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続編四章開始記念【番外編】いつかの、未来3 前編
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※次男パトリック視点
長い廊下を全力で走って、大きな扉の前に立つ。
荒い息のまま、扉にそっと耳をつける。
話し声がしない。しばらく考えてもう一度同じようにしてみた。
今度は、足音が聞こえた。
これは父上だ!嬉しくなって金色に鈍く光る取っ手に手を伸ばしたら、扉が内側に開いてたたらを踏んだ。
「やあ、パット。もう、今日のお勉強は終わったの?」
その言葉とともに、俺の身体はふわりと浮いて父の腕の中に収まっていた。
嬉しくて父の首にしがみつきながら小さな声で返事をする。
「ちゃんと終わったよ。先生もいいって言った。兄上はまだまだまだまだ、お勉強するんだって。ねえ、父上、母上は元気になった?今日一緒に寝られる?」
「今日はちゃんと終わらせてきたんだ、偉いね。エミィは今寝ているよ。熱は朝より下がったけれど、一緒に寝るのは難しそうだね。今夜も父と寝る?」
俺は頬を膨らませて首を振った。
「母上じゃないと嫌だ。なんで母上は風邪引いちゃったの?」
「まあ、最近急に寒くなったしね。彼女はまだ出産から身体が回復しきってないんだ。今回はそんなに酷くないからすぐ治るよ。」
父は俺を抱えたまま、どんどんきた道を戻っていく。その速さに楽しくなって、父に強請って肩車をしてもらう。
視界がうんと高く広くなるので、俺はこれが大好き。
父のふわふわの髪は頼りないので、ぎゅっと力を入れて掴めば、父の悲鳴とともに毛が抜けた。
■■
その夜、自分の部屋のベッドに入ったものの全然眠れなくて、俺は身体を起こして考えた。
一人で寝るのが寂しい夜はいっぱいある。
いつもならこういう時は両親の所へ潜り込むのだが、今夜は母が風邪を引いて臥せっている。別室で一人寝る父の所へ行ってもいいのだが、昨日行ったし連続は気分が乗らない。妹のディートリントはまだ赤ちゃんだ。
・・・やはり、今夜は兄だな。
そう結論を出した俺は、枕元の犬のぬいぐるみを抱えて部屋を出た。
薄暗い廊下を通って扉を3つ越えた部屋の前に立つ。
兄のテオドールはまだ起きているらしく、扉の隙間から微かな明かりが漏れていた。
そのことにほっとして、扉を思いっきりこぶしで叩いた。
「兄上ー!開けてー!一緒に寝てー!」
直ぐに、がちゃっと扉が開いて、伸びてきた兄の手によって部屋の中に引きずり込まれる。
「パット煩い!もっと静かに叩いてよ。」
「ごめんなさい。兄上が気づいてくれるように全力で叩いたの。」
「こんなに静かなんだから、小さな音で聞こえるよ。それにもう夜遅いから、周りに迷惑だろ?次から気をつけてよね。」
「うん!」
次、だって。また来ていいと言われて俺は嬉しくなった。
笑顔の俺をみて、兄はしまったという顔をしたが、仕方なさそうに読んでいた本を閉じてベッドに場所を作ってくれた。
俺はサイドテーブルに置いてある兄のうさぎのぬいぐるみの横に自分のを並べて、勢いよくベッドに飛び込んだ。
兄と二人、暖かい布団に包まれているとわくわくして目が冴えた。
俺とは反対に目が閉じかけている兄の身体を揺すり、話し掛ける。
「ねえ、兄上。明日になったら、母上は元気になってるかなあ?」
「わかんないけど、今日は顔色が良かったし、もうすぐ元気になるんじゃないかな。」
「え、兄上は今日、母上に会ったの?!」
「午後にちょっとだけ。」
「ずるい!」
思わず起き上がって責めたら、がしっと掴まれて布団に引きずり戻された。
「寒いよ!僕達まで風邪引くでしょ。パットも明日会いに行けばいいじゃないか。」
