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番外編2 晴れの日に 後編
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「まあ!」
花嫁が幌馬車から降りて大地に足をつけた途端、ポンポンポンと花が開いていく。地に咲く数多の花々が、新夫婦を歓迎するかのように二人の行く先を彩っていた。
茜色の花嫁衣装を身に纏った新妻は初め驚いて立ち止まったものの、夫のエンシオに手を取られて直ぐに幸せそうな笑顔を浮かべて歩き出した。そんな二人に集まった村人達から祝福の言葉が降り注ぐ。
「おめでとう」
「綺麗なお嫁さんね!」
「末永くお幸せに!」
「うわあ、素敵ですね!」
アルヴィの横からため息とともに声が上がる。そっと視線を向ければ、腕にしがみつくようにして、キラキラと目を輝かせたネイリッカが新婚夫婦を見つめていた。
先程からずっと繋いでいる細くて柔らかい手から彼女の興奮と二人への祝福の気持ちが伝わってくる。きっと、彼女からあふれたその気持ちが花を咲かせているのだろう。
・・・次は僕達の番だねって言ったら、ネイリッカはどんな反応をするかな?
尋ねてみようと思ったものの、突如として周辺の野菜や花全てが巨大化したり狂い咲きそうな気がしたので今はやめておいた。そうなりそうなくらいには好かれている自信がある。
「あっ、ネイリッカいた!」
「サッラ! おかえりなさい」
その一声でパッと繋いでいた手が離れてネイリッカは友人の元へ駆けていく。アルヴィは温もりの残った手を閉じたり開いたりして名残を惜しみつつ頬を緩めた。
・・・これでネイリッカといつでも手を繋ぐことができるようになった。次は新しい髪型を覚えて結ってあげると言って髪に触れられるようにして、その次は抱きしめる・・・のは、まだ早いか。腕を組む、とかどうかな。
アルヴィは笑顔の裏で、突如として恥ずかしがり屋になってしまった婚約者との距離を縮めるべく、密かに計画を練っていた。
「よお、アル。なんか悪巧みしてる?」
「おかえり、リュリュ。失礼な、明るい将来計画と言ってくれない?」
サッラがいたということは当然リュリュもいるというわけで、早速やって来た彼の指摘を笑って躱す。
「いや、どう見てもあの顔は邪なこと考えてたろ」
「まさか、そんな訳ないだろ。・・・で、エンシオの結婚式はどうだった? メッツァはうちとやり方違ってたりした?」
「いや、大体おんなじ。神様の前で誓って終わり。正直、俺は畏まって立ってるだけで疲れた。でも、元メッツァ領主館の祭事室は豪華だったぜ。この村のショボいのとは大違い!」
「そうなんだ。僕達もそっちで式挙げようかなあ」
「ネイリッカのおかげで村の資金に余裕できたんだろ? 俺も多分いつか使うし、建て替えれば?」
「そこまでは溜まってないんじゃないかなあ。もっと優先すべきことがあると思うし」
「そりゃ、そうか」
そういえばネイリッカ達はどこに行ったのかな、と会場を眺めれば、いつの間にか新郎新婦が席に着き宴が始まろうとしていた。慌ててリュリュと乾杯の盃を取りに行く。
ネイリッカとサッラも近くのテーブルに居て、同じ未成年用の飲み物を手に笑い合っていた。
まだ、恋人より友達なんだなあ。当面のライバルはサッラか。
先は長そうだ、とつぶやく今年飲酒可能年齢に達したアルヴィも、つい習慣で酒以外を手にして乾杯してしまった。見れば隣のリュリュも同じ物を飲んでいて思わず笑ってしまった。
「僕達、まだ半分子供なのかもね」
「そりゃ、そうだ。そんな直ぐに変われねえよ」
言いつつ手に中のコップを空にしたリュリュは今度はそれに酒を注ぐ。
「俺は呑む!」
おー、と周囲が囃し立て一口飲んだリュリュは盛大に顔を顰めた。
「うまい! 兄ちゃん結婚おめでとう!」
そのままゴクゴクと飲み干したリュリュは真っ赤な顔になってアルヴィにもたれ掛かってきた。
「おかわりー」
「何言ってんの、もうおしまいだよ。リュリュは本当にお酒に弱いんだから」
仕方ないな、と肩に担ぎ上げて館の中へ運ぶ。ここはメッツァの館と違って応接室だのソファだのという立派なものはないので、止むを得ず床に転がす。
せめて何か掛けるものを取ってこようと自室へ行って厚めの布を持って降りてきたところで、ネイリッカが飛び込んできた。
「ヴィー、いますか?!」
「リッカ、僕を探してたの? 何かあった?」
息を弾ませている彼女の後ろからサッラもやって来て、酔い潰れている兄に呆れた声を出す。
