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第四章 公爵夫妻、欺く。
4−20終 閑話2
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※リーンハルト視点
僕は今、未知の世界に足を踏み入れている。
本来なら女性だけの空間にひっそり混ざっているこの緊張感ときたら。
あれからエミーリアの侍女になるために練習を重ねた。
主に僕の煩悩との戦いだったんだけど、なんとか抑え込むことに成功したので、今日は集大成として王妃殿下のお茶に付き添うことにした。
本来の仕事である王太子補佐の方は、本日城外で仕事ということにしてある。元々その予定だったところに、お茶の誘いが来たこともあり丁度良かった。
ちなみにそっちの仕事は早朝に僕じゃなきゃいけない所を終わらせて、残りはヘンリックがしている。
で、僕はリーゼルとしてここにいる。
母が相手だとバレる確率は高いかなと思ったけれど、そこをクリアできないと敵も騙せないだろうと決行した。
顔を合わせた時、流石に顔のあざには驚かれたし、話せないということで不便じゃない?と不満そうだったけれど、僕だとはバレなかった。
エミーリアも最初かなり緊張していたけれど、今は落ち着いて母と話している。
侍女の精神を忘れないよう壁際に立ちつつ、僕のいないところで母とエミーリアはこんな風に話してるんだなあと興味深く眺めていた。
その時、母が声を下げてこちらに聞こえないようにエミーリアに何かを言った。
妻のうなじがみるみるうちに赤くなったので、多分その手の話題なのだろうとあたりをつける。
あの彼女の細くて、すっとしたすべすべのうなじが侍女になった僕を誘惑してきてたまらない。何度、あれに負けたことか。
ついには侍女になっている間に手をだしたら一緒に寝ないとまでいわれて、死にものぐるいで我慢した。本当に悟りが開けそうだった。
その分、夜は我慢しなかったらそれはそれで彼女に怒られた。
ちょっとだけ理不尽という言葉が頭をよぎった・・・。
彼女の後ろを歩いているといい匂いがして、ついふらふらっと手をだしてしまうんだけど、あれは何か彼女の身体からでているんだろうか?
もしそうなら、それは僕にだけ有効なのか、他の男も引き寄せられてしまうのか、早急に見極めなくてはいけないと考えている。
僕以外も引き寄せるなら、彼女を大事に包んで部屋にしまっておきたい。
本当にできることなら、綺麗なガラスケースに入れて飾っておきたいと思っているくらいだけど、それは不可能だとわかっている。
・・・ただのどうしようもない男の願望だよ。
頭の中でくだらないことを考えていると、ふっとアルコールの匂いがした。
匂いの元を辿れば、母の侍女が新しく持ってきたパウンドケーキに行き着いた。
僕はさっとエミーリアの所へ行き、それを食べないように身振り手振りで伝える。
彼女は驚いていたけど、頷いて母へ頭を下げた。
「お義母様、申し訳ありません。こちらのお菓子は私には食べられないようです。先日のようなことになっては、またご迷惑をかけてしまいますので。」
「あら、これも駄目なの。随分厳しいのね。わかったわ、包ませるからリーンへのお土産に持って帰って頂戴。」
残念そうな母の言葉に、エミーリアはすまなさそうな顔をしたけど、僕への土産と聞いて嬉しそうな顔をした。
なんでそんなに可愛いの!思わず抱きしめたくなった僕はさっと壁際へ戻る。危ない危ない。
そんな僕の動きをじっと見ていた母が、首をひねる。
「リーゼルといったかしら、エミーリアの新しい侍女。来たばかりなのに、この場であのような行動をとれるなんて。リーンは、貴方のことだけを考えて動く子を選んだのね。本当に大事にされていて羨ましいわ。」
ぱっとこちらを振り返ったエミーリアはみるみるうちに赤くなり、否定のような肯定のようなことを言いながら、母に向かって両手を勢いよく振っている。
ちょっと不審を持たれたかと焦ったけれど、エミーリアの反応が面白かったために母の気が逸れて助かった。
■■
「あー、いつも以上に緊張したわ!でも、お母様にもバレなかったわね。凄いわ、リーゼル!」
馬車が動き出すなり、エミーリアが嬉しそうに言う。
彼女との約束で、リーンと呼ばれるまで『僕』に戻れないため、大きく首を縦に振って彼女に同意した。
そろそろ『僕』に戻してくれないかな、と目線で訴えたつもりだったのに、彼女は一向に名前を呼んでくれない。
それどころか、うとうとし始めて、ついにはことんと僕の肩に寄りかかって寝てしまった。
今日はいつもよりずっと緊張していたから、疲れたんだろう。
肩にかかる重みと温もりを感じながら、僕は心の中で葛藤していた。
この場合、侍女としてはどうすればいいんだろうか。
自分が寝てしまった場合なんて彼女は知らないだろうし、ロッテも教えてくれなかった。
もうこのまま屋敷に帰るだけだし、勝手に『僕』に戻ってもいいだろうか?
