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【番外編】公爵夫妻、街へ行く 終
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sideE
まさか、と私が口を開こうとした丁度その時、目的のテントの前に着いた。
ご領主様から幸せのお裾分けとあって大勢が並んでいる。
コップのお酒か、紙に包まれた手のひらサイズのケーキかのいずれかを手にした人達が、嬉しそうに私達の横を通って行く。
我慢できない子供達はすぐに開けて、口に入れている。
私は興味を持って子供達の手の中のケーキを観察する。
・・・美味しそうなあのケーキには見覚えがある。先週、お茶の時間に同じものをリーンと食べた気がする・・・。
ほぼ確定だけど、念の為テントの中を覗くと、振る舞いをしていたのは見知った人達だった。
「おくっ・・・フグッ!」
ケーキを配っていたミアが私に気がついて、嬉しそうに大きく手を振って口を開いた瞬間、横にいたヘンリックが大慌てでその口を塞いだ。
そしてこちらを睨むと、さっさと向こうへ行けとばかりに手で追い払われた。
ここまでくれば、誰だってわかるだろう。
私はいたずらが決まったような笑みを浮かべてこちらを見ている彼を軽くにらむ。
「領主は貴方ね!なんで教えてくれなかったの?!」
彼は私の膨らんだ頬を撫でながら、しれっと答えた。
「わざわざ言うことじゃないし、ヘンリックにでも聞いてるかと思ってた。」
くっ。あの男、わざわざ領地に関する勉強を最後に回したのは今日驚かせるためね!
他に覚えることが多すぎた私は、領地は都から離れた土地だという思い込みにより、いずれ行く時までに勉強すればいいかと思ってた。
まさか隣接してるなんて思わないじゃない?
「領地が隣だなんて、思わなかったわ。」
「正しくは領地というより敷地なんだけど。この街の土地は元々荒れ地で作物は育たず、ハーフェルト公爵に押し付けられた場所だったんだ。最初は馬場とかに使ってたみたいだけど、代々土地改良に励んで難民や戦で土地を失くした民を住まわせてたら、港に近い立地の良さもあってこんな大きな街になったんだって。」
「ハーフェルト公爵家ってすごいわね。」
ほぼ他人事として感心しながら聞いていたら、苦笑された。
「君もこれからその一員となってここを守っていくんだよ。よろしくね、僕の奥さん。」
うわ、リーンの笑顔と言葉の破壊力。
■■
sideL
夜空に大きな音と共に大輪の光の花が咲いている。
この国が戦をしなくなって百年、使用が減った火薬の平和的利用に人々が感嘆している。
僕の腕の中にいる妻もさっきから一言も口を聞かず、ただただ空に弾けるそれに見入っている。
いつもなら絶対に恥ずかしがって逃げるこの体勢も気にならないのか、気がついてないのか。
今がチャンスとばかりに、後ろからエミーリアの身体に回した腕に力を込めて彼女とくっつく。
もう絶対に彼女を離さない。昼間の出来事を思い出して、さらにぎゅっと抱きしめたら、流石に彼女から抗議の目で見られた。
うん、花火に見惚れるのもいいけど、やっぱり僕を見てくれるのが1番嬉しい。
怒った顔も綺麗だね、とキスをおくったら、なんでそうなるの、と両手で顔を覆ってうつむいてしまった。
暗くてわからないけれど、きっと真っ赤になってるのだろう。本当に可愛い。
再び花火へ向いた彼女を眺めていたら、打ち上げる音の合間に後ろの方でコソコソ話す内容が聞こえてきた。
「見た?!」
「見た見た!」
「これで私達も玉の輿よ!城勤めの姉が言ってたもの、ご領主夫妻のキスを見れたら玉の輿に乗れるって!やったわ!」
ちらりと振り返ってみれば、エミーリアを取り囲んでた子達の何人かが集まって騒いでいる。
まあ、この街の商家とは一通り付き合いはあるし、見つけた時に名前を呼んじゃったし、彼女の髪色はわりと珍しいから僕等に気がつく人もいるだろうとは思っていた。
・・・しかし、会話の内容にどう突っ込んでいいやら。
城でのあの滑稽なジンクスが、難易度を上げて街にまで広がっているなんて。
とりあえず妻が気がついて僕の腕から逃げだす前に、あの子達を黙らせておこう。
僕はそっと振り返って、内緒ね、と口元に人差し指を立てて外向けの笑顔で頼む。
ポーッとなった女の子達は花火の打ち上げと共に、
「私達、ご領主夫妻ファンクラブになりますーっ!」
と叫んで走って行った。
「何か、聞こえなかった?」
「気のせいだよ。」
キョロキョロするエミーリアの頭を固定して、再びキスをしようとしたら彼女から阻まれた。
「今は、花火を見てるの!」
「えー、君が可愛いんだもの。したいな。」
笑顔で押せば大体いけると、僕はこの3日間で学んだことを実行しようとした。
「旦那様!奥様!そろそろご帰邸のお時間ですよ。私も配る物がなくなったので一緒に帰ります~。」
今日はミアか!
