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第四章 公爵夫妻、欺く。
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※エミーリア視点
ふーっと大きなため息をついた彼が、私の肩に額をつけた。
「エミィ、僕は久々に令嬢達の相手をして、疲れたよ。結婚してどれだけ楽になっていたか、しみじみ感じた。君が僕の妻でいてくれることに感謝してる。ありがとう。」
あら、言いたかったことを先に言われちゃったわ。
いつもの癖で、弱音を吐く彼の頭を撫でながら私からも彼に礼を言う。
「私こそ、貴方の妻でなければ社交界でとんでもない扱いを受けていたわ。今日は、今まで貴方にとても守られていたと身に沁みたの。リーン、ありがとう。」
心からそう伝えれば、頭を起こした彼がちょっと照れたような表情で私の頬にキスをした。
「そんなことない。ウェーザー伯爵夫人のように、君だけを見てくれる人もたくさんいるはずだよ。大体、君を酷く扱うやつの目は節穴なんだ。しっかり見れば君がどれだけ素敵な人か分かるのに、もったいない。そういえば、これから長く付き合っていけそうな人は見つけられた?」
「ええ、おかげさまで。誰もいないと思っていたから驚いたわ。」
「目が良い人達もいるってことだね。君より僕の方がこの立場が無くなれば、誰も寄って来ないよ。」
彼が素でも人気があることは証明済みなので、それに関しては異議があるけれど、ここでは黙っておく。
リーンが真面目な顔になって再度私の両手を握ってきた。
この握り方は、彼が私に詫びたいことがある時によくやる仕草だ。何を言われるのかと私は身構えた。
「本当はね、今夜、僕が話をしたかった令嬢は二、三人だったんだ。でも、それだと後で第二夫人候補とか言われそうで煩わしいから、あの場にいた令嬢を片っ端から相手しとけば紛れるかなと思ったのだけど。」
「なるほど・・・。」
その説明で私の中で燻っていたものが一応消火された。
だけど、彼は悲しそうな顔になって更に続ける。
「でもそれは間違いだった。君が段々不満そうな表情になるのに気がついて、嫉妬される嬉しさと同時に嫌われてしまわないかと心が冷えた。エミィ、僕を許してくれる?」
「許すも許さないもないわよ。大体、私のためにしてくれているのに。そりゃ、ちょっと・・・だいぶ、焼き餅を焼いた・・・気がするけど。演技だってわかってたはずなのに、駄目ね。」
心情を正直に吐露すると、リーンが薄青の目を瞬かせて優しい顔になった。
「エミィ、可愛い。焼き餅を焼いてくれて嬉しい。でも、僕がこんなことしたいのは君だけだから、安心して。」
彼はそう言いながら、両手をぎゅっと握り直してふわりと口付けてきた。
そこで、気がついた。
今の状況を誰かに見られたらこれまでの作戦が失敗に終わるのでは?!
「リーン、離れましょ!今日は仲が冷めてる設定なのよ。」
ぐぐーっと彼の身体を押しやれば、ぎゅーっと頭の後ろにも手を回されてきつく抱きしめられる。
「もう君に嫌な思いをさせるのも、わざと別行動するのも嫌だ。違う方法を考えよう。」
「リーン。私はこうやって貴方と一緒に首謀者探しが出来ることがとても嬉しいの。そりゃ、思ったより皆の態度が変わり過ぎて驚いたし、不安になったり、嫉妬したりもしたけど、屋敷で大人しく待つだけよりずっといい。だから、最後までやりましょう?」
彼は直ぐには動かなかったが、私が再度押すと大人しく従った。
離れつつ、最後に指先だけ軽く握った状態で名残惜しげに止まる。
どうしたのかと目線を上げると、もう一度優しい触れるだけのキスが唇に落とされて、彼が迷ったように口を開いた。
「あのさ、エミィはいつからあんなことを考えてたの?」
「あんなことって?」
「公爵家を出て、他で雇って貰うとか、ぬいぐるみの行商とか・・・」
そう言う彼の顔は、今にも泣き出しそうだ。
あれを聞いて私が出て行かないか、不安になったのね。
私からも彼の手をきゅっと握って、安心させようと笑顔を向けた。
「あれは、あの人が私が公爵家を追い出されたら行くところがないように言うものだから、言い返したかっただけなの。さっき思いついただけよ。貴方と離れるなんて今まで考えたことないわ。」
「そう、なの?よかった。僕は君が出て行きたいと思うほど、ハーフェルト公爵夫人の立場が嫌なのかと思ったよ。それなら、爵位を誰かに譲って僕も一緒に君と出て行こうと考えた。」
最後の台詞に私は固まった。
いやいや、貴方まで出ていっちゃ駄目でしょ・・・?
