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【番外編】公爵夫妻、街へ行く3
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sideL
クレープ屋の交通整理や行列解消に人を手配してたら思ったより遅くなってしまった。
せっかくのデートだったのに、この件は後日、代官に苦情を申し立ててやる。
あのぬいぐるみ店ならよく知っているし、店長の息子が元騎士団員で安心安全だから彼女を置いてきたけど、早く戻るに越したことはない。
走って戻って店の扉を開けると、すぐそこに店長がいた。
「オーナー、お久しぶり。遅かったね。」
オーナーと呼ばれて、慌てて口に人差し指を当てて黙ってもらう。
確かにエミーリアに贈るためにあちこちからぬいぐるみを集めていたら、いつの間にか店を持つことになった訳だけど彼女にはまだ言ってない。
「店長、久しぶり。今はオーナーって呼ばないでくれる?」
小声で頼むと不思議そうな顔で返された。
「なんでさ、オーナー。店内には我々しかいないから大丈夫さね。」
「えっ?!」
思わず大声を出してしまった。店内を見渡すと確かに僕以外の客がいない。
・・・いない?!
「肩までの長さの灰色の髪をハーフアップにした綺麗な女の子、来なかった?!」
「来てましたよ。ハーフェルト公爵閣下。この度はご結婚おめでとうございます。」
動揺する僕にカウンターから出てきて、律儀に祝いの言葉を述べてくれる店長の息子。
「ありがとう、ヴォルフ。でも、その妻が行方不明なんだけど?!」
焦りまくる僕を、同情を込めた眼差しで見下ろすヴォルフに恐る恐る尋ねる。
「僕が戻って来るのが遅すぎて、彼女が怒って帰っちゃったとか?何か伝言ある?」
言いながら、エミーリアがそんなことをするはずがないのは分かっていた。
いっそ、そうであればいいのにと思うほどに、頭の中は悪い想像でいっぱいになる。
「奥方ならオーナーのファンの連中に連れてかれたよ。」
「はあ?!」
店長が天気の話をするような口調で放った台詞に驚愕する。
え、誘拐?!
「知ってるだろ?お前さんのことが好きな、そこのイルメ商会の娘がトップに君臨しているファンクラブ。」
「知らないよ、そんなもの!なんで、止めてくれなかったの?!」
「娘っこの喧嘩に割って入る気はないし、彼女達はお得意様だしねえ。」
「そんな理由っ?!」
「オーナーが奥方から離れなきゃ良かっただけだろうが。」
「それを言われると辛いんだけど。こうしちゃいられない、探さなきゃ。」
「公爵閣下。多分、川沿いにいると思いますよ。そこの路地を抜けて行きましたから。」
「ヴォルフ、ありがとう!感謝する。また改めて彼女を紹介しに来るから。」
僕はそう叫ぶと店を飛び出した。
「母ちゃん、坊っちゃんがあんなに慌てるのを見たのは初めてだな。」
「そうだね。まあ、この店も奥方のためのようなもんだし、あれくらい大事にしてるならこの店も安泰かね。」
「奥方様はぬいぐるみが好きそうだったね。」
「半分はお前が作ってると知ったら、どう思うかねえ。」
■■
sideE
「貴方、ハルト様とどういう関係?」
「見たことない顔ね。どこから来たの?」
「ハルト様とどうやって知り合ったの?!私達なんて、どれだけ頼んでも泣いても怒っても手なんて繋いでくれなかったのに!」
「食べ物も飲み物も受け取ってくれないし。惚れ薬も媚薬も仕込みようがなかったわ。」
「誘拐しようと思っても難なく返り討ちにされるし。」
「そこも良くて皆で相談してファンクラブを作って、抜け駆け禁止でやってきたのに、どこの馬の骨かわからないぽっと出の女に持っていかれるなんてひどすぎるわ!」
えー、現在大勢の女の子たちに取り囲まれて苦情を言われている私、エミーリアです。
なんか、後半ものすごく不穏な犯罪っぽい台詞が聞こえてきたけども、冗談よね?