「リュリュ兄ちゃん、お酒弱いのに呑むのは好きなのよね。アル、ありがとう。後は私が面倒見るからアルはネイリッカと一緒に行って。もうすぐ雨が降るんだって」
サッラの言葉にアルヴィが立ち止まってネイリッカを見る。
「え? 今日は一日晴れだって今朝言ってたよね?」
「はい、その予定でしたが先程突然通り雨が来ると。それで、お父さんに報告に行こうと思ったのですが・・・」
言葉を切って窓の外を見たネイリッカの視線を辿ったアルヴィは、そこにリュリュと同じく赤い顔で村人と騒ぐ父を認めた。
「そいや、父さんもお酒に弱いんだった。よしリッカ、僕が代わりに一緒に考えるよ。この館に全員避難は難しいから、いい方法を考えなくちゃ」
ありがとうございます、とホッとした表情になったネイリッカからキラリと光がこぼれ落ちて、アルヴィの脳裏に案が閃いた。
「会場に屋根を作ろう!」
「ええっ!? 今からですか!?」
「そんなの間に合わないわよ」
「大丈夫! リッカ、外へ行こう」
驚くネイリッカの手を引いて扉を開ける。生き生きと茂る緑の草を踏みしめて空を見上げれば、明るい太陽の光が天を照らし青く晴れ渡っていた。これから雨が降るなんて思えない。こういう突然の天気の変化は『空読み姫』でも直前にしか分からないらしい。
「リッカ、雨は後どれくらいで降ってくる?」
「二十、いえ、十五分程かと。ああ、もう間に合いません。せっかくのエンシオの結婚披露の宴が・・・」
同じように空を見上げ、眉を寄せた彼女は自分を責めるようにうなだれた。
「君がいるんだから大丈夫だって」
「ですが、今からだと皆に言って回るくらいしかできません。人は雨を避けれても皆で作った会場がびしょびしょに濡れてしまっては・・・」
「だから全部を屋根で覆っちゃおう」
「そんなことは不可能です・・・」
アルヴィは困惑顔のネイリッカの前へ腕を突き出して、真っ直ぐに会場の向こうの畑を指差した。
「リッカ、あそこに里芋が植わってるだろ?」
「ハイ、お父さんが『これは葉っぱが傘になるからなー』と毎年嬉しそうに植えていますね・・・あっ」
ネイリッカがパッと顔を輝かせると同時にドンッと音がして里芋の大きな葉が巨大化した。ただ、ようやく主役二人の頭上に届くくらいで、会場全体を覆うには全くもって足りない。
アルヴィは芋の葉をもっと大きくすべく、その場に座り込んで両手を地につけ目を閉じ眉間に力を入れてうーんと唸っているネイリッカの腕を取って立ち上がらせた。
「リッカ、手を出して」
ハイ、と首を傾げながらも素直に両手を差し出す婚約者の可愛さに口元を緩めたアルヴィはそれに自分の手をキュッと絡めた。
「ヴィー!?」
ボボンッと里芋の隣のトマトとバジルが大きくなり里芋に負けじと会場へ葉を広げた。
「ねえ、リッカ。花嫁さんの茜色のドレス、綺麗だったね」
「はいっ!」
元気に答えたものの、会話の意図が分からず戸惑うネイリッカに、アルヴィは満面の笑みでささやいた。
「僕はリッカがあのドレスを着て僕の隣に座る日がとっても楽しみで待ち遠しいよ!」
ドーン、ドオオンッ
遂に大きな地響きとともに、畑の野菜のみか辺りの植物が手当たり次第に巨大化し会場を覆った。
「なんだなんだ」
「どうしたどーした」
騒ぐ村人達の耳にサーッと雨の音が聞こえてきた。
「お、雨じゃねえか」
「まあ、これ会場の傘代わりじゃない?」
皆が静かになって天から降り注ぐ恵みに耳を傾けているうちにそれは通り過ぎ、葉の隙間から再び太陽の光が差し込んできた。
「皆、空を見て!」
館から大きくなったかぼちゃの葉を傘代わりにさしてきたサッラの言葉で、会場を囲んでいる巨大植物をかき分け空を見上げた新婚夫婦と村人達は感嘆の声を上げた。
「おお」
「わあー、虹だ!」
「天からの結婚祝いだね!」
花嫁が幌馬車から降りて大地に足をつけた途端、ポンポンポンと花が開いていく。地に咲く数多の花々が、新夫婦を歓迎するかのように二人の行く先を彩っていた。
茜色の花嫁衣装を身に纏った新妻は初め驚いて立ち止まったものの、夫のエンシオに手を取られて直ぐに幸せそうな笑顔を浮かべて歩き出した。そんな二人に集まった村人達から祝福の言葉が降り注ぐ。
「おめでとう」
「綺麗なお嫁さんね!」
「末永くお幸せに!」
「うわあ、素敵ですね!」
アルヴィの横からため息とともに声が上がる。そっと視線を向ければ、腕にしがみつくようにして、キラキラと目を輝かせたネイリッカが新婚夫婦を見つめていた。
先程からずっと繋いでいる細くて柔らかい手から彼女の興奮と二人への祝福の気持ちが伝わってくる。きっと、彼女からあふれたその気持ちが花を咲かせているのだろう。
・・・次は僕達の番だねって言ったら、ネイリッカはどんな反応をするかな?