でも、それも楽しそう。
「じゃあ、お互いこの立場がたまらなく辛くなったら、二人でぬいぐるみの行商をして世界中をまわりましょ?」
「いいね。絶対に僕を置いて行かないでよね。」
本当に嬉しそうに、リーンが笑った。
二人とも実現しないと分かっているけれど、想像するだけで心が軽くなった。
「さて、もう屋敷に帰ろう。仕込みは終わったし、また夜会に戻って君と離れるのは耐えられないよ。」
「こんな時間に帰ってもいいのかしら?」
「あれだけ話題を提供したら、もういいでしょ。僕は屋敷で気兼ねなく君と一緒にいたいんだ。」
リーンはもう帰る気満々で、私の手を引いて今にも馬車の所へ行きそうだ。
「ハーフェルト公爵閣下。馬車のご用意ができています。」
そこに突然、フィリップがやって来てそう告げたものだから、流石にリーンも驚いて彼を見上げた。
「え、今頼もうとは思ってたけど・・・あれ?」
フィリップは説明が足りなかったことに気がついて、言い足した。
「いえ、陛下に先程の件をご報告に上がりましたところ、王妃殿下より『ハーフェルト公爵夫妻はもう帰りたいだろうから、馬車の準備をしておいてあげて。』と仰せつかりましたのでそのように手配しておきました。」
「ああ、なるほど。きっと母からの君をチョコで倒れさせたことへの詫びだ。後のことは母が引き受けてくれるよ。僕達はありがたく帰ろう。」
リーンがくすっと笑って納得したように頷いた。
フィリップに先導されて馬車まで歩いている途中、リーンが唐突に彼に話し掛けた。
「ねえ、フィリップ。ここだけの話、夜会で着飾った令嬢達とリリー、どっちが綺麗だと思う?」
「それは、私はリリーが一番綺麗だと思っていますが・・・あの?」
ぱっと答えたものの、どうしてそんなことを尋ねられたのか分からず、戸惑うフィリップ。
リーンは、笑顔で頷きつつ、顔の前で手をひらりと振った。
「だよねえ。いや、ちょっと聞いてみたかっただけだから、気にしないで。僕も妻が世界で一番綺麗だと思ってるよ。」
いきなり何を言い出すのかと、不審げな目を向けた私に目配せして彼は続けた。
「お互い、こんなに愛している相手がいたら、他の女性なんて目に入らないよねえ。」
「そうですね。」
間髪入れずに答えたフィリップに、私の頬が緩んだ。
リリー、フィリップは浮気なんてしないわ!
ふーっと大きなため息をついた彼が、私の肩に額をつけた。
「エミィ、僕は久々に令嬢達の相手をして、疲れたよ。結婚してどれだけ楽になっていたか、しみじみ感じた。君が僕の妻でいてくれることに感謝してる。ありがとう。」
あら、言いたかったことを先に言われちゃったわ。
いつもの癖で、弱音を吐く彼の頭を撫でながら私からも彼に礼を言う。
「私こそ、貴方の妻でなければ社交界でとんでもない扱いを受けていたわ。今日は、今まで貴方にとても守られていたと身に沁みたの。リーン、ありがとう。」
心からそう伝えれば、頭を起こした彼がちょっと照れたような表情で私の頬にキスをした。
「そんなことない。ウェーザー伯爵夫人のように、君だけを見てくれる人もたくさんいるはずだよ。大体、君を酷く扱うやつの目は節穴なんだ。しっかり見れば君がどれだけ素敵な人か分かるのに、もったいない。そういえば、これから長く付き合っていけそうな人は見つけられた?」
「ええ、おかげさまで。誰もいないと思っていたから驚いたわ。」
「目が良い人達もいるってことだね。君より僕の方がこの立場が無くなれば、誰も寄って来ないよ。」
彼が素でも人気があることは証明済みなので、それに関しては異議があるけれど、ここでは黙っておく。
リーンが真面目な顔になって再度私の両手を握ってきた。
この握り方は、彼が私に詫びたいことがある時によくやる仕草だ。何を言われるのかと私は身構えた。
「本当はね、今夜、僕が話をしたかった令嬢は二、三人だったんだ。でも、それだと後で第二夫人候補とか言われそうで煩わしいから、あの場にいた令嬢を片っ端から相手しとけば紛れるかなと思ったのだけど。」
「なるほど・・・。」
その説明で私の中で燻っていたものが一応消火された。
だけど、彼は悲しそうな顔になって更に続ける。
「でもそれは間違いだった。君が段々不満そうな表情になるのに気がついて、嫉妬される嬉しさと同時に嫌われてしまわないかと心が冷えた。エミィ、僕を許してくれる?」
「許すも許さないもないわよ。大体、私のためにしてくれているのに。そりゃ、ちょっと・・・だいぶ、焼き餅を焼いた・・・気がするけど。演技だってわかってたはずなのに、駄目ね。」
心情を正直に吐露すると、リーンが薄青の目を瞬かせて優しい顔になった。
「エミィ、可愛い。焼き餅を焼いてくれて嬉しい。でも、僕がこんなことしたいのは君だけだから、安心して。」
彼はそう言いながら、両手をぎゅっと握り直してふわりと口付けてきた。
そこで、気がついた。
今の状況を誰かに見られたらこれまでの作戦が失敗に終わるのでは?!