でも、彼女の目が覚めて約束を破ったと言われて今夜一緒に寝てもらえなかったら、凄く困る。だって、今日のエミーリアも、とても可愛かったから色々と・・・ね。
どうすれば、どうしよう、とりあえず膝枕にするだけでも、と悩んでいたら、寝ている彼女が呟いた。
「リーン・・・。」
よし、呼ばれた!
瞬時に僕は『僕』に戻って、彼女の頭を自分の膝に移動させた。
それからゆっくり彼女の寝顔を見つめながら彼女に触れる。
無防備なその顔を見ていたら、衝動が込み上げてきた。今、手をだしたら止められる自信がない。こんなところで寝ている彼女にそれはマズい。
気持ちを抑えるべくぎゅっと目を閉じて心を落ち着けていたら、いつの間にか自分も寝てしまっていた。
■■
オマケ~お土産の味は?~
「リーン、美味しい?」
夕食後に母からもらってきた洋酒入りのパウンドケーキを食べていたら、エミーリアが羨ましそうに尋ねてきた。
「うん、美味しいよ。」
例のチョコほどじゃないけど、お酒がよくきいててね・・・。
母の基準がわからない。なぜこれなら大丈夫だと思ったのだろう。うちの家族に酒に弱い人がいないからいけないのか?
「いいなあ、リーンは色々なお菓子が食べられて。世の中、お酒入りのお菓子が多すぎない?」
自分の前に置かれた料理長特製人参ケーキにフォークを入れつつ、妻がじっと僕の手元を見つめてきた。
・・・負けました。わかりました。
僕は自分の皿のケーキを小さな小さな一口サイズに切って、彼女の口元に差し出した。
「これくらいなら、大丈夫じゃない?食べてみる?」
彼女の顔がぱっと輝いた。
君、意外とお菓子に対する執着が大きいよね。
「いいの?!嬉しい、ありがとう!いただきます。」
ぱくっと食べた彼女は幸せそうな顔で味わっている。
「確かにお酒が結構きいてるけど、ドライフルーツがたくさん入っていて美味しい。」
喜んでそんな感想を述べていたけれど、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっていった。
あれだけでも、だめかー・・・。
「りーん、もっとほしいな?」
ああ、妻が酔ってしまった。
あの量だからすぐに元に戻るとは思うけれど、もう追加はするまい。
心を鬼にして、ふわふわと笑っている彼女を支えながら水を飲ませる。
飲み終わった彼女が、ぎゅうっと僕の首に腕を巻きつけてきた。
待って、やめて、普段そんなに積極的じゃないでしょ。なんで、同意が得られない酔った時だけ、そんなに大胆なの?!
「りーん、だいすき。おかわりちょうだい?」
耳元で囁かれて僕は撃沈した。
誰か、助けて・・・!
僕は今、未知の世界に足を踏み入れている。
本来なら女性だけの空間にひっそり混ざっているこの緊張感ときたら。
あれからエミーリアの侍女になるために練習を重ねた。
主に僕の煩悩との戦いだったんだけど、なんとか抑え込むことに成功したので、今日は集大成として王妃殿下のお茶に付き添うことにした。
本来の仕事である王太子補佐の方は、本日城外で仕事ということにしてある。元々その予定だったところに、お茶の誘いが来たこともあり丁度良かった。
ちなみにそっちの仕事は早朝に僕じゃなきゃいけない所を終わらせて、残りはヘンリックがしている。
で、僕はリーゼルとしてここにいる。
母が相手だとバレる確率は高いかなと思ったけれど、そこをクリアできないと敵も騙せないだろうと決行した。
顔を合わせた時、流石に顔のあざには驚かれたし、話せないということで不便じゃない?と不満そうだったけれど、僕だとはバレなかった。
エミーリアも最初かなり緊張していたけれど、今は落ち着いて母と話している。
侍女の精神を忘れないよう壁際に立ちつつ、僕のいないところで母とエミーリアはこんな風に話してるんだなあと興味深く眺めていた。
その時、母が声を下げてこちらに聞こえないようにエミーリアに何かを言った。
妻のうなじがみるみるうちに赤くなったので、多分その手の話題なのだろうとあたりをつける。
あの彼女の細くて、すっとしたすべすべのうなじが侍女になった僕を誘惑してきてたまらない。何度、あれに負けたことか。
ついには侍女になっている間に手をだしたら一緒に寝ないとまでいわれて、死にものぐるいで我慢した。本当に悟りが開けそうだった。
その分、夜は我慢しなかったらそれはそれで彼女に怒られた。
ちょっとだけ理不尽という言葉が頭をよぎった・・・。
彼女の後ろを歩いているといい匂いがして、ついふらふらっと手をだしてしまうんだけど、あれは何か彼女の身体からでているんだろうか?
