ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

文字の大きさ
上 下
46 / 60
ノイシュロス市

#46 運命

しおりを挟む
 モウカは一通りの話が終わると大きな溜息を吐いた。軟膏を塗った背にはガーゼが貼られていた。私は服をそっと下ろし、モウカの方に体を向けた。

「その話は本当の話なんですか?」
「…そう言われておるが、ちと信じ難いのう。今よりうんと人口が少なかったと言っても人一人が國全体から拝められるほどのことができるとは思えん。しかも、教典によれば八歳からの活躍とある。今の子供達もしっかりしておるが、なかなかに信じられんのう。」
「じゃあ、嘘なんでしょうか…。」
「……今から言うことを、聞いて、お前さんが傷つくかもしれん。それでも聞きたいか。」

モウカは悲しそうな目で私を見つめていた。どういうわけか私は聞かなければいけない気がした。怖さ、疑心、色々のものが込み上げたが、それでも聞かなければと思った。

「…はい。」

モウカは立ち上がり、話を続けた。

「ロウの人はある能力があったのではないかと言われているんじゃ。」
「能力?」
「そうじゃ。その能力は人の魂の形や色が見えるというものだそうだ。その能力は人の心を読むのと同様の力で、その力を使っていたが故に難しい争いでさえも素早く解決させれたのではないかと言われている。」
「色……」

私は偵察飛行で見にいったワイルのことを思い出した。確かにワイルは虹色に光っていたのに、他の人たちは見えていないようだった。あれはワイルが光ったのではなく、私がワイルの色を見たのだろうか。

「流石にわしもただの作り話と思っていたが、アイザーの妻であったアーツ・ミアンガがシスターとなって来てから信じざるおえんようになった。アーツは大地震にあったナマイトダフを短な期間で立て直し、ポリチカ政権にも的確な助言をするようになっていった。わしは当時、ロウの人が帰ってきたのだろうかと驚いたよ。しばらくして、本人に話を聞いてみると本人は人の魂の形が見えると言った。色は見えない。空間を歪める何かがそこにあって訳もわからず、その意味が頭で理解ができてしまうというものだった。だが、それには代償があって、お腹にある鯨型のアザが痛むらしいんじゃ。」
「アザって…」
「アーツのアザを見せてもらったが、お前さんと全く同じものじゃったよ。」

私は急に怖くなって背中を触った。背中は先程より痛くなく、軟膏が効いているように感じた。だが、何かが私の身体中を這いずり回るような感覚に陥った。痛かった。

「ロウの人とは別で不思議な古文書がつい最近見つかった。誰がなんのために書いたかは知らんが、そこにはこう書いてある。」

そういうとモウカはメモ書きのようなものを私に渡した。そこにはこう書いてあった。

『形見えしもの人を導く。色見えしもの人に寄り添う。人に災いが降ることあらば柱となって支えるべし。』

意味はよく分からなかったが、モウカがこの文は私とアーツという人を指しているのではないかと疑っているということは分かった。

「そしてこの古文書には柱となった者の運命が書かれている。…お前さん、色が見えるのではないか?」
「………はい。」

モウカはメモ書きをバックにしまうと、息継ぎをしながら苦しそうにしていった。

「もしこの古文書がロウの人やあんたら二人を指しているのなら、二人は短命の運命になっておるのじゃ。」
「それじゃ、ロウの人が早死にだったのは…」
「そういうことになるな。」
「……私はあと十年も生きられないということなんですか?」
「…分からんがな。」

私は身震いをした。急に背中に時限爆弾を仕掛けられた気がする。私が遠くに見ていた将来が一気に閉じた。泣くにも泣けず、ただただ呆然とするしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...