「リーン、離れましょ!今日は仲が冷めてる設定なのよ。」
ぐぐーっと彼の身体を押しやれば、ぎゅーっと頭の後ろにも手を回されてきつく抱きしめられる。
「もう君に嫌な思いをさせるのも、わざと別行動するのも嫌だ。違う方法を考えよう。」
「リーン。私はこうやって貴方と一緒に首謀者探しが出来ることがとても嬉しいの。そりゃ、思ったより皆の態度が変わり過ぎて驚いたし、不安になったり、嫉妬したりもしたけど、屋敷で大人しく待つだけよりずっといい。だから、最後までやりましょう?」
彼は直ぐには動かなかったが、私が再度押すと大人しく従った。
離れつつ、最後に指先だけ軽く握った状態で名残惜しげに止まる。
どうしたのかと目線を上げると、もう一度優しい触れるだけのキスが唇に落とされて、彼が迷ったように口を開いた。
「あのさ、エミィはいつからあんなことを考えてたの?」
「あんなことって?」
「公爵家を出て、他で雇って貰うとか、ぬいぐるみの行商とか・・・」
そう言う彼の顔は、今にも泣き出しそうだ。
あれを聞いて私が出て行かないか、不安になったのね。
私からも彼の手をきゅっと握って、安心させようと笑顔を向けた。
「あれは、あの人が私が公爵家を追い出されたら行くところがないように言うものだから、言い返したかっただけなの。さっき思いついただけよ。貴方と離れるなんて今まで考えたことないわ。」
「そう、なの?よかった。僕は君が出て行きたいと思うほど、ハーフェルト公爵夫人の立場が嫌なのかと思ったよ。それなら、爵位を誰かに譲って僕も一緒に君と出て行こうと考えた。」
最後の台詞に私は固まった。
いやいや、貴方まで出ていっちゃ駄目でしょ・・・?
でも、それも楽しそう。
「じゃあ、お互いこの立場がたまらなく辛くなったら、二人でぬいぐるみの行商をして世界中をまわりましょ?」
「いいね。絶対に僕を置いて行かないでよね。」
本当に嬉しそうに、リーンが笑った。
二人とも実現しないと分かっているけれど、想像するだけで心が軽くなった。
「さて、もう屋敷に帰ろう。仕込みは終わったし、また夜会に戻って君と離れるのは耐えられないよ。」
「こんな時間に帰ってもいいのかしら?」
「あれだけ話題を提供したら、もういいでしょ。僕は屋敷で気兼ねなく君と一緒にいたいんだ。」
リーンはもう帰る気満々で、私の手を引いて今にも馬車の所へ行きそうだ。
「ハーフェルト公爵閣下。馬車のご用意ができています。」
そこに突然、フィリップがやって来てそう告げたものだから、流石にリーンも驚いて彼を見上げた。
「え、今頼もうとは思ってたけど・・・あれ?」
フィリップは説明が足りなかったことに気がついて、言い足した。
「いえ、陛下に先程の件をご報告に上がりましたところ、王妃殿下より『ハーフェルト公爵夫妻はもう帰りたいだろうから、馬車の準備をしておいてあげて。』と仰せつかりましたのでそのように手配しておきました。」
「ああ、なるほど。きっと母からの君をチョコで倒れさせたことへの詫びだ。後のことは母が引き受けてくれるよ。僕達はありがたく帰ろう。」
リーンがくすっと笑って納得したように頷いた。
フィリップに先導されて馬車まで歩いている途中、リーンが唐突に彼に話し掛けた。
「ねえ、フィリップ。ここだけの話、夜会で着飾った令嬢達とリリー、どっちが綺麗だと思う?」
「それは、私はリリーが一番綺麗だと思っていますが・・・あの?」
ぱっと答えたものの、どうしてそんなことを尋ねられたのか分からず、戸惑うフィリップ。
リーンは、笑顔で頷きつつ、顔の前で手をひらりと振った。
「だよねえ。いや、ちょっと聞いてみたかっただけだから、気にしないで。僕も妻が世界で一番綺麗だと思ってるよ。」
いきなり何を言い出すのかと、不審げな目を向けた私に目配せして彼は続けた。
「お互い、こんなに愛している相手がいたら、他の女性なんて目に入らないよねえ。」
「そうですね。」
間髪入れずに答えたフィリップに、私の頬が緩んだ。
リリー、フィリップは浮気なんてしないわ!
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