学園でもお呼び出し等あったけれど、それは彼の身分が大きな要因かと思っていたら、そうでもなかったようで。
私の夫は素のままでも人気があるのね。妻としては大変複雑な発見だわ。
私は橋の下まで連れてこられ、背を石組みの橋台に預けた体勢で、彼女達に取り囲まれている。
頭上を忙しく馬車や人が往来し、大きな声で話していても、こちらには誰も気が付かない。
学園時代は全てスルーできたのに、まさか今になってこんな目に遭おうとは予想もしていなかった。
「貴方、黙ってないでなんとか言ったらどうなの?」
正面の目の大きな可愛らしい顔をした女の子が、腕を伸ばして私の肩をとんと突いた。
おや、こういう集まりで私は発言してもいいの?皆様の不満をただただ拝聴する会だと思っていたわ。
まあ、ぶっちゃけ私にはどうしようもない不満を延々と聞かされるのは嫌なので、終わりにしたいとは思っていた。
私はリーダーの目をまっすぐに見つめ返して尋ねる。
「では、発言をお許し頂いたようなので、お尋ねいたします。それで、貴方がたは私に何をお求めなのですか?」
アルベルタ様に習ったとおり、相手から目を逸らさず対峙する。
このやり方、貴族以外にも使えるわよね?
少女達が怯んだ。最後尾、なぜ、そこで後退るのよ?
さすがにリーダーは怯まず、私に指を突きつけて叫ぶ。
「そんなの決まっているじゃない!2度とハルト様に近づかないで!」
私は首を傾げた。それは、決まってるの?
想像してみよう。例えばもし、私がリーンに近づかないようにしたら、彼はどうするだろう。
きっと全力で追いかけてきて、私が離れないようにする。
ということで、彼女の要求は実現不可能だ。
「それはできません。なぜなら、私は・・・リ、ハルトの、つ、恋人ですから。」
いけない、いけない。いつものように呼んだり、うっかり妻というところだった。
だが、どもり過ぎて不審を抱かせてしまったようで、少女達の目が一様に据わった。
「貴方、本当にハルト様の恋人なの?なんか、おかしいわね。もしかして、私達を諦めさせるために心優しいハルト様に、恋人役を頼まれたの?だったら許してあげるわ!」
リーダーの言葉に一斉に彼女達が安堵の笑顔になる。
やばい、変な方向に誤解されてしまった。
そんなふうに思われたら困る!私は急いで否定した。
「いいえ、本当に恋人です。なので、貴方がたの要求には応えられませんし、これ以上話すことはありません。」
はっきり言い切ってこの場を終わらせようと試みる。
「なんですって?!せっかく許してあげようと思ったのに!貴方がハルト様と別れるっていうまでここから帰さないから!」
彼女達が一歩踏み込んで迫ってきた。言っていることが、母とはまた違う感じに理不尽極まりない。
私は言いかけた言葉を飲み込んだ。
母を思い出すと、まだ少し足が竦む。
息を吸ってー吐いてー。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
大丈夫、この子達は母じゃないし、ハサミは持っていない。
少女達を見回す。私に対する負の感情が渦巻いている。
リーンが好きなのはわかったけど、この子達は彼の正体を知らないはずで。
「あのう、ハルトと私が別れたとして、その後どうされるのですか?彼もいずれ結婚はしますよね?でも相手は一人だけですよね?」
どうするつもりなのかと素朴な疑問を放ったら、彼女達に動揺が走った。
まさか、ずっと邪魔し続けて、彼を独身でいさせるつもりだったの?!
実際はもう結婚しちゃってるけども。
「それから、もうすぐ彼は私を見つけると思います。」
その一言でざわめきが起こった。
いや、何でそこで驚くのよ。普通、デート中の相手が消えたら必死で探すでしょ。私だってリーンがいなくなったら探し回るわよ?