もしそうなら、それは僕にだけ有効なのか、他の男も引き寄せられてしまうのか、早急に見極めなくてはいけないと考えている。
僕以外も引き寄せるなら、彼女を大事に包んで部屋にしまっておきたい。
本当にできることなら、綺麗なガラスケースに入れて飾っておきたいと思っているくらいだけど、それは不可能だとわかっている。
・・・ただのどうしようもない男の願望だよ。
頭の中でくだらないことを考えていると、ふっとアルコールの匂いがした。
匂いの元を辿れば、母の侍女が新しく持ってきたパウンドケーキに行き着いた。
僕はさっとエミーリアの所へ行き、それを食べないように身振り手振りで伝える。
彼女は驚いていたけど、頷いて母へ頭を下げた。
「お義母様、申し訳ありません。こちらのお菓子は私には食べられないようです。先日のようなことになっては、またご迷惑をかけてしまいますので。」
「あら、これも駄目なの。随分厳しいのね。わかったわ、包ませるからリーンへのお土産に持って帰って頂戴。」
残念そうな母の言葉に、エミーリアはすまなさそうな顔をしたけど、僕への土産と聞いて嬉しそうな顔をした。
なんでそんなに可愛いの!思わず抱きしめたくなった僕はさっと壁際へ戻る。危ない危ない。
そんな僕の動きをじっと見ていた母が、首をひねる。
「リーゼルといったかしら、エミーリアの新しい侍女。来たばかりなのに、この場であのような行動をとれるなんて。リーンは、貴方のことだけを考えて動く子を選んだのね。本当に大事にされていて羨ましいわ。」
ぱっとこちらを振り返ったエミーリアはみるみるうちに赤くなり、否定のような肯定のようなことを言いながら、母に向かって両手を勢いよく振っている。
ちょっと不審を持たれたかと焦ったけれど、エミーリアの反応が面白かったために母の気が逸れて助かった。
■■
「あー、いつも以上に緊張したわ!でも、お母様にもバレなかったわね。凄いわ、リーゼル!」
馬車が動き出すなり、エミーリアが嬉しそうに言う。
彼女との約束で、リーンと呼ばれるまで『僕』に戻れないため、大きく首を縦に振って彼女に同意した。
そろそろ『僕』に戻してくれないかな、と目線で訴えたつもりだったのに、彼女は一向に名前を呼んでくれない。
それどころか、うとうとし始めて、ついにはことんと僕の肩に寄りかかって寝てしまった。
今日はいつもよりずっと緊張していたから、疲れたんだろう。
肩にかかる重みと温もりを感じながら、僕は心の中で葛藤していた。
この場合、侍女としてはどうすればいいんだろうか。
自分が寝てしまった場合なんて彼女は知らないだろうし、ロッテも教えてくれなかった。
もうこのまま屋敷に帰るだけだし、勝手に『僕』に戻ってもいいだろうか?
でも、彼女の目が覚めて約束を破ったと言われて今夜一緒に寝てもらえなかったら、凄く困る。だって、今日のエミーリアも、とても可愛かったから色々と・・・ね。
どうすれば、どうしよう、とりあえず膝枕にするだけでも、と悩んでいたら、寝ている彼女が呟いた。
「リーン・・・。」
よし、呼ばれた!
瞬時に僕は『僕』に戻って、彼女の頭を自分の膝に移動させた。
それからゆっくり彼女の寝顔を見つめながら彼女に触れる。
無防備なその顔を見ていたら、衝動が込み上げてきた。今、手をだしたら止められる自信がない。こんなところで寝ている彼女にそれはマズい。
気持ちを抑えるべくぎゅっと目を閉じて心を落ち着けていたら、いつの間にか自分も寝てしまっていた。
■■
オマケ~お土産の味は?~
「リーン、美味しい?」
夕食後に母からもらってきた洋酒入りのパウンドケーキを食べていたら、エミーリアが羨ましそうに尋ねてきた。
「うん、美味しいよ。」
例のチョコほどじゃないけど、お酒がよくきいててね・・・。
母の基準がわからない。なぜこれなら大丈夫だと思ったのだろう。うちの家族に酒に弱い人がいないからいけないのか?
「いいなあ、リーンは色々なお菓子が食べられて。世の中、お酒入りのお菓子が多すぎない?」
自分の前に置かれた料理長特製人参ケーキにフォークを入れつつ、妻がじっと僕の手元を見つめてきた。
・・・負けました。わかりました。
僕は自分の皿のケーキを小さな小さな一口サイズに切って、彼女の口元に差し出した。
「これくらいなら、大丈夫じゃない?食べてみる?」
彼女の顔がぱっと輝いた。
君、意外とお菓子に対する執着が大きいよね。
「いいの?!嬉しい、ありがとう!いただきます。」
ぱくっと食べた彼女は幸せそうな顔で味わっている。
「確かにお酒が結構きいてるけど、ドライフルーツがたくさん入っていて美味しい。」
喜んでそんな感想を述べていたけれど、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっていった。
あれだけでも、だめかー・・・。
「りーん、もっとほしいな?」
ああ、妻が酔ってしまった。
あの量だからすぐに元に戻るとは思うけれど、もう追加はするまい。
心を鬼にして、ふわふわと笑っている彼女を支えながら水を飲ませる。
飲み終わった彼女が、ぎゅうっと僕の首に腕を巻きつけてきた。
待って、やめて、普段そんなに積極的じゃないでしょ。なんで、同意が得られない酔った時だけ、そんなに大胆なの?!
「りーん、だいすき。おかわりちょうだい?」
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誰か、助けて・・・!
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