尋ねてみようと思ったものの、突如として周辺の野菜や花全てが巨大化したり狂い咲きそうな気がしたので今はやめておいた。そうなりそうなくらいには好かれている自信がある。
「あっ、ネイリッカいた!」
「サッラ! おかえりなさい」
その一声でパッと繋いでいた手が離れてネイリッカは友人の元へ駆けていく。アルヴィは温もりの残った手を閉じたり開いたりして名残を惜しみつつ頬を緩めた。
・・・これでネイリッカといつでも手を繋ぐことができるようになった。次は新しい髪型を覚えて結ってあげると言って髪に触れられるようにして、その次は抱きしめる・・・のは、まだ早いか。腕を組む、とかどうかな。
アルヴィは笑顔の裏で、突如として恥ずかしがり屋になってしまった婚約者との距離を縮めるべく、密かに計画を練っていた。
「よお、アル。なんか悪巧みしてる?」
「おかえり、リュリュ。失礼な、明るい将来計画と言ってくれない?」
サッラがいたということは当然リュリュもいるというわけで、早速やって来た彼の指摘を笑って躱す。
「いや、どう見てもあの顔は邪なこと考えてたろ」
「まさか、そんな訳ないだろ。・・・で、エンシオの結婚式はどうだった? メッツァはうちとやり方違ってたりした?」
「いや、大体おんなじ。神様の前で誓って終わり。正直、俺は畏まって立ってるだけで疲れた。でも、元メッツァ領主館の祭事室は豪華だったぜ。この村のショボいのとは大違い!」
「そうなんだ。僕達もそっちで式挙げようかなあ」
「ネイリッカのおかげで村の資金に余裕できたんだろ? 俺も多分いつか使うし、建て替えれば?」
「そこまでは溜まってないんじゃないかなあ。もっと優先すべきことがあると思うし」
「そりゃ、そうか」
そういえばネイリッカ達はどこに行ったのかな、と会場を眺めれば、いつの間にか新郎新婦が席に着き宴が始まろうとしていた。慌ててリュリュと乾杯の盃を取りに行く。
ネイリッカとサッラも近くのテーブルに居て、同じ未成年用の飲み物を手に笑い合っていた。
まだ、恋人より友達なんだなあ。当面のライバルはサッラか。
先は長そうだ、とつぶやく今年飲酒可能年齢に達したアルヴィも、つい習慣で酒以外を手にして乾杯してしまった。見れば隣のリュリュも同じ物を飲んでいて思わず笑ってしまった。
「僕達、まだ半分子供なのかもね」
「そりゃ、そうだ。そんな直ぐに変われねえよ」
言いつつ手に中のコップを空にしたリュリュは今度はそれに酒を注ぐ。
「俺は呑む!」
おー、と周囲が囃し立て一口飲んだリュリュは盛大に顔を顰めた。
「うまい! 兄ちゃん結婚おめでとう!」
そのままゴクゴクと飲み干したリュリュは真っ赤な顔になってアルヴィにもたれ掛かってきた。
「おかわりー」
「何言ってんの、もうおしまいだよ。リュリュは本当にお酒に弱いんだから」
仕方ないな、と肩に担ぎ上げて館の中へ運ぶ。ここはメッツァの館と違って応接室だのソファだのという立派なものはないので、止むを得ず床に転がす。
せめて何か掛けるものを取ってこようと自室へ行って厚めの布を持って降りてきたところで、ネイリッカが飛び込んできた。
「ヴィー、いますか?!」
「リッカ、僕を探してたの? 何かあった?」
息を弾ませている彼女の後ろからサッラもやって来て、酔い潰れている兄に呆れた声を出す。
「リュリュ兄ちゃん、お酒弱いのに呑むのは好きなのよね。アル、ありがとう。後は私が面倒見るからアルはネイリッカと一緒に行って。もうすぐ雨が降るんだって」
サッラの言葉にアルヴィが立ち止まってネイリッカを見る。
「え? 今日は一日晴れだって今朝言ってたよね?」
