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第四章 夫妻、休暇を楽しむ
50、ただいま!
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「テオ、もうすぐ帝国に着くそうですよ! ルイーゼと甲板に出て見てきていいですか?!」
「あ、僕も一緒に行くよ」
フリッツさんからの伝言に窓辺で本を読んでいたテオを振り返れば、彼は青い栞を読んでいたページに挟んで立ち上がった。
「私とルイーゼは初めてですが、テオは見慣れている景色でしょうから、ここで待っていてくれて大丈夫ですよ?」
わざわざついて来てもらうのは申し訳ないと止めたのに、テオはあっという間に私の側に来て笑顔で手を差し出した。
「僕だってフィーアと一緒に見るのは初めてなんだよ。だから、僕も連れて行って」
そう言われると確かにそうかも、と納得した私は差し出された手をぎゅっと握った。それからルイーゼの方へ顔を向けて、行きましょうと声を掛ける。ルイーゼはニッコリと笑ったまま後ろに付き添ってくれた。
彼女は船で帝国に行くのは初めてで、乗るときからとてもはしゃいでいた。私もまだ二度目で帰りの航路は初めてなので、昨日は二人で船内を探検しに行き、迷子になってしまった。
その時は丁度通りがかったテオに部屋まで連れて帰ってもらったのだけど、ルイーゼが今と同じ笑顔で『テオドール様は本当にシルフィア様のこととなると度を越した心配性ですね』と言っていた。
もしかして、あの時テオはずっと私達の後をついてきていたのだろうか・・・まさかね?
繋いでいる手をたどって、遥か上の方にあるテオの横顔を見上げる。甲板への扉を開けようとしていたテオが気がついて首を軽く傾げて私を見下ろした。
「開けてもいい? 風が入ってくるから気を付けて」
「はい! うわあっ」
重い金属製の扉が開いた途端、塊のような風が押し寄せてきて私は後ろに飛ばされそうになった。よろけたけれどテオの腕に必死でしがみついて体勢を立て直す。更に急に明るくなった視界に目が開けられなくてテオにしがみついたまま移動することに。
「フィーア、そろそろ目を開けられるかな?」
笑いを含んだ声でテオに聞かれてそうっとまぶたを上げる。
真昼の太陽に照らされた海はピカピカに輝いて吹く風は涼しく、小さく見える街並みに私は不思議な懐かしさが込み上げてきて、なんだか胸が一杯になった。
私は不意にテオと話したくなった。でも、強風で声が届かない。私はチョイチョイと彼の服を引っ張って抱き上げてくれるよう合図をした。
最近、彼は前ほど私を抱き上げなくなったので、内緒話をしたいときなどはこうして服を摘んで頼むことになっていた。ねだられて抱き上げるのがたまらなくいいとテオは喜んでいるけれど、私にはよく分からない。ただ、思っていたより私はテオに抱き上げられることが好きかもしれない。
いつものように嬉しそうな顔で私を抱き上げたテオの耳に両手を当てて顔を近づける。
「実は、一昨日お義母様達と別れて船に乗った時はすごく淋しかったのですが、今こうして帝国の港を見ると帰ってきたという気持ちになって早くお友達に会いたいと思いました。私は薄情なのでしょうか?」
くすぐったそうに私の話を聞いていたテオはふわっと笑って頰を寄せた。
「フィーアが薄情だなんて、そんなことあるものか。僕が思うに君にとってどちらも居心地のいい場所だってことじゃないかな? 離れて淋しいと思うほどに僕の家族を好きになってくれて、ありがとう」
「はい。私、お隣同士だったらいいのにと思うくらい、ハーフェルト家も帝国のお家もどちらも大好きです」
「隣同士かあ・・・」
想像したのか、テオの笑顔が固まっている。お隣だと何か不都合が・・・?!
「隣同士は実現しないから考えないことにして・・・フィーアが疲れてないなら、遅めになるけどいつもの食堂で昼食にする?」
昼の営業ギリギリには着くと思うよ、とテオが咳払いをしつつ提案してくれたことが嬉し過ぎて、私はテオの頭にギュッと抱きついた。
「はいっ! 早くチェレステさん達にお土産を渡したいです!」
「・・・シルフィア様、テオドール様が幸せそうに窒息しかけてます!」
えっ?!
