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ハイヒウォッツ市
#55 温泉
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二人に浴衣を着せてもらった後に、私達は露天風呂と呼ばれるところに向かった。長い廊下を歩いていると突き当たりに二手に分かれる道があった。左に入ると、カーテンのようなものがあり、それを潜ると、ガラスの引き戸が目の前に現れた。靴を脱ぎ、引き戸を開けると驚きの光景が広がっていた。
私の目の前には、裸体のご老人がいたのだ。私は見てはいけないものを見てしまった気がして目を逸らした。しかし、目を移したところにもまた裸体の女の人がいた。私はどこを見ることもできず、俯くしかなかった。
俯きながら歩いていると、アリーは突然止まったので私はアリーにぶつかってしまった。
「…なんで俯いてるの?」
「だって、みんな裸だから…」
「あははは!そっか。ベリアは初めてだもんね。
ゴーゾム文化ではね、『裸の付き合い』っていうのがあるの。温泉では知らない人達や親しくない人達と裸でくつろいで交流を深めるっていうのがあるのよ。」
「じゃあ、ここで脱ぐんですか…?」
「恥ずかしいかも知れないけど、すぐ慣れるわよ。」
そう言うと、アリーは浴衣の帯をほどき、すぐに脱ぎ始めてしまった。私は恥ずかしかったが、勢いに任せて帯を解き、上の下着を脱ごうとした。しかし、背中でつっかえてうまく脱げない。痛みが無くて忘れていたが、モウカに貼ってもらっていたガーゼがつっかえたのだ。その様子を見たアリーは私のガーゼを剥がそうとした。私は隠そうとしたが、もう遅いと思い剥がされるのを待った。
「……このアザはノイシュロスでの?」
「生まれつきです…。」
「……痛くない?お風呂入れそう?」
「もう痛くないので大丈夫だと思います。ただ、火傷が心配で…。」
「火傷?どこか火傷したの?」
「えっ、だって背中に……」
私はハッとしてすぐに背中を触った。火傷の跡がない。ヒリヒリとした痛みもない。再びあの恐怖が私の体を駆け巡った。モウカは私の治癒能力については何も言わなかった。軟膏のおかげだとしてもこんな短時間で綺麗に治るはずがない。ノイシュロスで出来た火傷は普通のものではないのだ。私の額の傷はこんなに早くは治らなかった。私は普通の人間ではない。その事実だけが私の頭の中にずっしりと居座っていた。
「ベリア?大丈夫?」
「……はい。大丈夫です。」
アリーの声を聞くと自然に恐怖が消え失せた。私は気を取り直し服を脱いだ。
「早く行きましょ。」
「うん、そうだね。」
タオルを一枚持って厚く重いガラス戸を開けた。その瞬間、熱風と共に独特な匂いが鼻を通った。そこには広々とした空間に大きな湯船があり、その中で数名の女性が気持ちよさそうにくつろいでいた。私たちも体を一通り洗い、その中にゆっくりと浸かった。独特の匂いがする湯はいつもの風呂湯より肌触りの良い湯だった。少し熱くて驚いたが、時間が経つと自然に気持ち良くなっていった。
「…モウカさんと話してたことって背中のアザのこと?」
「……。」
「ナマイトダフで落ち着いたら、また話してね。」
「はい…。」
アリーは俯きながら肩に湯をかけた。その肩には大きな傷跡があった。
「その傷……」
「あ、これ?初めてノイシュロスに行った時にディモンに付けられたの。」
「大変ですね……」
「まあね…。
ところでさ、あの男の子とはどこで知り合ったの?」
「あの子は私がシュタンツファーで怪我してしまった時に手当てしてくれたんです。」
「怪我?」
私は額の傷跡を見せながら、シュタンツファーであったことを説明した。その間、アリーは頷きもせず、真剣な顔をして傷を見ていた。
「そっか…そんなことがあったんだね。」
「はい…。」
私はまた沈黙してしまった。しかし、その様子を見てか、アリーは急に私の顔に湯をかけた。
「ちょっ!何するんですか!?」
「ふふっ、ここの湯は傷によく効くのよ。」
「そ、そうなんですか…。って、もっとかけ方があるじゃないですか!?」
「あはははっ!可愛いな、ベリアは!」
私たちは自然と笑顔になっていた。これが姉妹。さっきまで暗く落ち込んでいたのに、一緒にいるだけで不安も恐怖も自然となかったことのようになる。
「そっか…。そうなると、好きなっちゃっても仕方ないよね…。」
「だからそんなんじゃないですってば!!」
「あ!赤くなった!」
「え!…のぼせただけです!早く出ましょ!」
「やっぱり可愛いな~」
