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番外編
公爵夫妻、思いやる 後編
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あと一行、とペンを走らせてから机に置いて、ふーと大きく息を吐いた。お腹が大きくて動きづらい。
固まった首筋をほぐすように頭を回したところで、同じ部屋で仕事をしている夫の姿が目に入った。
・・・・あら、リーンてば寝てる?
珍しいことに執務机の上に突っ伏してスースー寝息をたてている。
ここ最近、エルベの街案内を書くために外出続きだったから疲れが溜まってたのね。悪いことをしたわ。
やや心配性な夫は私だけが街ヘ行くから屋敷で仕事してて、と言っても聞かない。今回は私も街案内を書きたかったし、もうすぐ生まれかもしれないと思うと今のうちにたくさん街に行っておきたくて、ちょっと意地になって連れ回してしまった。
反省しつつソファに置いてある私のお昼寝用の掛け布を持って彼の側に行く。よく寝てるわねー、と微笑ましく眺めていてふと気がついた。
こんな明るい場所で彼の寝顔を見る機会は滅多にないのでは?! 私は千載一遇のチャンス、と相変わらず綺麗に整った横顔をじっくりと見た。結婚して五年、最近はこうやってお互いの顔を間近で観察することはあまりない。
そうっと髪にも触れてみる。ふわふわの金の髪に陽があたってキラキラしていて、同じ色の長めのまつげも光っている。・・・・誰もが美しいと思う色で、少し羨ましい。
もうすぐ生まれてくる赤ちゃんが彼に似ていることを切に願う。
私は満足するまで夫の寝顔を見た後、起こさないように息を止めて彼の頬にキスをした。それからそっと布を掛けても彼は目を覚まさなかった。
これは相当疲れてるわ、と机の上に積んである書類に目を向ければ、それは妊娠するまでは私がやっていたもので。
代わりにやっておこうと手を伸ばしたら、パッと彼の手がそれを止めた。
「エミィ、それは僕のやるべきことだよ。」
眠そうにしながらも強い意志をぶつけてきた彼に私も強めに言い返す。
「やだ、いつから起きてたの?! リーンは私のことばっかり気遣って自分を後回しにするからこうやって力尽きちゃうのよ。もっと自分も大事にしてもらわないと。この書類なら私がやっても問題ないでしょ?」
彼は頭を振りながら体を起こし、私を見上げてにやっと笑う。
「君が近づいて来た時に目が覚めたんだ。キスは唇がよかったな。エミィ、原稿を書き終わったなら、今やるべきことは休むことでしょ。君が無理して倒れたらお腹の赤ちゃんはどうなるの?」
「ほとんど起きてたんじゃない! もう、寝たフリしてるなんてズルいわよ。私は無理なんてしてないし、こまめに休んでいるわ。それにリーンが倒れたら私も心痛で病気になっちゃうわよ?」
それは困るね、と言いながらリーンの顔に笑顔が弾けた。
「妻に心配してもらえるのは、やっぱり嬉しいな。じゃあ、二人でこれを片付けて、一緒に休もうか。」
「それがいいわ、半分頂戴。」
笑顔で同意して両手を差し出したのに、乗せられたのは四分の一くらいだった。
む、と思ったけれどぱぱっと終らせてから、残り全部を貰いにいっちゃおうと決めて自分の机に戻った。
ところが、私が次を取りに行く前に彼が自分の分を終らせて私の分を取りに来た。
絶対、渡すものかと死守して猛スピードで片付けている間中、彼が机の横にしゃがんで頬杖をつき見上げてきながら、真剣なエミィも可愛いなぁ、本当に君と結婚してよかったな、僕より幸せな男っていないんじゃない? と話し掛けてくるので忍耐を試された。
「もう、邪魔しないでって」
終わったので抗議しようと彼の方を向いた途端、抱きしめられてキスされた。
「エミィ、愛してる」
急で驚いたけれど、私だって愛してる、と言う代わりに両腕を伸ばして彼を抱きしめた。
この八ヶ月間、初めての妊娠で楽しみもあったけれど不安もたくさんあった。最近、彼も同じくらい不安がっているように感じる。
「リーン、子供ができるって不安と楽しみがいっぺんにやって来るのね。でもほら、よく言うじゃない『二人なら不安は半分に喜びは二倍に』って。私は貴方といると不安は十分の一に楽しみは十倍になるのよ」
それを聞いたリーンがぎゅうっと力を込めて抱きしめ返してきた。
「ありがとう、エミィ。僕は一人で悩んで抱え込み過ぎてたみたいだね。君が最優先で大事なのは変わらないけれど、自分自身ももう少し労るようにするよ」
「ええ、私のとっても大切な人なのだから、もっと大事にして頂戴ね!」
「うん、分かった。心配掛けてごめんね。この街案内の原稿はヘンリックに頼んで送っとくよ」
机の上に纏めてある紙束を封筒に入れながら詫びる彼を見てふっと思い出した。
「ねえ、リーンが参考にって王都の街案内書を取り寄せてくれたでしょ?」
「うん」
「それを読んでて気がついたのだけど、私の原稿には酒場の案内がないわ」
「それは、カールに書いてもらおう」
「今回はそうするしかないけれど、領主夫人として領地の酒場を知らないっていうのは良くないと思うの!」
