがらなかっただけだ。』ということらしいが、友人のルネによると並み居る候補者を、実力行使で蹴散らして手に入れたとか。
どっちが本当かわからないけど、私にとって興味がないことなので、それ以上は聞いていない。
ルキウスは背が高く、整った顔立ちに美しい白金の髪と青紫の瞳という見た目の良さと、自分の興味のあるもの以外はどうでもいいという奇人変人が多い研究所内では、珍しい癖のない性格で人気が高い。
毎年春に新人が入って来ると、さっきのようにご飯を作ってあげようという女性が朝早くから訪ねてくる。
ついでに近所に住む職場が違う女性陣もやって来たりする。
その度に私が寝不足になりながら応対すると、大抵二度と来ないのだった。
こんな料理が好きな男より、近くの騎士団の独身男性達に作ってあげたほうが、よっぽど喜ばれるだろうに、と思うのだが。
女の子達は筋肉は嫌なのだろうか。でも、多分、ルキウスだってそこそこ筋肉がついてるような気がする。裸を見たことないからはっきりとは言えないけど。
そう言えば、こないだ食堂で筋肉について語っている子がいた。多すぎるのもないのも嫌だと言っていたから、難しいことを言っているな、という感想しか持たなかったが。もしや、ルキウスくらいがちょうどいいのかな。
「最初の年は同い年の気安さからか、ひっきりなしに来て、一緒にご飯食べてく人もいたのに、最近はそういう子いないわね。」
言いながら、流しのザルからプチトマトを1つ摘んで口に入れると、フライ返しを持った手の甲で頭を軽くはたかれた。
「行儀が悪い。もう出来るからとっとと顔洗って、そのぼさぼさの髪を纏めてこい。」
さらに足で洗面所へ押し出された。
今日の朝ご飯はプチトマトとレタスと目玉焼きとベーコン、お気に入りのクロワッサンだった。
「美味しそうだけど、ちと多い・・・。」
正直に申告すると、顔を顰められた。彼の前の皿には私の倍量が乗っている。
「疲れが溜まってんのか?お前、細すぎるんだから、もっと食べないと昼までもたないぞ。しょうがないな、野菜は食べろ、クロワッサンはお前の好物だから、目玉焼きとベーコン半分よこせ。手伝ってやる。」
そう言いながら、ナイフでそれらを半分に切ると器用に自分の皿に移した。
「疲れてるとは思わないんだけど。昼まで座ってるだけだから、そんなにお腹空かないと思うよ。」
言い訳しながら野菜を先に片付ける。好物は後にとっておく派だ。
「そいや、今朝来たのは誰だった?」
思い出したかのように尋ねられ、首をひねる。
「うーん、ほら、あれだ、一番かわいい、銀髪の女の子。」
「ああ、テレーズだな。了解。後でフォローしとく。」
「マメだねえ。」
「せっかくの新人に直ぐ辞められたらこっちも困るんだよ。しかも理由が俺とか、本当に止めてくれよ。」
私は食後のお茶を飲みながらこっくりと頷く。
何年前だったか、朝の突撃女子達が一斉に辞めて、当時の所長にもっと上手くやりなさい、って怒られてたな。
ルキウスが食器を片付けるついでに、私のコップも取り上げ、ぼちぼち身支度を終わらせてこいと言ってきた。
時計を見るといつもより早い。
「えー、まだ時間あるじゃない。お茶おかわりしたい。」
「時間あるから、こないだ覚えた新しい髪型をやってみたい。だから早くしろ。お茶のおかわりは三時のおやつと一緒に出してやるから。」
「おやつは、さっきのお礼に五番街のケーキ屋のフルーツタルトだといいな!」
「わかった。注文しとくから、さっさと着替えてこい。」
俺はガトーショコラにしようと言いつつ、ルキウスは魔術でケーキ屋に注文を出す。
この国では全員が魔術を使うことができる。
中等学校までで火や水の扱い、遠くとの連絡など生活に最低限必要な簡単な魔術を習う。
適性や興味があれば魔術学校に進んで、さらに多くの魔術を学び、国家試験に受かれば魔術師となる。