「はい、その予定でしたが先程突然通り雨が来ると。それで、お父さんに報告に行こうと思ったのですが・・・」
言葉を切って窓の外を見たネイリッカの視線を辿ったアルヴィは、そこにリュリュと同じく赤い顔で村人と騒ぐ父を認めた。
「そいや、父さんもお酒に弱いんだった。よしリッカ、僕が代わりに一緒に考えるよ。この館に全員避難は難しいから、いい方法を考えなくちゃ」
ありがとうございます、とホッとした表情になったネイリッカからキラリと光がこぼれ落ちて、アルヴィの脳裏に案が閃いた。
「会場に屋根を作ろう!」
「ええっ!? 今からですか!?」
「そんなの間に合わないわよ」
「大丈夫! リッカ、外へ行こう」
驚くネイリッカの手を引いて扉を開ける。生き生きと茂る緑の草を踏みしめて空を見上げれば、明るい太陽の光が天を照らし青く晴れ渡っていた。これから雨が降るなんて思えない。こういう突然の天気の変化は『空読み姫』でも直前にしか分からないらしい。
「リッカ、雨は後どれくらいで降ってくる?」
「二十、いえ、十五分程かと。ああ、もう間に合いません。せっかくのエンシオの結婚披露の宴が・・・」
同じように空を見上げ、眉を寄せた彼女は自分を責めるようにうなだれた。
「君がいるんだから大丈夫だって」
「ですが、今からだと皆に言って回るくらいしかできません。人は雨を避けれても皆で作った会場がびしょびしょに濡れてしまっては・・・」
「だから全部を屋根で覆っちゃおう」
「そんなことは不可能です・・・」
アルヴィは困惑顔のネイリッカの前へ腕を突き出して、真っ直ぐに会場の向こうの畑を指差した。
「リッカ、あそこに里芋が植わってるだろ?」
「ハイ、お父さんが『これは葉っぱが傘になるからなー』と毎年嬉しそうに植えていますね・・・あっ」
ネイリッカがパッと顔を輝かせると同時にドンッと音がして里芋の大きな葉が巨大化した。ただ、ようやく主役二人の頭上に届くくらいで、会場全体を覆うには全くもって足りない。
アルヴィは芋の葉をもっと大きくすべく、その場に座り込んで両手を地につけ目を閉じ眉間に力を入れてうーんと唸っているネイリッカの腕を取って立ち上がらせた。
「リッカ、手を出して」
ハイ、と首を傾げながらも素直に両手を差し出す婚約者の可愛さに口元を緩めたアルヴィはそれに自分の手をキュッと絡めた。
「ヴィー!?」
ボボンッと里芋の隣のトマトとバジルが大きくなり里芋に負けじと会場へ葉を広げた。
「ねえ、リッカ。花嫁さんの茜色のドレス、綺麗だったね」
「はいっ!」
元気に答えたものの、会話の意図が分からず戸惑うネイリッカに、アルヴィは満面の笑みでささやいた。
「僕はリッカがあのドレスを着て僕の隣に座る日がとっても楽しみで待ち遠しいよ!」
ドーン、ドオオンッ
遂に大きな地響きとともに、畑の野菜のみか辺りの植物が手当たり次第に巨大化し会場を覆った。
「なんだなんだ」
「どうしたどーした」
騒ぐ村人達の耳にサーッと雨の音が聞こえてきた。
「お、雨じゃねえか」
「まあ、これ会場の傘代わりじゃない?」
皆が静かになって天から降り注ぐ恵みに耳を傾けているうちにそれは通り過ぎ、葉の隙間から再び太陽の光が差し込んできた。
「皆、空を見て!」
館から大きくなったかぼちゃの葉を傘代わりにさしてきたサッラの言葉で、会場を囲んでいる巨大植物をかき分け空を見上げた新婚夫婦と村人達は感嘆の声を上げた。
「おお」
「わあー、虹だ!」
「天からの結婚祝いだね!」
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