「え、ハルト様にこんなところ見られたら・・・。」
「2度とあの方の前に出られないかも。」
「この人が本物の恋人だったら、ヤバくない?」
少女達が口々に不安を漏らし始めた。
「黙りなさいよ!ハルト様は皆のものなの。結婚なんてさせないんだから!そう決めたでしょ?」
リーダーの子は周囲を黙らせると、私に詰め寄ってきた。
「貴方も!今すぐ別れるって、2度とハルト様に近付かないって言いなさいよ!その綺麗な顔に傷とか出来たら嫌でしょ?」
この子、遂に脅してきた。
顔に傷とは、なかなか恐ろしいことを言うわね。母より上かも。
ただ、刃物はお持ちでないようだけど。
リーンの気持ちも何も知らないのに、ここまで自分勝手なことばかり言えるのは何故かしら。
彼女達がそんなに勝手なことばかり言うなら、私だって言いたいこと言わせてもらわなきゃ。
私が口を開きかけたその時、頭上から声がした。
「エミーリア!見つけた!」
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クレープ屋の交通整理や行列解消に人を手配してたら思ったより遅くなってしまった。
せっかくのデートだったのに、この件は後日、代官に苦情を申し立ててやる。
あのぬいぐるみ店ならよく知っているし、店長の息子が元騎士団員で安心安全だから彼女を置いてきたけど、早く戻るに越したことはない。
走って戻って店の扉を開けると、すぐそこに店長がいた。
「オーナー、お久しぶり。遅かったね。」
オーナーと呼ばれて、慌てて口に人差し指を当てて黙ってもらう。
確かにエミーリアに贈るためにあちこちからぬいぐるみを集めていたら、いつの間にか店を持つことになった訳だけど彼女にはまだ言ってない。
「店長、久しぶり。今はオーナーって呼ばないでくれる?」
小声で頼むと不思議そうな顔で返された。
「なんでさ、オーナー。店内には我々しかいないから大丈夫さね。」
「えっ?!」
思わず大声を出してしまった。店内を見渡すと確かに僕以外の客がいない。
・・・いない?!
「肩までの長さの灰色の髪をハーフアップにした綺麗な女の子、来なかった?!」
「来てましたよ。ハーフェルト公爵閣下。この度はご結婚おめでとうございます。」
動揺する僕にカウンターから出てきて、律儀に祝いの言葉を述べてくれる店長の息子。
「ありがとう、ヴォルフ。でも、その妻が行方不明なんだけど?!」
焦りまくる僕を、同情を込めた眼差しで見下ろすヴォルフに恐る恐る尋ねる。
「僕が戻って来るのが遅すぎて、彼女が怒って帰っちゃったとか?何か伝言ある?」
言いながら、エミーリアがそんなことをするはずがないのは分かっていた。
いっそ、そうであればいいのにと思うほどに、頭の中は悪い想像でいっぱいになる。
「奥方ならオーナーのファンの連中に連れてかれたよ。」
「はあ?!」
店長が天気の話をするような口調で放った台詞に驚愕する。
え、誘拐?!
「知ってるだろ?お前さんのことが好きな、そこのイルメ商会の娘がトップに君臨しているファンクラブ。」
「知らないよ、そんなもの!なんで、止めてくれなかったの?!」
「娘っこの喧嘩に割って入る気はないし、彼女達はお得意様だしねえ。」
「そんな理由っ?!」
「オーナーが奥方から離れなきゃ良かっただけだろうが。」
「それを言われると辛いんだけど。こうしちゃいられない、探さなきゃ。」
「公爵閣下。多分、川沿いにいると思いますよ。そこの路地を抜けて行きましたから。」
「ヴォルフ、ありがとう!感謝する。また改めて彼女を紹介しに来るから。」
僕はそう叫ぶと店を飛び出した。
「母ちゃん、坊っちゃんがあんなに慌てるのを見たのは初めてだな。」
「そうだね。まあ、この店も奥方のためのようなもんだし、あれくらい大事にしてるならこの店も安泰かね。」
「奥方様はぬいぐるみが好きそうだったね。」
「半分はお前が作ってると知ったら、どう思うかねえ。」
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「貴方、ハルト様とどういう関係?」
「見たことない顔ね。どこから来たの?」
「ハルト様とどうやって知り合ったの?!私達なんて、どれだけ頼んでも泣いても怒っても手なんて繋いでくれなかったのに!」
「食べ物も飲み物も受け取ってくれないし。惚れ薬も媚薬も仕込みようがなかったわ。」
「誘拐しようと思っても難なく返り討ちにされるし。」
「そこも良くて皆で相談してファンクラブを作って、抜け駆け禁止でやってきたのに、どこの馬の骨かわからないぽっと出の女に持っていかれるなんてひどすぎるわ!」
えー、現在大勢の女の子たちに取り囲まれて苦情を言われている私、エミーリアです。
なんか、後半ものすごく不穏な犯罪っぽい台詞が聞こえてきたけども、冗談よね?