医療から武官まで(もちろん魔術師でなくてもなれるが、付加価値が付いてお給料が高い)就職先は多岐に渡り、魔術師を目指す人は多いが、適性のある人は意外と少ない。
なので、魔術師というと、すごいねと言われるが、続けて研究所勤めと言うと急に変人として見られる。
確かに研究所の所員達は、自分の専門分野の魔術はトップレベルだが、変わり者が多いことで有名だ。
私は自分をそうではないと思っているが、学生時代は調査や解読などに没頭すると寝食と時間を忘れてしまい、限界を超えてぶっ倒れるということを繰り返していた。
その度に委員長だったルキウスに助けられ、回復してもらったりしている内に、友人になり、ついには倒れるのを未然に防ぐという目的で世話をしてもらうことになって、現在に至る。
ルキウスは何でもできる男で、就職する時も、最高位の城付き魔術師から声が掛かっていた。それを断って研究所に来たのだから、彼も変わり者なんだろうと密かに思っている。
ルキウスがケーキを注文してくれたのを確認して、私はおやつを楽しみに、うきうきと自分の部屋に戻った。クローゼットを開けてルキウスが着ているのと同じ制服の白シャツに細身の黒ズボンに着替える。制服にはスカートもあるが、私は持っていない。後は出かける直前に、この上から普段用の黒いローブを羽織れば完成だ。忘れずに鞄に昨夜読んでいた資料を入れ、読みかけの本も入れ、催促が矢のように来ている提出書類も突っ込んで蓋を閉じる。
膨らんだ鞄を抱えて居間に行くと、ブラシを手にしたルキウスが待っていた。毎朝のことなので私は無言でルキウスの前に置かれている椅子に座って、雑に束ねていた髪を解く。お互い髪の長さは同じくらいで腰上まである。さらさらストレートの私の黒髪は、しっかり梳かして結ぶと直ぐに紐が抜けて難しい。
もちろん、昔は自分で結っていたが紐が抜けない対策として櫛を通さず雑に一つにしただけの髪を見た彼が、せっかくのきれいな髪がもったいないと言い出してたちまち流行りの髪型などを覚えてきて私を飾るようになったのだ。
ちなみに彼の髪はちょっとだけ癖があるので、だいたいみつあみにしている。下ろしているとふわっとして私は結構好きなのだが、恋人同士でもないし、それを言ったことはない。
そこには先日、職場にきた新人の中で、一番かわいいと言われていた銀髪の女の子が立っていた。
朝も早いのに可愛いピンクのワンピースに、長い髪をふわっと纏めて白っぽいリボンをつけている。
出てきた私を髪と同じ銀の瞳を真ん丸にして見つめてきた。
「こんな朝早くからどうしたの?」
私が聞くと、その子はとても動揺して抱えていた紙袋を抱き潰した。
刺さっている長いパンがバキッと音を立てて圧し折れる。
勿体ないと眺めていたら、彼女が探るような目付きで聞いてくる。
「え、ここルキウス所長の部屋ですよね?私、ラシェルさんの部屋と間違えました?」
ラシェルと呼ばれた私は、彼女を安心させるようににっこりと笑って頷いた。
「いや、この部屋で合ってるわよ。所長に急ぎの用?」
「あ、いえ、所長はいつも朝ご飯を食堂ではなく自宅でとられると聞いて、私が作って差し上げたいと思ったのですが何故ラシェルさんがここに?しかも、寝間着ですよね、それ。」
私は笑みを浮かべたまま、彼女の持つ紙袋を残念そうに見る。
「あー、今まで寝てたものだから、寝間着でごめんね。私もここに住んでるんだ。朝ご飯ならルキウスが今、作ってる、と思う。彼のご飯美味しいよ?一緒に食べていく?」
「所長が、ですか?!朝ご飯、ラシェルさんが作るんじゃないんですか?!」
それなら勝てそうだと思ったのに、と言う後に続いた失礼な呟きは聞かなかったことにしてあげよう。代わりに言い慣れた台詞を吐く。
「私は台所に立たせて貰えないから作らない。毎日ルキウスが作ってくれてる。」
「ま、毎日・・・。私、帰ります!お邪魔しました!」