裏でヘンリックが糸を引いてるんだろうけど!
エミーリアが瞬時に腕の中から消えて、ミアの横に移動している。
手を取り合ってお疲れ様、とか花火綺麗ね、とか女子トークしている。
もういい、続きは部屋に戻ってから絶対にするから!
■■
おまけ~翌日、王太子執務室~
「リーン、それはだめだ。帰してこい。」
「嫌です。じゃあ、私も一緒に戻ります。」
「なんでそうなる。」
「だって私が見ていないといなくなっちゃうんです。知らない人について行っちゃうんですよ!?」
「屋敷に置いとけばそれはないだろう。仕事の時は嫁は忘れろ。」
「兄上は、義姉上と同じ屋根の下で仕事してるから休憩時間に顔見に行ったり、一緒にお昼食べたり、お茶したりしてるのに!僕はだめなんてひどいですよ!」
「そっちが本音じゃないか。お前、俺がそんな事してるとでも?」
「あら、昨日も一緒にお昼頂いて、お茶しましたわね?新婚の頃はちょくちょく来てらしたのは貴方ではなかったのかしら?」
「アルベルタ!」
「ですよね、義姉上!ほら、兄上だってしてるじゃないですか!」
「でも、執務中はお会いしてませんわよ?ということで、その間は私が預かります。リーン様、しっかりお仕事なさいませ。行くわよ、エミーリア。いっぱいおしゃべりして、着せ替えしましょうね。」
「エミーリアが知ってる人についていったな?」
「あれは、ついてったというより、引きずられていったのでは・・・。いや、ちょっと待って、義姉上、ずるいですよ!」
■■
さらにおまけ~後日ぬいぐるみ店にて~
「こんにちは。店長、ヴォルフ。改めて挨拶に来たよ。彼女が僕の妻のエミーリア。エミィ、彼らがこの店の店長と息子のヴォルフだよ。」
「あら奥様、またお会いしましたね。ぬいぐるみはできましたか?オーナー、花火の時に二人がものすごくいちゃついてたって街の噂になってるよ。」
「ええっ!」
「あれ、誰も見て見ぬふりしてくれなかったの。」
「母ちゃん!いえ、皆、お二人と一緒に広場で花火を見ることができて、さらに仲睦まじいところを見られて喜んでいましたよ。」
「わ、私達のことを皆さんご存知だったんですか?!」
「領主夫妻があの場にいたことは、翌日に凄い勢いで広まってたね。」
その後、僕が正体がバレてるかもしれないと分かってて、キスしたことにエミーリアは怒った。
彼女はなんと、挨拶を終えて店を出てから10分間も口をきいてくれなかった。
「わーん、エミィ、外でキスするのはちょっとだけ控えるから、そっぽ向かないで、僕を見て声を聞かせてよー。」
今度はエルベの街に領主は奥方に勝てないという話が広まった。
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まさか、と私が口を開こうとした丁度その時、目的のテントの前に着いた。
ご領主様から幸せのお裾分けとあって大勢が並んでいる。
コップのお酒か、紙に包まれた手のひらサイズのケーキかのいずれかを手にした人達が、嬉しそうに私達の横を通って行く。
我慢できない子供達はすぐに開けて、口に入れている。
私は興味を持って子供達の手の中のケーキを観察する。
・・・美味しそうなあのケーキには見覚えがある。先週、お茶の時間に同じものをリーンと食べた気がする・・・。
ほぼ確定だけど、念の為テントの中を覗くと、振る舞いをしていたのは見知った人達だった。
「おくっ・・・フグッ!」
ケーキを配っていたミアが私に気がついて、嬉しそうに大きく手を振って口を開いた瞬間、横にいたヘンリックが大慌てでその口を塞いだ。
そしてこちらを睨むと、さっさと向こうへ行けとばかりに手で追い払われた。
ここまでくれば、誰だってわかるだろう。