「絶対に行く!・・・ねえ、兄上。おれはいつになったら父上に勝負で勝って、母上の婚約者になれると思う?」
兄とこうやってゆっくり話すことはあまりないので、ここ最近の悩みを相談してみた。
いつも外で走り回っている俺と違って、兄は難しそうな本をたくさん読んで、勉強もいっぱいしてるから、きっと答えを教えてくれると思ったんだ。
真剣に悩み相談をした俺に、兄は目を丸くしてため息をついた。それからぐりぐりと頭を撫でてきた。
なんだ?普段ならこういうことはしてこない兄だけに、嫌な予感がする。
「パットもそろそろ気がついてるんじゃないの?父上に剣で勝つのはすごく難しいし、そもそも、母上と君は婚約も結婚も出来ないって。」
「え、出来ないの?!なんで?」
「だって家族だもの。知らなかったの?家族と結婚は出来ないんだよ。」
俺は初めて知ったその衝撃の事実に、頭が真っ白になった。
「でも、でも父上と母上は家族だよ?!」
「あの二人はもともと他人なの。で、婚約者になって、結婚して、家族になって僕達が生まれたの。」
「ええ・・・そうなの?」
兄は混乱している僕を気の毒そうに見ながら深く頷いた。
「おれは家族以外、あんまりわかんないんだけど・・・。」
「僕だってそうだよ。4歳で母上を好きになった父上が変わってたんだよ。伯父上もそう言ってた。」
「おれは、母上だったら好きになってた!」
「母上が、全く知らない初めて会った女の子だったとしても?」
「えっ・・・それはわかんない。」
「父上と母上の出会いはそうなんだって。」
「ふーん。父上はすごいね。」
「すごいのかはよく分からないけど、あの母上への執着はもはや尊敬の域だよね。」
「??」
「父上は母上が大好き過ぎるってこと。」
「それって悪いことなの?」
「僕達にとっては良いことなんじゃないかな。」
「良かった!」
安心したら眠くなってきた。俺は手を伸ばして兄に抱きつく。兄も手を伸ばして背中をとんとんと叩いてくれた。
そのまま2人共あっという間に眠りに落ちた。
■■
朝、寝ている兄を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、ぬいぐるみとともに父が鍛錬している裏庭へ行く。
真剣な顔で剣を振っていた父は、俺に気がつくと、どこからか取り出したタオルで汗を拭きつつ声を掛けてくれた。
「おはよう、パット。昨夜は一人で寝れた?」
「ううん。兄上の所に行った。」
「へえ。テオがよく入れてくれたね。珍しい。彼もちょっと寂しかったのかな。」
「それは、わかんないけど。色々お話もしたんだ。」
「いいなあ、男同士の話。僕も呼んでくれればよかったのに。」
「父上が来たら、狭いから兄上が怒りそう。ねえ、父上。」
昨夜初めて知った事実を父に伝えるべきか迷ったが、このまま日々の勝負を続ける気にならなかったので、言うことにした。
父はにこにこしながら、俺の次の言葉を待ってくれている。
「あのね、家族は婚約者になれないんだって。だから、おれは母上と結婚出来ないんだよ。」
それを聞いて父が笑った。
「あー、知っちゃったのか。」
「父上はなんで教えてくれなかったの?」
「エミィが嬉しそうだったし、僕も君と毎日勝負するのが楽しくて。言うのを先延ばしにしてたんだ、ごめんね。」
なんだ、そんな理由か。意地悪じゃなくてよかった。
俺は胸を撫で下ろして父を見上げた。
「父上。今日からは勝負じゃなくて、もっと強くなるために稽古をつけて下さい。先生だけじゃなくて父上にも教えて貰えれば、おれ、もっと強くなれる気がする。」
真剣に頼んだら、父も俺をじっと見ながら尋ねてきた。
「パットは何のために強くなりたいの?」
俺は勢いよく父の方へ身を乗り出して叫んだ。
「あのね、母上とディーと兄上を守るため!」
それを聞いた父はとても嬉しそうに笑って、くしゃくしゃに俺の頭を撫でた。
