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24.婚約者とキス

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■■

sideE



してやられた!



私は地団駄を踏みそうになって、必死に思いとどまる。



なんとか2人とも間違えずに結婚式は進み、最後の誓いのキスまできた。







アレクシアの結婚式後、誓いのキスは人前だし、鼻血吹いたら大変だし、唇にしないよね?と確認してたのに!



現在思いっきり、唇が触れ合ってますけど?!



確かに貴方とのキスが嫌なわけではない、と言いましたが!



結婚式ではしないよね?と尋ねたら、そのほうがいいかもね、検討しとくね、と、しないとの確約はもらえないままだったけども!



昨夜寝る前は、頬にキスもいいかもね、とか言ってたから安心してたのに!騙された!



リーンのかもは2度と信じない!







おかげで動揺し過ぎた私は、ブーケを取り落とし、慌ててそれを拾おうとしてドレスの裾を踏んで思いっきり前につんのめった。



「きゃっ?!」

「おっと!」



すかさず目の前のリーンが私を受け止め、あろうことかそのまま抱き上げた。



あまりにも想定外が起こり過ぎた結果、私の意識はそこで途切れた。







■■

sideL







待ちに待った結婚式は粛々と進み、最後に近づいた。



後は誓いのキスをして立ち会いの神官から言葉をもらい、退場するだけだ。



隣のエミーリアは終始笑顔で、淡々とこなしていたけれど、内心がっちがちに緊張しているのが伝わってきた。



僕は割とこういう場に慣れているけれど、彼女は初めてで、昨日まで一生懸命練習したり脳内シュミレーションしたりして今日に備えていた。



その様子を思い出して、目の前の彼女の笑顔を見たら、愛しさが限界を超えて、気がついたら唇へキスをしていた。



直前まで、彼女の希望ならばと頬にするつもりでいたんだけど。

僕もまあ、少しは緊張していたのかもしれない。







キスした後の彼女の変化は激烈だった。

白い肌が一瞬で真っ赤に染まり、ブーケを落とし、そのままコケた。



やっちゃったなと思ったのは一瞬で、僕は即座に彼女を抱き上げ、そのままで話を聞いて退場した。



何の反応もなかったので、彼女は多分、思考停止していたんだと思う。

笑顔だけは保っていたのが流石だった。







聖堂の外に出ると、普通は出席者が祝いの言葉をかけてくれるんだけど、僕達の場合は違った。



皆が口々に

「一緒に暮らしてたのに、キスもまだだったの?」

「もう一緒に寝てるってヘンリックから聞いてたから、てっきりそうだと思って安心してたのに、貴方達、キスもまだだったのね?!」

「そうだそうだ、すぐに孫に会えそうだと思ってたら、奥手すぎやしないか?お前の言っていた欲はどこにあるんだ?」

「いやー、義妹にまだ手を出してなかったんだね。初々しい感じで良かったよ!」



などなど、エミーリアを抱いたままの僕を取り囲んで、皆好き勝手言ってくれた。



ほとんど僕に対する非難だよね?!祝いの言葉はどこいったの?!







