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8.挙動不審な婚約者

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■■

sideE



今日こそは!第2王子の秘密を見つけるぞ!

と毎日心の中で繰り返すこと約半月。



さっぱりわからない。



側近のヘンリックが邪魔なんだと思う。



彼を買収するか、籠絡して味方にすればあっという間にわかるんだろうけど、そっちのほうが難しいわ!







「エミーリア、ランチに行きましょ?」



午前の授業が終わると、友達のアレクシアが声をかけてきた。



彼女は伯爵令嬢で、私より背が低く、艶やかな黒髪に青い目という可愛らしい容姿をしている。

そして、彼女も私と同じく卒業後すぐに結婚する。彼女の場合は、婚約者が10も年上なのでさもありなん、というところだが。







「聞いてよ、エミーリア!ギュンター様が昨日お花を持って会いにきてくれたの。」



最近のアレクシアの話題は婚約者のギュンター様一色だ。

私まで彼の動向や好みをすべて把握しそうな勢いだ。



「アレクシアの婚約者は格好良くて、背が高くて、頼りがいがあって、剣の腕が立つ素敵な人でいいわね。結婚するのが楽しみなのわかるわ。」



毎日言っている台詞なので口からスラスラ出る。しかし、そんな完璧な人この世にいるのかしら。



「もちろん私の婚約者は世界一素敵な方よ!でも、エミーリアだって、婚約者がお伽話の王子様のようでいいわよねえ。」



そりゃまあ、王子様だからね・・・。



「で、貴方の婚約者はお伽話に出てくる最高にかっこいい騎士様だって言うんでしょ?」

「そう!本当に物語から出てきたみたいなんだから!」

「結婚式でお目にかかれるのを楽しみにしてるわ。」



この話をしている時のアレクシアは、頬が上気してとてもかわいらしくなる。姉も結婚前はこんな感じだった。



翻って同じ状況のはずの私はどうだろう。周りから見れば違いは一目瞭然よね。



そりゃ、第2王子の婚約者の座を手に入れられるかも、と思う人が出てくるのも仕方ない程に私達は冷めている。・・・いや、冷めていた。



食後のお茶を飲みながら、いつものように婚約者の話を続けるアレクシアに相槌を打ちつつ、この時間いつも窓の向こうの中庭にいる私の婚約者に目を遣った。



今日の第2王子は、外のベンチで他の生徒と談笑していた。男女問わず慕われて、笑顔で応対・・・。

私以外とは普通に目を合わせているわねえ・・・。

私のどこが、そんなに目をそらすほどだめなのかしら。



今更好かれたいとは思わないけれど、ちょっと落ち込む自分が嫌だ。







ぼーっとその光景を眺めていたら、第2王子に気づかれて手を振られた。

これで今日、目が合ったのは2回目だ。

最近は一日3回も目が合う。

多分、あとは帰りの挨拶の際に、ちょっと長めに目を合わせて終わりだ。



私はなんとなく、彼と目があった回数を毎日数えるようになっていた。







ふっと思いついて、いつもは振り返さない手を彼に向かって振ってみた。



途端、彼が立ち上がってどこかへ消えた。



んん?



今の、なんだろう?



私が手を振ったのが、いけなかったの?







「もー!同い年っていいなー!学園内でいちゃつけるんだもん。」



突然、そう叫んで前の席で悶えるアレクシアの台詞に私は固まった。



「いちゃつく、とは?」

「今、殿下とエミーリアがやってたじゃない。いいよねー!ガラス越しに手を振り合うって。私も彼と一緒に学園に通いたかったー!そして、一緒に登下校して、ランチして、放課後デートするの!」



もしもし、アレクシアさん。私と第2王子は一緒の学園に通っているのに、どれもしたことがないのですが?



やっぱり私達はいちゃついてないな。と結論づけて、私はアレクシアに現実を告げる。



「でも、すぐにいなくなったわ。私が手を振り返したのが気に入らなかったんじゃないかしら。」

「そんなはずないわよ。用でも思い出したんじゃない?大好きな婚約者から手を振り返されて嫌がる人はいないでしょ。」

「大好きな婚約者・・・って私?!そんなバカな!」

「だって、殿下はエミーリアが大好きじゃない。」

「?!」



未知の言語を聞いた。



家では引きこもりで街にも行ったことがなく、物を知らない私にとって、アレクシアは様々なことを教えてくれる大事な友達だ。



だがしかし。



第2王子が私を好き、などという話はありえない。間違っている。信じられるはずがない。



限界まで目を見開いて驚愕している私に、アレクシアも同じくらい驚いている。



「え、気がついてなかったの?!」

「気がつくって、どこで?!何で?!だって、ずっと話してなかったし、学園以外で会うこともなく、目も合わないのに?!」



「え、何それ。そうなの?」



そういえば、今まで彼女の婚約者についての話は散々聞いたけれど、私の話はしたことがなかった。



腹を括って、婚約してから今までの没交渉っぷりを全てぶちまけた。







「というわけで、第2王子が私を好きなはずがないの!」



勢いこんでそう締めくくった私をアレクシアは呆気にとられた顔で見ている。



そのままの表情で細かく頷くと、腕を組んで頭を傾けた。



「うーん。そう言われれば確かに、こないだまでの貴方達は不仲を噂されていたというか、婚約破棄間近とまで言われていたわねえ・・・。今の殿下とどちらが本当なのかしら?」



裏庭でこっそりしていたつもりだが、婚約破棄は噂になっていたようだ。全て失敗に終わったが。



アレクシアに全部話して、胸のつかえがとれたようにすっきりした。

そういえば、祖父が亡くなってから、こうやって誰かに心の内を話したことはない。



話すことによって、何かが解決したわけじゃないけど、なんとなく気持ちが軽くなって私はホッと息をついた。







アレクシアはそんな私を見つめて、首をひねる。



「今の殿下が貴方のことを大好きなのは誰が見てもわかるんだけど、以前のその無関心ぶりというか避けていた理由がわからないわね。」



私もアレクシアを見つめて、首をひねる。



「私は好かれてるなんてちっとも思わないけれど。第2王子が私のことを大好きだというなら、他の人のことはもっと大好きね。」



「あら、無差別やきもち?」

「?!」



私が、誰にやきもちを焼いていると?!







■■

sideL





学園内某所。



「エミーリアが、僕に手を振ってくれた!」

「ああ、はいはい、良かったですね。はい、タオル換えてください。」



主はエミーリア嬢が手を振り返してくれたというだけで、嬉しさのあまり、いつもの事態に陥った。もちろん、午後からの授業は欠席。

本当にいいのか、これで。



新しいタオルで鼻を押さえつつ、主が真面目な声を出す。



「それで、先日頼んだ僕のプレゼントの行方はわかった?」

「は。いえ、先日ご報告した通り、エミーリア嬢がカードしか受け取っていないことが判明しまして、犯人も大体見当はついているのですが、侯爵家内のことにて、なかなか、証拠がつかめず・・・。」



「ふーん。僕が直接確認に行ったほうが早いかな?」

「もう少しだけ、お待ちください。」

「わかった。結婚前だし、大ごとにはしたくないからね。よろしく頼むね。」



「承知いたしました。・・・ところで、今日はもう帰城するということでよろしいですね。」

「え?!嫌だ!今日はエミーリアとまだ2回しか目を合わせてない!」

「その様子では無理でしょう。とどめを刺されたらどうするのですか。」



「・・・何不自由なく彼女と会いたい。彼女に触れたい。彼女のあの灰色の瞳をいつまでも見ていたい。本当にどうにかならないかなあ、この体質。」







結婚式まで、あと1ヶ月半。

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