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ハイヒウォッツ市
#53 小さな集落
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午後五時。窓からは黄金色に光る夕日は風に揺れる草花を照らし、一面に広がる野原はキラキラと光っている。山を上がり、標高が高くなったせいか窓を開けると冷たい風が頬を撫でる。
電車は速度を落とし、山の無人駅に止まった。
「ここは、ハイヒ…」
「ハイヒウォッツ市よ。市なんて言っても村規模の集落なんだけどね。」
私たち含め全ての乗客は電車をおり、同じ方向に向かっていった。昨夜見た乗客の様子とは少し違う。皆疲れているのかやつれた顔で大きな荷物を手に足を運んでいる。小さな子供を連れた母親は髪留めが意味をなしていないほどに髪が乱れ、その目には正気を感じられない。大人なしで歩いている子供たちもいた。何かを覚悟したような、諦めたようなその歩き姿に私は何故か胸が締め付けられる感じがした。
道脇には樹高の高い木が並んでいる。道は舗装されていない砂利下り道だった。アリーを前にして人の流れに合わせて歩いていると、開けた集落に辿り着いた。集落の入り口には住人と思われる人々が横一列に綺麗に並んでこちらを眺めていた。
「ようこそ、ハイヒウォッツへ。皆様、長旅でお疲れでしょう。私たちの宿と湯でゆっくりとおくつろぎください。」
丁寧なもてなしの言葉を私たちにかけてくれたご老人について行くと教科書で見るような歴史を感じる大きな建物の前に案内された。
「ここからはそれぞれ皆様を各宿に案内させていただきます。どうぞゆっくりしてくださいませ。」
そういうと民族衣装を着た男女数名が手際よく一塊になっていた電車の乗客をそれぞれの宿に案内した。
私たちは他十人ほどの乗客と共に代表としてもてなしの言葉をかけてくれたご老人についていった。
「姉さん」
「何?」
「ここって…ゴーゾム文化しかないところですか?」
「そう。リベフィラは基本、人の手で一から作るという考え方を持つノクスム文化に寄った建造物や食べ物が多いんだけど、この村の全ては極力自然に寄り添う形をとる、ゴーゾム文化で成り立っているの。ちなみにナマイトダフはどちらも半々で存在しているわ。」
「自然に寄り添う…形……」
歩きながら話していると今夜泊まる宿に着いた。木と水の匂いだろうか。とても気持ちのいい空気があるところであった。ご老人が宿の中に入っていき、少しして女性一人と私と同い年くらいの女の子を連れて出てきた。
「男性のお客様は私、ユキト・ハイヒウォッツと従業員でおもてなしさせていただきますが、なにぶん女性が少ない村でして…。この宿での女性のお客様の対応はこの二人が致しますのでよろしくお願いたします。」
「支配人の娘で女将をやらせて頂いております、ナロ・ハイヒウォッツと申します。私の横におりますのが、私の娘のダリア・ハイヒウォッツと申します。まだ見習いでありますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
「ダリアと申します。よろしくお願い致します。」
三人はとても綺麗なお辞儀をした後、一人一人を受付に通し、仲居さんと呼ばれる女性たちに乗客をそれぞれの部屋に案内させた。
「これはこれは、ファタング隊の方ではありませんか!いや気づかずに申し訳ありません…。すぐに特別室に案内させていただきます。」
「いえ、そんな!みなさんと同じ部屋で大丈夫ですので!」
「それでは当旅館の示しがつきません。ささ、こちらへ。」
「いえいえ、そんな…。あっ!その代わりと言ってはなんですが、この子にこの村を案内していただけませんか?ダリアちゃんとこの子は歳が近いと思うのですが。」
「それなら任せてください!…
ダリア、お客様がお呼びだよ。」
「はい!」
駆けつけて来たダリアは肩に力が入りながらも、笑顔で私の目を見ていた。
「明日、お客様を村巡りに案内してあげなさい。」
「承知しました!