僕の腕の中で長らく固まっていたエミーリアは、正気を取り戻すと同時に、かわいそうなくらい落ち込んでしまった。



それを見た義姉上達は、手のひらを返すように口々に祝いの言葉を述べる。

さらにブーケを落としたり、コケたりはよくあることだから気にするなと慰め始めた。



この僕との扱いの差!まあ、逆より余程いい。







エミーリアのことは義姉上達に任せて、僕は1人、離れた所にいる兄へ近づいた。



僕が来るのを見るや、兄はもたれていた木から身体を離し、読んでいた書類を控えていた部下に渡して指示を出した。



「兄上、手伝いましょうか?夜まで時間ありますし。」

「いや、いい。お前どうせ明日から休暇だろ?それが終わってからでいい。」

「珍しい・・・お気遣いありがとうございます。」



目を丸くした僕を兄が軽く小突いた。



「それよりお前、やってくれたな。」

「何の話ですか?」

「恍けるなよ、ちゃっかりタリアメント伯爵をエミーリアの後見につけやがって。ノルトライン家の価値を下げたな。」



やっぱり言われたか。用意の言い訳を引っ張り出す。



「やはり、私の妻にはそれなりの後ろ盾があったほうが良いと陛下が仰るので。彼女の親族で頼れそうなのは姉の嫁ぎ先しかなかったんですよ。」



「よくもまあ、ぬけぬけと。お前のとこなんてもう十分過ぎるくらい地位も権力も金もあるくせに。」



「兄上、それはハーフェルト家のものであって、彼女だけのものは何もないんですよ。黙ってことを進めたことは謝ります。どうしても、彼女自身を護れるものが必要だったんです。」



「言いたいことはわかるが。タリアメント伯爵と2か所で繋がっている方がいいのは確かだしな。」



兄は大きくため息をついて、その話題を終わらせた。



「まあ、とにかく結婚おめでとう、リーン。エミーリアと幸せにな。しかし、キスした時の彼女の反応は面白すぎたな。」



「ありがとうございます。僕を祝ってくれるのは兄上だけですよ。ええ、本当にエミーリアはかわいいでしょ?」



僕の返しに兄は眉間にシワを寄せる。



「婚約した時から思っていたんだが、お前の彼女に対するその執着というか、好意はどこからきてるんだ?」



「どこから?それは彼女のどこが好きかということですか?」

「まあ、そんな感じかな。お前、5歳で婚約しただろ。あれから今まで大勢の令嬢達と会ったはずなのに、最初の一人をずっと想うってどうやれば出来るのかと。」



父似の真っ直ぐな髪を、手でくしゃりとしながら兄はそっぽを向いた。



兄弟間でこういう話はしたことがないから、照れてるのか。



「それ、よく聞かれます。確かに、エミーリアと長く会えない間、他の令嬢達に目を向けたこともありますよ。でも、身体に異常が出るほど好きになったのは彼女だけだったんですよね。」



「ああ、お前にはそれがあったな。」



納得されるのもどうなんだろう。僕が思っているより皆、この体質を便利に使ってないか?



僕は頭をがりがりかきながら、続けた。やっぱり兄とこういう話は照れくさい。



「実は、3カ月前まで彼女は僕との婚約破棄に奔走していまして。それが成立したら、僕は跡継ぎのために他の女性と結婚しないといけないと思っていました。それでヘンリックが張り切って候補者を何十人も挙げてくれたのですが、嫌われていようと実際にエミーリアが近くにいると、他の令嬢には全く興味が湧かなかったんですよね。」



「3ヶ月前?そういやお前、一時期、黒くて底なしの、夜の海の様だと侍女や部下から怖がられていたな。それが今や婚約者を溺愛している水の王太子補佐殿だっけか。変わるもんだな。・・・あれ、そこまで嫌われてたのに、どうやってここまでこぎつけたわけ?」



「ある出来事のおかげで嫌われてたんじゃなくて、お互い好きなのに、ただすれ違っていただけだったとわかったのです。ノルトライン侯爵夫人のおかげでかなり拗れてましたけどね!」



「なるほど。それは恨みが深そうだ・・・じゃなくて、婚約破棄にならなくて良かったな。」



「ええ、本当に。だからですね、無理に想い続けてたわけではなくて、お互い自然とそうなってたということなんですよ。結局、何も損得感情のない年齢で出会って、一目惚れしたのが大きかったのかなあ。」



「結局、一目惚れのひと言に集約されるわけか。」



「そうなるのかもしれません。具体的に言うと、彼女は見た目キリッとした美人なのに、中身が実は寂しがり屋の甘えたがりで、普段は強気なのに恋愛関係はものすごく恥ずかしがるところとか、頑張りやさんなところが可愛くてたまらないですね。」



それを聞いて兄が呆れた顔をして僕を見る。



「よくもまあ、ずらずらと出るもんだ。今日はいいが、仕事中にそうやって俺の前で惚気るなよ?」



できうる限り、その方向で善処します。



心の中でそう答えて、兄には無言の笑みで返した。

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