その後は、部屋に戻って美味しいご飯を食べ、柔らかい布団に横になった。明日は十三時に電車が出るらしい。ナマイトダフに行けば、アリーの言っていたように働かなければいけない。ワイルとのことにも向き合い始めなければならない。ここにずっと居続ければ良いのに。そう思いながら眠りについた。
私の目の前には、裸体のご老人がいたのだ。私は見てはいけないものを見てしまった気がして目を逸らした。しかし、目を移したところにもまた裸体の女の人がいた。私はどこを見ることもできず、俯くしかなかった。
俯きながら歩いていると、アリーは突然止まったので私はアリーにぶつかってしまった。
「…なんで俯いてるの?」
「だって、みんな裸だから…」
「あははは!そっか。ベリアは初めてだもんね。
ゴーゾム文化ではね、『裸の付き合い』っていうのがあるの。温泉では知らない人達や親しくない人達と裸でくつろいで交流を深めるっていうのがあるのよ。」
「じゃあ、ここで脱ぐんですか…?」
「恥ずかしいかも知れないけど、すぐ慣れるわよ。」
そう言うと、アリーは浴衣の帯をほどき、すぐに脱ぎ始めてしまった。私は恥ずかしかったが、勢いに任せて帯を解き、上の下着を脱ごうとした。しかし、背中でつっかえてうまく脱げない。痛みが無くて忘れていたが、モウカに貼ってもらっていたガーゼがつっかえたのだ。その様子を見たアリーは私のガーゼを剥がそうとした。私は隠そうとしたが、もう遅いと思い剥がされるのを待った。
「……このアザはノイシュロスでの?」
「生まれつきです…。」
「……痛くない?お風呂入れそう?」
「もう痛くないので大丈夫だと思います。ただ、火傷が心配で…。」
「火傷?どこか火傷したの?」
「えっ、だって背中に……」
私はハッとしてすぐに背中を触った。火傷の跡がない。ヒリヒリとした痛みもない。再びあの恐怖が私の体を駆け巡った。モウカは私の治癒能力については何も言わなかった。軟膏のおかげだとしてもこんな短時間で綺麗に治るはずがない。ノイシュロスで出来た火傷は普通のものではないのだ。私の額の傷はこんなに早くは治らなかった。私は普通の人間ではない。その事実だけが私の頭の中にずっしりと居座っていた。
「ベリア?大丈夫?」
「……はい。大丈夫です。」
アリーの声を聞くと自然に恐怖が消え失せた。私は気を取り直し服を脱いだ。
「早く行きましょ。」
「うん、そうだね。」
タオルを一枚持って厚く重いガラス戸を開けた。その瞬間、熱風と共に独特な匂いが鼻を通った。そこには広々とした空間に大きな湯船があり、その中で数名の女性が気持ちよさそうにくつろいでいた。私たちも体を一通り洗い、その中にゆっくりと浸かった。独特の匂いがする湯はいつもの風呂湯より肌触りの良い湯だった。少し熱くて驚いたが、時間が経つと自然に気持ち良くなっていった。
「…モウカさんと話してたことって背中のアザのこと?」
「……。」
「ナマイトダフで落ち着いたら、また話してね。」
「はい…。」
アリーは俯きながら肩に湯をかけた。その肩には大きな傷跡があった。
「その傷……」
「あ、これ?初めてノイシュロスに行った時にディモンに付けられたの。」
「大変ですね……」
「まあね…。
ところでさ、あの男の子とはどこで知り合ったの?」
「あの子は私がシュタンツファーで怪我してしまった時に手当てしてくれたんです。」
「怪我?」
私は額の傷跡を見せながら、シュタンツファーであったことを説明した。その間、アリーは頷きもせず、真剣な顔をして傷を見ていた。
「そっか…そんなことがあったんだね。」
「はい…。」
私はまた沈黙してしまった。しかし、その様子を見てか、アリーは急に私の顔に湯をかけた。
「ちょっ!何するんですか!?」
「ふふっ、ここの湯は傷によく効くのよ。」
「そ、そうなんですか…。って、もっとかけ方があるじゃないですか!?」
「あはははっ!可愛いな、ベリアは!」
私たちは自然と笑顔になっていた。これが姉妹。さっきまで暗く落ち込んでいたのに、一緒にいるだけで不安も恐怖も自然となかったことのようになる。
「そっか…。そうなると、好きなっちゃっても仕方ないよね…。」
「だからそんなんじゃないですってば!!」
「あ!赤くなった!」
「え!…のぼせただけです!早く出ましょ!」
「やっぱり可愛いな~」
その後は、部屋に戻って美味しいご飯を食べ、柔らかい布団に横になった。明日は十三時に電車が出るらしい。ナマイトダフに行けば、アリーの言っていたように働かなければいけない。ワイルとのことにも向き合い始めなければならない。ここにずっと居続ければ良いのに。そう思いながら眠りについた。
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