■■
「おやまあ、こんな綺麗な土産をもらうのは初めてだよ」
「ありがとう、シルフィアさん。大事に飾っとくよ」
「夫婦で海かあ。いいなあ」
「ほぉ、俺の知ってる海とは違う貝がいるんだな」
午後遅く、昼営業の終了した食堂内でそれぞれ手の中の小さなガラス瓶を眺めて口々に礼と感想を伝えてくれる。どういう偶然か皆揃っていて、一気にお土産を渡せたのだ。
お義母様の提案で、テオと一緒に海で拾った貝や石を小さな瓶に入れてリボンをつけた。そうすると、とても可愛らしい小物になったのでルノーさん達に渡す時がとても楽しみだったのだ。だから、いっぱい喜んでもらえて嬉しい。
ルイーゼを皆に紹介して、海で遊んだことやエルベの街での買い物、移動遊園地へ行ったことなどを話していたら私一人だけ食べるのが遅くなってしまった。
久しぶりにルノーさんの料理を食べながら、やっぱり向こうの国と味付けが違うなあと考える。言葉は大陸の共通語だったので困らなかったけれど、料理は地域性が濃く出るらしい。もちろん、どちらも美味しい。
「・・・そろそろ着くかな?」
隣で早々に食べ終わって水を飲んでいたテオがチラリと腕時計を見てフリッツさんへ尋ねた。フリッツさんはしばらく外の気配に耳を澄ませて頷いた。
「もう、来ますね」
そう言ってフリッツさんは外へ出て行く。私は食べ終わった食器を片付けているルイーゼとウータさんへ尋ねる視線を送ったが、二人とも知ってるとも知らないとも判断がつかない笑みを浮かべるだけだった。
「・・・テオ、何が来るのですか?」
絶対に知っているけど教えてくれるかわからないテオの服の裾を引いて聞いたその時、扉がバーンと開いてフリッツさんが戻ってきた。
「チェレステさん、すみません。荷物が届いたので何処に置くか指示してください」
「荷物? どんな大きさだい? だけど、何も頼んでないはずだけどねえ・・・ええっ、これはなんだい?!」
早足でフリッツさんの傍に行って通りを覗いたチェレステさんの叫び声が響く。慌てたルノーさんが走って行ってそこに棒立ちになる。それを見てただ事じゃないとロメオさんとジャンニさんも続いて、私も立ち上がった。
「フィーア、おいで」
笑いを含んだ声が降ってきて私の身体が浮き上がった。私を抱き上げたテオは、あっという間に皆がいる所まで連れて行ってくれた。
テオの背の高さのおかげで後ろからでも外が覗ける。うんと首を伸ばして眺めたお店の前の通りには、山のような荷を積んだ幌馬車がズラリと並んでいた。
凄い数。これは一体何事?!
「えっ?! これ全部うちのだって? 何の話だい、私はこんなに注文してないよ?! ルノー、お前さんかい?」
青ざめるチェレステさんと大きく首を振って知らないと慌てるルノーさん。その横でフリッツさんがいい笑顔で手を広げた。
「これは、ハーフェルト公爵ご夫妻からシルフィア様がお世話になっているお礼です。公爵閣下が経営する居酒屋で出している酒や珍しい調味料や食品だそうですよ。シルフィア様を受け入れてもらって感謝しているので、遠慮なく受け取ってほしいとのことです。・・・あ、俺が強請って公爵閣下秘蔵のワインも一箱入れてもらったので、それは個人的にルノーさんがもらってください。今度皆でルノーさんのツマミと一緒に呑みましょう」
「ひえええ・・・」
ルノーさんが腰を抜かして、チェレステさんが苦笑いしている。
「なんとまあ、公爵閣下は居酒屋経営までしてるのかい。こんなにたくさん、ありがたいことだ。どこに保管しようかね。シルフィアちゃん、ありがとうよ」
「えっ、私ですか?!」
テオじゃないの?
私はチラッと隣を窺った。
チェレステさんと同じで、私もこのお土産のことを知らなかったのに私がお礼を言われていいのだろうか?