さらに紙袋をぎゅっと抱え込むと走って逃げて行った。折れたパンが落ちないか心配だったけど、何とか無事だったようだ。
寝直す気にならなくて居間に行くと、話題のルキウス所長が横の台所で卵を焼いているところだった。
「おはよう、ルキウス。オムレツ?」
私が後ろから覗き込むと、白金の長い髪をきっちり一本のみつあみにした頭が振り返って、青紫の瞳がいたずらっぽい笑いを含んでこちらを見下ろす。
ルキウスは男性の平均身長より高く、私は女性の平均身長よりやや低いため、身長差が大きい。
高い所のものを取ってもらうには都合がいいが、毎度、高所から見下ろされるのがたまに癪に障る。
さすがというか、早起きの彼はすでに白シャツと黒の細身のズボンという制服に着替えている。
汚れないように着けている紺のエプロンは、去年の誕生日プレゼントに私が贈った物だ。
「おはよう、ラシェル。オムレツは昨日食べたろ? 今朝は目玉焼き。それより、今年も朝早くから応対ご苦労さん。年々減ってくな。来年辺り、朝の突撃訪問はゼロになるかもな。」
「今年は貴方が所長になったし、増えるかと思ってたんだけどね。」
私達は魔術研究所に勤めていて、ルキウスは昨年、異例の若さで所長になった。
前任が90歳近くのおじいちゃんだったので一気に60歳以上も若返ったと騒がれた。
ルキウス曰く、『所長なんて雑務担当の役職は、研究に没頭したい人間が多い研究所では、一番不人気だから俺以外やりたがらなかっただけだ。』ということらしいが、友人のルネによると並み居る候補者を、実力行使で蹴散らして手に入れたとか。
どっちが本当かわからないけど、私にとって興味がないことなので、それ以上は聞いていない。
ルキウスは背が高く、整った顔立ちに美しい白金の髪と青紫の瞳という見た目の良さと、自分の興味のあるもの以外はどうでもいいという奇人変人が多い研究所内では、珍しい癖のない性格で人気が高い。
毎年春に新人が入って来ると、さっきのようにご飯を作ってあげようという女性が朝早くから訪ねてくる。
ついでに近所に住む職場が違う女性陣もやって来たりする。
その度に私が寝不足になりながら応対すると、大抵二度と来ないのだった。
こんな料理が好きな男より、近くの騎士団の独身男性達に作ってあげたほうが、よっぽど喜ばれるだろうに、と思うのだが。
女の子達は筋肉は嫌なのだろうか。でも、多分、ルキウスだってそこそこ筋肉がついてるような気がする。裸を見たことないからはっきりとは言えないけど。
そう言えば、こないだ食堂で筋肉について語っている子がいた。多すぎるのもないのも嫌だと言っていたから、難しいことを言っているな、という感想しか持たなかったが。もしや、ルキウスくらいがちょうどいいのかな。
「最初の年は同い年の気安さからか、ひっきりなしに来て、一緒にご飯食べてく人もいたのに、最近はそういう子いないわね。」
言いながら、流しのザルからプチトマトを1つ摘んで口に入れると、フライ返しを持った手の甲で頭を軽くはたかれた。
「行儀が悪い。もう出来るからとっとと顔洗って、そのぼさぼさの髪を纏めてこい。」
さらに足で洗面所へ押し出された。
今日の朝ご飯はプチトマトとレタスと目玉焼きとベーコン、お気に入りのクロワッサンだった。
「美味しそうだけど、ちと多い・・・。」
正直に申告すると、顔を顰められた。彼の前の皿には私の倍量が乗っている。
「疲れが溜まってんのか?お前、細すぎるんだから、もっと食べないと昼までもたないぞ。しょうがないな、野菜は食べろ、クロワッサンはお前の好物だから、目玉焼きとベーコン半分よこせ。手伝ってやる。」
そう言いながら、ナイフでそれらを半分に切ると器用に自分の皿に移した。
「疲れてるとは思わないんだけど。昼まで座ってるだけだから、そんなにお腹空かないと思うよ。」