学園でもお呼び出し等あったけれど、それは彼の身分が大きな要因かと思っていたら、そうでもなかったようで。
私の夫は素のままでも人気があるのね。妻としては大変複雑な発見だわ。
私は橋の下まで連れてこられ、背を石組みの橋台に預けた体勢で、彼女達に取り囲まれている。
頭上を忙しく馬車や人が往来し、大きな声で話していても、こちらには誰も気が付かない。
学園時代は全てスルーできたのに、まさか今になってこんな目に遭おうとは予想もしていなかった。
「貴方、黙ってないでなんとか言ったらどうなの?」
正面の目の大きな可愛らしい顔をした女の子が、腕を伸ばして私の肩をとんと突いた。
おや、こういう集まりで私は発言してもいいの?皆様の不満をただただ拝聴する会だと思っていたわ。
まあ、ぶっちゃけ私にはどうしようもない不満を延々と聞かされるのは嫌なので、終わりにしたいとは思っていた。
私はリーダーの目をまっすぐに見つめ返して尋ねる。
「では、発言をお許し頂いたようなので、お尋ねいたします。それで、貴方がたは私に何をお求めなのですか?」
アルベルタ様に習ったとおり、相手から目を逸らさず対峙する。
このやり方、貴族以外にも使えるわよね?
少女達が怯んだ。最後尾、なぜ、そこで後退るのよ?
さすがにリーダーは怯まず、私に指を突きつけて叫ぶ。
「そんなの決まっているじゃない!2度とハルト様に近づかないで!」
私は首を傾げた。それは、決まってるの?
想像してみよう。例えばもし、私がリーンに近づかないようにしたら、彼はどうするだろう。
きっと全力で追いかけてきて、私が離れないようにする。
ということで、彼女の要求は実現不可能だ。
「それはできません。なぜなら、私は・・・リ、ハルトの、つ、恋人ですから。」
いけない、いけない。いつものように呼んだり、うっかり妻というところだった。
だが、どもり過ぎて不審を抱かせてしまったようで、少女達の目が一様に据わった。
「貴方、本当にハルト様の恋人なの?なんか、おかしいわね。もしかして、私達を諦めさせるために心優しいハルト様に、恋人役を頼まれたの?だったら許してあげるわ!」
リーダーの言葉に一斉に彼女達が安堵の笑顔になる。
やばい、変な方向に誤解されてしまった。
そんなふうに思われたら困る!私は急いで否定した。
「いいえ、本当に恋人です。なので、貴方がたの要求には応えられませんし、これ以上話すことはありません。」
はっきり言い切ってこの場を終わらせようと試みる。
「なんですって?!せっかく許してあげようと思ったのに!貴方がハルト様と別れるっていうまでここから帰さないから!」
彼女達が一歩踏み込んで迫ってきた。言っていることが、母とはまた違う感じに理不尽極まりない。
私は言いかけた言葉を飲み込んだ。
母を思い出すと、まだ少し足が竦む。
息を吸ってー吐いてー。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
大丈夫、この子達は母じゃないし、ハサミは持っていない。
少女達を見回す。私に対する負の感情が渦巻いている。
リーンが好きなのはわかったけど、この子達は彼の正体を知らないはずで。
「あのう、ハルトと私が別れたとして、その後どうされるのですか?彼もいずれ結婚はしますよね?でも相手は一人だけですよね?」
どうするつもりなのかと素朴な疑問を放ったら、彼女達に動揺が走った。
まさか、ずっと邪魔し続けて、彼を独身でいさせるつもりだったの?!
実際はもう結婚しちゃってるけども。
「それから、もうすぐ彼は私を見つけると思います。」
その一言でざわめきが起こった。
いや、何でそこで驚くのよ。普通、デート中の相手が消えたら必死で探すでしょ。私だってリーンがいなくなったら探し回るわよ?
「え、ハルト様にこんなところ見られたら・・・。」
「2度とあの方の前に出られないかも。」
「この人が本物の恋人だったら、ヤバくない?」
少女達が口々に不安を漏らし始めた。
「黙りなさいよ!ハルト様は皆のものなの。結婚なんてさせないんだから!そう決めたでしょ?」
リーダーの子は周囲を黙らせると、私に詰め寄ってきた。
「貴方も!今すぐ別れるって、2度とハルト様に近付かないって言いなさいよ!その綺麗な顔に傷とか出来たら嫌でしょ?」
この子、遂に脅してきた。
顔に傷とは、なかなか恐ろしいことを言うわね。母より上かも。
ただ、刃物はお持ちでないようだけど。
リーンの気持ちも何も知らないのに、ここまで自分勝手なことばかり言えるのは何故かしら。
彼女達がそんなに勝手なことばかり言うなら、私だって言いたいこと言わせてもらわなきゃ。
私が口を開きかけたその時、頭上から声がした。
「エミーリア!見つけた!」
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