「いいね!空いた時間に一緒に稽古しようか。」
「うん!」
長い廊下を全力で走って、大きな扉の前に立つ。
荒い息のまま、扉にそっと耳をつける。
話し声がしない。しばらく考えてもう一度同じようにしてみた。
今度は、足音が聞こえた。
これは父上だ!嬉しくなって金色に鈍く光る取っ手に手を伸ばしたら、扉が内側に開いてたたらを踏んだ。
「やあ、パット。もう、今日のお勉強は終わったの?」
その言葉とともに、俺の身体はふわりと浮いて父の腕の中に収まっていた。
嬉しくて父の首にしがみつきながら小さな声で返事をする。
「ちゃんと終わったよ。先生もいいって言った。兄上はまだまだまだまだ、お勉強するんだって。ねえ、父上、母上は元気になった?今日一緒に寝られる?」
「今日はちゃんと終わらせてきたんだ、偉いね。エミィは今寝ているよ。熱は朝より下がったけれど、一緒に寝るのは難しそうだね。今夜も父と寝る?」
俺は頬を膨らませて首を振った。
「母上じゃないと嫌だ。なんで母上は風邪引いちゃったの?」
「まあ、最近急に寒くなったしね。彼女はまだ出産から身体が回復しきってないんだ。今回はそんなに酷くないからすぐ治るよ。」
父は俺を抱えたまま、どんどんきた道を戻っていく。その速さに楽しくなって、父に強請って肩車をしてもらう。
視界がうんと高く広くなるので、俺はこれが大好き。
父のふわふわの髪は頼りないので、ぎゅっと力を入れて掴めば、父の悲鳴とともに毛が抜けた。
■■
その夜、自分の部屋のベッドに入ったものの全然眠れなくて、俺は身体を起こして考えた。
一人で寝るのが寂しい夜はいっぱいある。
いつもならこういう時は両親の所へ潜り込むのだが、今夜は母が風邪を引いて臥せっている。別室で一人寝る父の所へ行ってもいいのだが、昨日行ったし連続は気分が乗らない。妹のディートリントはまだ赤ちゃんだ。
・・・やはり、今夜は兄だな。
そう結論を出した俺は、枕元の犬のぬいぐるみを抱えて部屋を出た。
薄暗い廊下を通って扉を3つ越えた部屋の前に立つ。
兄のテオドールはまだ起きているらしく、扉の隙間から微かな明かりが漏れていた。
そのことにほっとして、扉を思いっきりこぶしで叩いた。
「兄上ー!開けてー!一緒に寝てー!」
直ぐに、がちゃっと扉が開いて、伸びてきた兄の手によって部屋の中に引きずり込まれる。
「パット煩い!もっと静かに叩いてよ。」
「ごめんなさい。兄上が気づいてくれるように全力で叩いたの。」
「こんなに静かなんだから、小さな音で聞こえるよ。それにもう夜遅いから、周りに迷惑だろ?次から気をつけてよね。」
「うん!」
次、だって。また来ていいと言われて俺は嬉しくなった。
笑顔の俺をみて、兄はしまったという顔をしたが、仕方なさそうに読んでいた本を閉じてベッドに場所を作ってくれた。
俺はサイドテーブルに置いてある兄のうさぎのぬいぐるみの横に自分のを並べて、勢いよくベッドに飛び込んだ。
兄と二人、暖かい布団に包まれているとわくわくして目が冴えた。
俺とは反対に目が閉じかけている兄の身体を揺すり、話し掛ける。
「ねえ、兄上。明日になったら、母上は元気になってるかなあ?」
「わかんないけど、今日は顔色が良かったし、もうすぐ元気になるんじゃないかな。」
「え、兄上は今日、母上に会ったの?!」
「午後にちょっとだけ。」
「ずるい!」
思わず起き上がって責めたら、がしっと掴まれて布団に引きずり戻された。
「寒いよ!僕達まで風邪引くでしょ。パットも明日会いに行けばいいじゃないか。」
「絶対に行く!・・・ねえ、兄上。おれはいつになったら父上に勝負で勝って、母上の婚約者になれると思う?」
兄とこうやってゆっくり話すことはあまりないので、ここ最近の悩みを相談してみた。