戸惑う私にテオとチェレステさんが微笑む。
「これは僕の両親からだけど、フィーアのための贈答品だからね。君がいなかったら無いものなんだ」
「そうさ、シルフィアちゃんが公爵ご夫妻に愛されているから、こうやってウチがおこぼれに預かったんだ。だからシルフィアちゃんのおかげさ」
そうか、これはお義父様達が私のためにしてくれたことなんだ。
「お義父様とお義母様は、私のことを大事な家族だって思ってくれているからこうやってチェレステさんのお店にご挨拶してくれたのですよね。それは嬉しいことで、なんだか心がとってもふわふわします。テオ、ありがとうございます」
色んな人達に大切してもらっているという実感が湧いてきて、私はそれを与えてくれている目の前のテオの頬に感謝のキスをした。
「これはフィーアが色んな人と関わろうと頑張ってきた成果でもあるんだよ」
ニッコリと笑って私の頬にキスを返すテオを見て、チェレステさんが満面の笑みで腰に手を当てて頷いた。
「帰ってきたら『様』はとれてるし、シルフィアちゃんから愛情表現してるし、いい休暇だったようだね」
#######
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ここで、この章の本編は終了です。あと一話、かんさつ日記があります。
「あ、僕も一緒に行くよ」
フリッツさんからの伝言に窓辺で本を読んでいたテオを振り返れば、彼は青い栞を読んでいたページに挟んで立ち上がった。
「私とルイーゼは初めてですが、テオは見慣れている景色でしょうから、ここで待っていてくれて大丈夫ですよ?」
わざわざついて来てもらうのは申し訳ないと止めたのに、テオはあっという間に私の側に来て笑顔で手を差し出した。
「僕だってフィーアと一緒に見るのは初めてなんだよ。だから、僕も連れて行って」
そう言われると確かにそうかも、と納得した私は差し出された手をぎゅっと握った。それからルイーゼの方へ顔を向けて、行きましょうと声を掛ける。ルイーゼはニッコリと笑ったまま後ろに付き添ってくれた。
彼女は船で帝国に行くのは初めてで、乗るときからとてもはしゃいでいた。私もまだ二度目で帰りの航路は初めてなので、昨日は二人で船内を探検しに行き、迷子になってしまった。
その時は丁度通りがかったテオに部屋まで連れて帰ってもらったのだけど、ルイーゼが今と同じ笑顔で『テオドール様は本当にシルフィア様のこととなると度を越した心配性ですね』と言っていた。
もしかして、あの時テオはずっと私達の後をついてきていたのだろうか・・・まさかね?
繋いでいる手をたどって、遥か上の方にあるテオの横顔を見上げる。甲板への扉を開けようとしていたテオが気がついて首を軽く傾げて私を見下ろした。
「開けてもいい? 風が入ってくるから気を付けて」
「はい! うわあっ」
重い金属製の扉が開いた途端、塊のような風が押し寄せてきて私は後ろに飛ばされそうになった。よろけたけれどテオの腕に必死でしがみついて体勢を立て直す。更に急に明るくなった視界に目が開けられなくてテオにしがみついたまま移動することに。
「フィーア、そろそろ目を開けられるかな?」
笑いを含んだ声でテオに聞かれてそうっとまぶたを上げる。
真昼の太陽に照らされた海はピカピカに輝いて吹く風は涼しく、小さく見える街並みに私は不思議な懐かしさが込み上げてきて、なんだか胸が一杯になった。
私は不意にテオと話したくなった。でも、強風で声が届かない。私はチョイチョイと彼の服を引っ張って抱き上げてくれるよう合図をした。
最近、彼は前ほど私を抱き上げなくなったので、内緒話をしたいときなどはこうして服を摘んで頼むことになっていた。ねだられて抱き上げるのがたまらなくいいとテオは喜んでいるけれど、私にはよく分からない。ただ、思っていたより私はテオに抱き上げられることが好きかもしれない。
いつものように嬉しそうな顔で私を抱き上げたテオの耳に両手を当てて顔を近づける。
「実は、一昨日お義母様達と別れて船に乗った時はすごく淋しかったのですが、今こうして帝国の港を見ると帰ってきたという気持ちになって早くお友達に会いたいと思いました。私は薄情なのでしょうか?」
くすぐったそうに私の話を聞いていたテオはふわっと笑って頰を寄せた。
「フィーアが薄情だなんて、そんなことあるものか。僕が思うに君にとってどちらも居心地のいい場所だってことじゃないかな? 離れて淋しいと思うほどに僕の家族を好きになってくれて、ありがとう」
「はい。私、お隣同士だったらいいのにと思うくらい、ハーフェルト家も帝国のお家もどちらも大好きです」
「隣同士かあ・・・」
想像したのか、テオの笑顔が固まっている。お隣だと何か不都合が・・・?!
「隣同士は実現しないから考えないことにして・・・フィーアが疲れてないなら、遅めになるけどいつもの食堂で昼食にする?」
昼の営業ギリギリには着くと思うよ、とテオが咳払いをしつつ提案してくれたことが嬉し過ぎて、私はテオの頭にギュッと抱きついた。
「はいっ! 早くチェレステさん達にお土産を渡したいです!」
「・・・シルフィア様、テオドール様が幸せそうに窒息しかけてます!」
えっ?!