「いや、そこは知らなくてもいいでしょ。君はお酒が全く飲めないんだし、女性が行く所ではないし、僕が知ってるからそれで済むよ」
リーンが慌てて壁を作ってきた。私は王都案内の付箋をつけた頁を開いて、彼の前に差し出した。
「ここを見て! 『女性が安心していける店』『お酒が苦手な方向けの飲み物』最近、こういう酒場もできたみたいなの。エルベにもあるんじゃないかしら?」
首を傾げてじっと薄青の目を見上げれば、彼が苦渋の顔をして小さく両手をあげた。
「分かった、子供が大人になったら一緒に行こう。」
「それはいいわね!この子がお酒を飲めるようになるのは十六年後ね。約束よ、リーン」
■■
「カール!なんて依頼を回してくれたんだ」
「いきなり飛び込んできてどうしたんですか、旦那様」
「街案内のせいでエミーリアが酒場に行きたいって言いだした!」
「ええっ?! 奥様は飲めませんよね?!」
「ああ、全く飲めない。なんなら匂いだけで酔う」
「しかも、今妊婦で」
「そう。だから十六年後に行こうって約束したんだ」
「あ、約束しちゃったんですか。えっ、十六年後?! さすがに忘れてるでしょ」
「そうなんだよ・・・・その間に忘れてくれたらいいなと思うけど、覚えていた時の対策はたてておかないと」
「なんでそれで俺の所に?! 巻き込まないでくださいよ」
「何いってんだ、きっかけを作ったのは君だろ?!」
「そんな、旦那様が許可したじゃないですか! もはや言いがかりですよ、それ!」
「言い掛かりだろうがなんだろうが構わないから、なんとかしろ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶苦茶でもなんでもいい、大事なエミーリアをあんな猥雑な場所に放り込むなんてできるわけ無いだろう?!」
「・・・・そりゃ、そうでしょうよ」
机を挟んで言い合っていた二人はそこで揃ってお茶を飲み、ふーっと息を吐いた。
それからリーンハルトは机に突っ伏して、不貞腐れたように目線だけをカールへ向けた。
「だって僕はエルベの酒場に客として行ったことはないからさ。君にどの店がいいか、評判を聞こうと思って。でさ、君オススメの店を貸し切るのとエミーリアのための店を作って僕が経営するのと、エルベから酒場を一掃するのとどれがいいと思う?」
カールは全くもってこの人はと、げんなりした表情で領主に願った。
「酒場の一掃だけは勘弁してください、旦那様」
◆◆
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
カールが割と気の毒・・・・
同時投稿の『色褪せ令嬢は似合わない婚約を破棄したい 番外編いつかの、未来8』がこの話と連動しておりまして、酒場に行く約束の話になっております。よろしければ読んでやってください。
固まった首筋をほぐすように頭を回したところで、同じ部屋で仕事をしている夫の姿が目に入った。
・・・・あら、リーンてば寝てる?
珍しいことに執務机の上に突っ伏してスースー寝息をたてている。
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やや心配性な夫は私だけが街ヘ行くから屋敷で仕事してて、と言っても聞かない。今回は私も街案内を書きたかったし、もうすぐ生まれかもしれないと思うと今のうちにたくさん街に行っておきたくて、ちょっと意地になって連れ回してしまった。
反省しつつソファに置いてある私のお昼寝用の掛け布を持って彼の側に行く。よく寝てるわねー、と微笑ましく眺めていてふと気がついた。
こんな明るい場所で彼の寝顔を見る機会は滅多にないのでは?! 私は千載一遇のチャンス、と相変わらず綺麗に整った横顔をじっくりと見た。結婚して五年、最近はこうやってお互いの顔を間近で観察することはあまりない。
そうっと髪にも触れてみる。ふわふわの金の髪に陽があたってキラキラしていて、同じ色の長めのまつげも光っている。・・・・誰もが美しいと思う色で、少し羨ましい。
もうすぐ生まれてくる赤ちゃんが彼に似ていることを切に願う。
私は満足するまで夫の寝顔を見た後、起こさないように息を止めて彼の頬にキスをした。それからそっと布を掛けても彼は目を覚まさなかった。
これは相当疲れてるわ、と机の上に積んである書類に目を向ければ、それは妊娠するまでは私がやっていたもので。
代わりにやっておこうと手を伸ばしたら、パッと彼の手がそれを止めた。
「エミィ、それは僕のやるべきことだよ。」
眠そうにしながらも強い意志をぶつけてきた彼に私も強めに言い返す。
「やだ、いつから起きてたの?! リーンは私のことばっかり気遣って自分を後回しにするからこうやって力尽きちゃうのよ。もっと自分も大事にしてもらわないと。この書類なら私がやっても問題ないでしょ?」
彼は頭を振りながら体を起こし、私を見上げてにやっと笑う。
「君が近づいて来た時に目が覚めたんだ。キスは唇がよかったな。エミィ、原稿を書き終わったなら、今やるべきことは休むことでしょ。君が無理して倒れたらお腹の赤ちゃんはどうなるの?」
「ほとんど起きてたんじゃない! もう、寝たフリしてるなんてズルいわよ。私は無理なんてしてないし、こまめに休んでいるわ。それにリーンが倒れたら私も心痛で病気になっちゃうわよ?」