私はいたずらが決まったような笑みを浮かべてこちらを見ている彼を軽くにらむ。
「領主は貴方ね!なんで教えてくれなかったの?!」
彼は私の膨らんだ頬を撫でながら、しれっと答えた。
「わざわざ言うことじゃないし、ヘンリックにでも聞いてるかと思ってた。」
くっ。あの男、わざわざ領地に関する勉強を最後に回したのは今日驚かせるためね!
他に覚えることが多すぎた私は、領地は都から離れた土地だという思い込みにより、いずれ行く時までに勉強すればいいかと思ってた。
まさか隣接してるなんて思わないじゃない?
「領地が隣だなんて、思わなかったわ。」
「正しくは領地というより敷地なんだけど。この街の土地は元々荒れ地で作物は育たず、ハーフェルト公爵に押し付けられた場所だったんだ。最初は馬場とかに使ってたみたいだけど、代々土地改良に励んで難民や戦で土地を失くした民を住まわせてたら、港に近い立地の良さもあってこんな大きな街になったんだって。」
「ハーフェルト公爵家ってすごいわね。」
ほぼ他人事として感心しながら聞いていたら、苦笑された。
「君もこれからその一員となってここを守っていくんだよ。よろしくね、僕の奥さん。」
うわ、リーンの笑顔と言葉の破壊力。
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夜空に大きな音と共に大輪の光の花が咲いている。
この国が戦をしなくなって百年、使用が減った火薬の平和的利用に人々が感嘆している。
僕の腕の中にいる妻もさっきから一言も口を聞かず、ただただ空に弾けるそれに見入っている。
いつもなら絶対に恥ずかしがって逃げるこの体勢も気にならないのか、気がついてないのか。
今がチャンスとばかりに、後ろからエミーリアの身体に回した腕に力を込めて彼女とくっつく。
もう絶対に彼女を離さない。昼間の出来事を思い出して、さらにぎゅっと抱きしめたら、流石に彼女から抗議の目で見られた。
うん、花火に見惚れるのもいいけど、やっぱり僕を見てくれるのが1番嬉しい。
怒った顔も綺麗だね、とキスをおくったら、なんでそうなるの、と両手で顔を覆ってうつむいてしまった。
暗くてわからないけれど、きっと真っ赤になってるのだろう。本当に可愛い。
再び花火へ向いた彼女を眺めていたら、打ち上げる音の合間に後ろの方でコソコソ話す内容が聞こえてきた。
「見た?!」
「見た見た!」
「これで私達も玉の輿よ!城勤めの姉が言ってたもの、ご領主夫妻のキスを見れたら玉の輿に乗れるって!やったわ!」
ちらりと振り返ってみれば、エミーリアを取り囲んでた子達の何人かが集まって騒いでいる。
まあ、この街の商家とは一通り付き合いはあるし、見つけた時に名前を呼んじゃったし、彼女の髪色はわりと珍しいから僕等に気がつく人もいるだろうとは思っていた。
・・・しかし、会話の内容にどう突っ込んでいいやら。
城でのあの滑稽なジンクスが、難易度を上げて街にまで広がっているなんて。
とりあえず妻が気がついて僕の腕から逃げだす前に、あの子達を黙らせておこう。
僕はそっと振り返って、内緒ね、と口元に人差し指を立てて外向けの笑顔で頼む。
ポーッとなった女の子達は花火の打ち上げと共に、
「私達、ご領主夫妻ファンクラブになりますーっ!」
と叫んで走って行った。
「何か、聞こえなかった?」
「気のせいだよ。」
キョロキョロするエミーリアの頭を固定して、再びキスをしようとしたら彼女から阻まれた。
「今は、花火を見てるの!」
「えー、君が可愛いんだもの。したいな。」
笑顔で押せば大体いけると、僕はこの3日間で学んだことを実行しようとした。
「旦那様!奥様!そろそろご帰邸のお時間ですよ。私も配る物がなくなったので一緒に帰ります~。」
今日はミアか!