言い訳しながら野菜を先に片付ける。好物は後にとっておく派だ。
「そいや、今朝来たのは誰だった?」
思い出したかのように尋ねられ、首をひねる。
「うーん、ほら、あれだ、一番かわいい、銀髪の女の子。」
「ああ、テレーズだな。了解。後でフォローしとく。」
「マメだねえ。」
「せっかくの新人に直ぐ辞められたらこっちも困るんだよ。しかも理由が俺とか、本当に止めてくれよ。」
私は食後のお茶を飲みながらこっくりと頷く。
何年前だったか、朝の突撃女子達が一斉に辞めて、当時の所長にもっと上手くやりなさい、って怒られてたな。
ルキウスが食器を片付けるついでに、私のコップも取り上げ、ぼちぼち身支度を終わらせてこいと言ってきた。
時計を見るといつもより早い。
「えー、まだ時間あるじゃない。お茶おかわりしたい。」
「時間あるから、こないだ覚えた新しい髪型をやってみたい。だから早くしろ。お茶のおかわりは三時のおやつと一緒に出してやるから。」
「おやつは、さっきのお礼に五番街のケーキ屋のフルーツタルトだといいな!」
「わかった。注文しとくから、さっさと着替えてこい。」
俺はガトーショコラにしようと言いつつ、ルキウスは魔術でケーキ屋に注文を出す。
この国では全員が魔術を使うことができる。
中等学校までで火や水の扱い、遠くとの連絡など生活に最低限必要な簡単な魔術を習う。
適性や興味があれば魔術学校に進んで、さらに多くの魔術を学び、国家試験に受かれば魔術師となる。
医療から武官まで(もちろん魔術師でなくてもなれるが、付加価値が付いてお給料が高い)就職先は多岐に渡り、魔術師を目指す人は多いが、適性のある人は意外と少ない。
なので、魔術師というと、すごいねと言われるが、続けて研究所勤めと言うと急に変人として見られる。
確かに研究所の所員達は、自分の専門分野の魔術はトップレベルだが、変わり者が多いことで有名だ。
私は自分をそうではないと思っているが、学生時代は調査や解読などに没頭すると寝食と時間を忘れてしまい、限界を超えてぶっ倒れるということを繰り返していた。
その度に委員長だったルキウスに助けられ、回復してもらったりしている内に、友人になり、ついには倒れるのを未然に防ぐという目的で世話をしてもらうことになって、現在に至る。
ルキウスは何でもできる男で、就職する時も、最高位の城付き魔術師から声が掛かっていた。それを断って研究所に来たのだから、彼も変わり者なんだろうと密かに思っている。
ルキウスがケーキを注文してくれたのを確認して、私はおやつを楽しみに、うきうきと自分の部屋に戻った。クローゼットを開けてルキウスが着ているのと同じ制服の白シャツに細身の黒ズボンに着替える。制服にはスカートもあるが、私は持っていない。後は出かける直前に、この上から普段用の黒いローブを羽織れば完成だ。忘れずに鞄に昨夜読んでいた資料を入れ、読みかけの本も入れ、催促が矢のように来ている提出書類も突っ込んで蓋を閉じる。
膨らんだ鞄を抱えて居間に行くと、ブラシを手にしたルキウスが待っていた。毎朝のことなので私は無言でルキウスの前に置かれている椅子に座って、雑に束ねていた髪を解く。お互い髪の長さは同じくらいで腰上まである。さらさらストレートの私の黒髪は、しっかり梳かして結ぶと直ぐに紐が抜けて難しい。
もちろん、昔は自分で結っていたが紐が抜けない対策として櫛を通さず雑に一つにしただけの髪を見た彼が、せっかくのきれいな髪がもったいないと言い出してたちまち流行りの髪型などを覚えてきて私を飾るようになったのだ。
ちなみに彼の髪はちょっとだけ癖があるので、だいたいみつあみにしている。下ろしているとふわっとして私は結構好きなのだが、恋人同士でもないし、それを言ったことはない。
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