ダリアです。よろしくお願いします。」
「ベリア・ハイヒブルックです。よろしくお願いします…。」
緊張しているのは私も同じであった。変に声が震えてしまった。しかし、ダリアは無垢な笑顔で私に微笑みかけた。どこかで見たことのあるような、優しい笑顔だった。
電車は速度を落とし、山の無人駅に止まった。
「ここは、ハイヒ…」
「ハイヒウォッツ市よ。市なんて言っても村規模の集落なんだけどね。」
私たち含め全ての乗客は電車をおり、同じ方向に向かっていった。昨夜見た乗客の様子とは少し違う。皆疲れているのかやつれた顔で大きな荷物を手に足を運んでいる。小さな子供を連れた母親は髪留めが意味をなしていないほどに髪が乱れ、その目には正気を感じられない。大人なしで歩いている子供たちもいた。何かを覚悟したような、諦めたようなその歩き姿に私は何故か胸が締め付けられる感じがした。
道脇には樹高の高い木が並んでいる。道は舗装されていない砂利下り道だった。アリーを前にして人の流れに合わせて歩いていると、開けた集落に辿り着いた。集落の入り口には住人と思われる人々が横一列に綺麗に並んでこちらを眺めていた。
「ようこそ、ハイヒウォッツへ。皆様、長旅でお疲れでしょう。私たちの宿と湯でゆっくりとおくつろぎください。」
丁寧なもてなしの言葉を私たちにかけてくれたご老人について行くと教科書で見るような歴史を感じる大きな建物の前に案内された。
「ここからはそれぞれ皆様を各宿に案内させていただきます。どうぞゆっくりしてくださいませ。」
そういうと民族衣装を着た男女数名が手際よく一塊になっていた電車の乗客をそれぞれの宿に案内した。
私たちは他十人ほどの乗客と共に代表としてもてなしの言葉をかけてくれたご老人についていった。
「姉さん」
「何?」
「ここって…ゴーゾム文化しかないところですか?」
「そう。リベフィラは基本、人の手で一から作るという考え方を持つノクスム文化に寄った建造物や食べ物が多いんだけど、この村の全ては極力自然に寄り添う形をとる、ゴーゾム文化で成り立っているの。ちなみにナマイトダフはどちらも半々で存在しているわ。」
「自然に寄り添う…形……」
歩きながら話していると今夜泊まる宿に着いた。木と水の匂いだろうか。とても気持ちのいい空気があるところであった。ご老人が宿の中に入っていき、少しして女性一人と私と同い年くらいの女の子を連れて出てきた。
「男性のお客様は私、ユキト・ハイヒウォッツと従業員でおもてなしさせていただきますが、なにぶん女性が少ない村でして…。この宿での女性のお客様の対応はこの二人が致しますのでよろしくお願いたします。」
「支配人の娘で女将をやらせて頂いております、ナロ・ハイヒウォッツと申します。私の横におりますのが、私の娘のダリア・ハイヒウォッツと申します。まだ見習いでありますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
「ダリアと申します。よろしくお願い致します。」
三人はとても綺麗なお辞儀をした後、一人一人を受付に通し、仲居さんと呼ばれる女性たちに乗客をそれぞれの部屋に案内させた。
「これはこれは、ファタング隊の方ではありませんか!いや気づかずに申し訳ありません…。すぐに特別室に案内させていただきます。」
「いえ、そんな!みなさんと同じ部屋で大丈夫ですので!」
「それでは当旅館の示しがつきません。ささ、こちらへ。」
「いえいえ、そんな…。あっ!その代わりと言ってはなんですが、この子にこの村を案内していただけませんか?ダリアちゃんとこの子は歳が近いと思うのですが。」
「それなら任せてください!…
ダリア、お客様がお呼びだよ。」
「はい!」
駆けつけて来たダリアは肩に力が入りながらも、笑顔で私の目を見ていた。
「明日、お客様を村巡りに案内してあげなさい。」
「承知しました!
ダリアです。よろしくお願いします。」
「ベリア・ハイヒブルックです。よろしくお願いします…。」
緊張しているのは私も同じであった。変に声が震えてしまった。しかし、ダリアは無垢な笑顔で私に微笑みかけた。どこかで見たことのあるような、優しい笑顔だった。
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