■■
「おやまあ、こんな綺麗な土産をもらうのは初めてだよ」
「ありがとう、シルフィアさん。大事に飾っとくよ」
「夫婦で海かあ。いいなあ」
「ほぉ、俺の知ってる海とは違う貝がいるんだな」
午後遅く、昼営業の終了した食堂内でそれぞれ手の中の小さなガラス瓶を眺めて口々に礼と感想を伝えてくれる。どういう偶然か皆揃っていて、一気にお土産を渡せたのだ。
お義母様の提案で、テオと一緒に海で拾った貝や石を小さな瓶に入れてリボンをつけた。そうすると、とても可愛らしい小物になったのでルノーさん達に渡す時がとても楽しみだったのだ。だから、いっぱい喜んでもらえて嬉しい。
ルイーゼを皆に紹介して、海で遊んだことやエルベの街での買い物、移動遊園地へ行ったことなどを話していたら私一人だけ食べるのが遅くなってしまった。
久しぶりにルノーさんの料理を食べながら、やっぱり向こうの国と味付けが違うなあと考える。言葉は大陸の共通語だったので困らなかったけれど、料理は地域性が濃く出るらしい。もちろん、どちらも美味しい。
「・・・そろそろ着くかな?」
隣で早々に食べ終わって水を飲んでいたテオがチラリと腕時計を見てフリッツさんへ尋ねた。フリッツさんはしばらく外の気配に耳を澄ませて頷いた。
「もう、来ますね」
そう言ってフリッツさんは外へ出て行く。私は食べ終わった食器を片付けているルイーゼとウータさんへ尋ねる視線を送ったが、二人とも知ってるとも知らないとも判断がつかない笑みを浮かべるだけだった。
「・・・テオ、何が来るのですか?」
絶対に知っているけど教えてくれるかわからないテオの服の裾を引いて聞いたその時、扉がバーンと開いてフリッツさんが戻ってきた。
「チェレステさん、すみません。荷物が届いたので何処に置くか指示してください」
「荷物? どんな大きさだい? だけど、何も頼んでないはずだけどねえ・・・ええっ、これはなんだい?!」
早足でフリッツさんの傍に行って通りを覗いたチェレステさんの叫び声が響く。慌てたルノーさんが走って行ってそこに棒立ちになる。それを見てただ事じゃないとロメオさんとジャンニさんも続いて、私も立ち上がった。
「フィーア、おいで」
笑いを含んだ声が降ってきて私の身体が浮き上がった。私を抱き上げたテオは、あっという間に皆がいる所まで連れて行ってくれた。
テオの背の高さのおかげで後ろからでも外が覗ける。うんと首を伸ばして眺めたお店の前の通りには、山のような荷を積んだ幌馬車がズラリと並んでいた。
凄い数。これは一体何事?!
「えっ?! これ全部うちのだって? 何の話だい、私はこんなに注文してないよ?! ルノー、お前さんかい?」
青ざめるチェレステさんと大きく首を振って知らないと慌てるルノーさん。その横でフリッツさんがいい笑顔で手を広げた。
「これは、ハーフェルト公爵ご夫妻からシルフィア様がお世話になっているお礼です。公爵閣下が経営する居酒屋で出している酒や珍しい調味料や食品だそうですよ。シルフィア様を受け入れてもらって感謝しているので、遠慮なく受け取ってほしいとのことです。・・・あ、俺が強請って公爵閣下秘蔵のワインも一箱入れてもらったので、それは個人的にルノーさんがもらってください。今度皆でルノーさんのツマミと一緒に呑みましょう」
「ひえええ・・・」
ルノーさんが腰を抜かして、チェレステさんが苦笑いしている。
「なんとまあ、公爵閣下は居酒屋経営までしてるのかい。こんなにたくさん、ありがたいことだ。どこに保管しようかね。シルフィアちゃん、ありがとうよ」
「えっ、私ですか?!」
テオじゃないの?
私はチラッと隣を窺った。
チェレステさんと同じで、私もこのお土産のことを知らなかったのに私がお礼を言われていいのだろうか?
戸惑う私にテオとチェレステさんが微笑む。
「これは僕の両親からだけど、フィーアのための贈答品だからね。君がいなかったら無いものなんだ」
「そうさ、シルフィアちゃんが公爵ご夫妻に愛されているから、こうやってウチがおこぼれに預かったんだ。だからシルフィアちゃんのおかげさ」
そうか、これはお義父様達が私のためにしてくれたことなんだ。
「お義父様とお義母様は、私のことを大事な家族だって思ってくれているからこうやってチェレステさんのお店にご挨拶してくれたのですよね。それは嬉しいことで、なんだか心がとってもふわふわします。テオ、ありがとうございます」
色んな人達に大切してもらっているという実感が湧いてきて、私はそれを与えてくれている目の前のテオの頬に感謝のキスをした。
「これはフィーアが色んな人と関わろうと頑張ってきた成果でもあるんだよ」
ニッコリと笑って私の頬にキスを返すテオを見て、チェレステさんが満面の笑みで腰に手を当てて頷いた。
「帰ってきたら『様』はとれてるし、シルフィアちゃんから愛情表現してるし、いい休暇だったようだね」
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ここで、この章の本編は終了です。あと一話、かんさつ日記があります。
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