いつも外で走り回っている俺と違って、兄は難しそうな本をたくさん読んで、勉強もいっぱいしてるから、きっと答えを教えてくれると思ったんだ。
真剣に悩み相談をした俺に、兄は目を丸くしてため息をついた。それからぐりぐりと頭を撫でてきた。
なんだ?普段ならこういうことはしてこない兄だけに、嫌な予感がする。
「パットもそろそろ気がついてるんじゃないの?父上に剣で勝つのはすごく難しいし、そもそも、母上と君は婚約も結婚も出来ないって。」
「え、出来ないの?!なんで?」
「だって家族だもの。知らなかったの?家族と結婚は出来ないんだよ。」
俺は初めて知ったその衝撃の事実に、頭が真っ白になった。
「でも、でも父上と母上は家族だよ?!」
「あの二人はもともと他人なの。で、婚約者になって、結婚して、家族になって僕達が生まれたの。」
「ええ・・・そうなの?」
兄は混乱している僕を気の毒そうに見ながら深く頷いた。
「おれは家族以外、あんまりわかんないんだけど・・・。」
「僕だってそうだよ。4歳で母上を好きになった父上が変わってたんだよ。伯父上もそう言ってた。」
「おれは、母上だったら好きになってた!」
「母上が、全く知らない初めて会った女の子だったとしても?」
「えっ・・・それはわかんない。」
「父上と母上の出会いはそうなんだって。」
「ふーん。父上はすごいね。」
「すごいのかはよく分からないけど、あの母上への執着はもはや尊敬の域だよね。」
「??」
「父上は母上が大好き過ぎるってこと。」
「それって悪いことなの?」
「僕達にとっては良いことなんじゃないかな。」
「良かった!」
安心したら眠くなってきた。俺は手を伸ばして兄に抱きつく。兄も手を伸ばして背中をとんとんと叩いてくれた。
そのまま2人共あっという間に眠りに落ちた。
■■
朝、寝ている兄を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、ぬいぐるみとともに父が鍛錬している裏庭へ行く。
真剣な顔で剣を振っていた父は、俺に気がつくと、どこからか取り出したタオルで汗を拭きつつ声を掛けてくれた。
「おはよう、パット。昨夜は一人で寝れた?」
「ううん。兄上の所に行った。」
「へえ。テオがよく入れてくれたね。珍しい。彼もちょっと寂しかったのかな。」
「それは、わかんないけど。色々お話もしたんだ。」
「いいなあ、男同士の話。僕も呼んでくれればよかったのに。」
「父上が来たら、狭いから兄上が怒りそう。ねえ、父上。」
昨夜初めて知った事実を父に伝えるべきか迷ったが、このまま日々の勝負を続ける気にならなかったので、言うことにした。
父はにこにこしながら、俺の次の言葉を待ってくれている。
「あのね、家族は婚約者になれないんだって。だから、おれは母上と結婚出来ないんだよ。」
それを聞いて父が笑った。
「あー、知っちゃったのか。」
「父上はなんで教えてくれなかったの?」
「エミィが嬉しそうだったし、僕も君と毎日勝負するのが楽しくて。言うのを先延ばしにしてたんだ、ごめんね。」
なんだ、そんな理由か。意地悪じゃなくてよかった。
俺は胸を撫で下ろして父を見上げた。
「父上。今日からは勝負じゃなくて、もっと強くなるために稽古をつけて下さい。先生だけじゃなくて父上にも教えて貰えれば、おれ、もっと強くなれる気がする。」
真剣に頼んだら、父も俺をじっと見ながら尋ねてきた。
「パットは何のために強くなりたいの?」
俺は勢いよく父の方へ身を乗り出して叫んだ。
「あのね、母上とディーと兄上を守るため!」
それを聞いた父はとても嬉しそうに笑って、くしゃくしゃに俺の頭を撫でた。
「いいね!空いた時間に一緒に稽古しようか。」
「うん!」
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