それは困るね、と言いながらリーンの顔に笑顔が弾けた。
「妻に心配してもらえるのは、やっぱり嬉しいな。じゃあ、二人でこれを片付けて、一緒に休もうか。」
「それがいいわ、半分頂戴。」
笑顔で同意して両手を差し出したのに、乗せられたのは四分の一くらいだった。
む、と思ったけれどぱぱっと終らせてから、残り全部を貰いにいっちゃおうと決めて自分の机に戻った。
ところが、私が次を取りに行く前に彼が自分の分を終らせて私の分を取りに来た。
絶対、渡すものかと死守して猛スピードで片付けている間中、彼が机の横にしゃがんで頬杖をつき見上げてきながら、真剣なエミィも可愛いなぁ、本当に君と結婚してよかったな、僕より幸せな男っていないんじゃない? と話し掛けてくるので忍耐を試された。
「もう、邪魔しないでって」
終わったので抗議しようと彼の方を向いた途端、抱きしめられてキスされた。
「エミィ、愛してる」
急で驚いたけれど、私だって愛してる、と言う代わりに両腕を伸ばして彼を抱きしめた。
この八ヶ月間、初めての妊娠で楽しみもあったけれど不安もたくさんあった。最近、彼も同じくらい不安がっているように感じる。
「リーン、子供ができるって不安と楽しみがいっぺんにやって来るのね。でもほら、よく言うじゃない『二人なら不安は半分に喜びは二倍に』って。私は貴方といると不安は十分の一に楽しみは十倍になるのよ」
それを聞いたリーンがぎゅうっと力を込めて抱きしめ返してきた。
「ありがとう、エミィ。僕は一人で悩んで抱え込み過ぎてたみたいだね。君が最優先で大事なのは変わらないけれど、自分自身ももう少し労るようにするよ」
「ええ、私のとっても大切な人なのだから、もっと大事にして頂戴ね!」
「うん、分かった。心配掛けてごめんね。この街案内の原稿はヘンリックに頼んで送っとくよ」
机の上に纏めてある紙束を封筒に入れながら詫びる彼を見てふっと思い出した。
「ねえ、リーンが参考にって王都の街案内書を取り寄せてくれたでしょ?」
「うん」
「それを読んでて気がついたのだけど、私の原稿には酒場の案内がないわ」
「それは、カールに書いてもらおう」
「今回はそうするしかないけれど、領主夫人として領地の酒場を知らないっていうのは良くないと思うの!」
「いや、そこは知らなくてもいいでしょ。君はお酒が全く飲めないんだし、女性が行く所ではないし、僕が知ってるからそれで済むよ」
リーンが慌てて壁を作ってきた。私は王都案内の付箋をつけた頁を開いて、彼の前に差し出した。
「ここを見て! 『女性が安心していける店』『お酒が苦手な方向けの飲み物』最近、こういう酒場もできたみたいなの。エルベにもあるんじゃないかしら?」
首を傾げてじっと薄青の目を見上げれば、彼が苦渋の顔をして小さく両手をあげた。
「分かった、子供が大人になったら一緒に行こう。」
「それはいいわね!この子がお酒を飲めるようになるのは十六年後ね。約束よ、リーン」
■■
「カール!なんて依頼を回してくれたんだ」
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「街案内のせいでエミーリアが酒場に行きたいって言いだした!」
「ええっ?! 奥様は飲めませんよね?!」
「ああ、全く飲めない。なんなら匂いだけで酔う」
「しかも、今妊婦で」
「そう。だから十六年後に行こうって約束したんだ」
「あ、約束しちゃったんですか。えっ、十六年後?! さすがに忘れてるでしょ」
「そうなんだよ・・・・その間に忘れてくれたらいいなと思うけど、覚えていた時の対策はたてておかないと」
「なんでそれで俺の所に?! 巻き込まないでくださいよ」
「何いってんだ、きっかけを作ったのは君だろ?!」
「そんな、旦那様が許可したじゃないですか! もはや言いがかりですよ、それ!」
「言い掛かりだろうがなんだろうが構わないから、なんとかしろ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶苦茶でもなんでもいい、大事なエミーリアをあんな猥雑な場所に放り込むなんてできるわけ無いだろう?!」
「・・・・そりゃ、そうでしょうよ」
机を挟んで言い合っていた二人はそこで揃ってお茶を飲み、ふーっと息を吐いた。
それからリーンハルトは机に突っ伏して、不貞腐れたように目線だけをカールへ向けた。
「だって僕はエルベの酒場に客として行ったことはないからさ。君にどの店がいいか、評判を聞こうと思って。でさ、君オススメの店を貸し切るのとエミーリアのための店を作って僕が経営するのと、エルベから酒場を一掃するのとどれがいいと思う?」
カールは全くもってこの人はと、げんなりした表情で領主に願った。
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◆◆
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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