裏でヘンリックが糸を引いてるんだろうけど!
エミーリアが瞬時に腕の中から消えて、ミアの横に移動している。
手を取り合ってお疲れ様、とか花火綺麗ね、とか女子トークしている。
もういい、続きは部屋に戻ってから絶対にするから!
■■
おまけ~翌日、王太子執務室~
「リーン、それはだめだ。帰してこい。」
「嫌です。じゃあ、私も一緒に戻ります。」
「なんでそうなる。」
「だって私が見ていないといなくなっちゃうんです。知らない人について行っちゃうんですよ!?」
「屋敷に置いとけばそれはないだろう。仕事の時は嫁は忘れろ。」
「兄上は、義姉上と同じ屋根の下で仕事してるから休憩時間に顔見に行ったり、一緒にお昼食べたり、お茶したりしてるのに!僕はだめなんてひどいですよ!」
「そっちが本音じゃないか。お前、俺がそんな事してるとでも?」
「あら、昨日も一緒にお昼頂いて、お茶しましたわね?新婚の頃はちょくちょく来てらしたのは貴方ではなかったのかしら?」
「アルベルタ!」
「ですよね、義姉上!ほら、兄上だってしてるじゃないですか!」
「でも、執務中はお会いしてませんわよ?ということで、その間は私が預かります。リーン様、しっかりお仕事なさいませ。行くわよ、エミーリア。いっぱいおしゃべりして、着せ替えしましょうね。」
「エミーリアが知ってる人についていったな?」
「あれは、ついてったというより、引きずられていったのでは・・・。いや、ちょっと待って、義姉上、ずるいですよ!」
■■
さらにおまけ~後日ぬいぐるみ店にて~
「こんにちは。店長、ヴォルフ。改めて挨拶に来たよ。彼女が僕の妻のエミーリア。エミィ、彼らがこの店の店長と息子のヴォルフだよ。」
「あら奥様、またお会いしましたね。ぬいぐるみはできましたか?オーナー、花火の時に二人がものすごくいちゃついてたって街の噂になってるよ。」
「ええっ!」
「あれ、誰も見て見ぬふりしてくれなかったの。」
「母ちゃん!いえ、皆、お二人と一緒に広場で花火を見ることができて、さらに仲睦まじいところを見られて喜んでいましたよ。」
「わ、私達のことを皆さんご存知だったんですか?!」
「領主夫妻があの場にいたことは、翌日に凄い勢いで広まってたね。」
その後、僕が正体がバレてるかもしれないと分かってて、キスしたことにエミーリアは怒った。
彼女はなんと、挨拶を終えて店を出てから10分間も口をきいてくれなかった。
「わーん、エミィ、外でキスするのはちょっとだけ控えるから、そっぽ向かないで、僕を見て声を聞かせてよー。」
今度はエルベの街に領主は奥方に勝てないという話が広まった。
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