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ノイシュロス市
#44 アザ
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目を覚ますと、医務室のようなところにいた。そばには赤い果物の皮を剥いているモウカと椅子に腰掛けて下を向きぴくりとも動かないアリーがいた。私は起き上がろうするが、背中の一部が痛くて起き上がれない。日焼けをしたときのようなヒリヒリした痛みだ。モウカに助けられ、何とか起き上がるとアリーが心配した様子で駆けつけてきた。
「ベリア、大丈夫?」
「背中が少しヒリヒリしますね…。」
モウカは私の目をじっと見つめて目を逸らさない。二人の様子が少し変だ。あの後何かあったのだろうか。
「私、急に意識が飛んじゃって……。」
「……あの後、ディモンの群れに囲まれちゃってね。何とか逃げ切ることができたんだけど、その間にワイルとディモンについてわかったことがあるの。」
「なん、ですか?」
「ディモンとワイルは圧力波と呼ばれるものを使ってコミュニケーションをとっていたのよ。…そしてその圧力波はベリアの痛みと関係があると思う。」
「私と…?」
今日初めて見たワイルと私には何らかの関係があるというのか。確かに惹きつけられたのは事実で、その間に意識を失ったことも事実だ。だが、それだけで私とワイルに何らかの関係があるとは言い切れないはずだ。普段なれないものを食べた時のように、見慣れないものを見て体調を崩しただとか、偶然だとか、飛行機に乗ったせいだとか、もっと他に理由があるなかでアリーとモウカはワイルとの関係を疑っていた。
「アリーや。ちとベリアと二人きりにしてくれんか。」
「ですが…。」
アリーは口惜しそうな顔をして私を見つめている。何かに納得したのかアリーは一礼をした後に、部屋を出ていった。
モウカは私の側でまた果物を剥き始めた。モウカは宗教の人だ。そのせいか異様な恐怖と緊張を感じてしまう。
「林檎は嫌いか?」
「リン…ゴ?」
「お前さん、林檎食べたことないんか?」
食べる前に聞いたことも、見たこともない。モウカは苦笑するように溜息をつき、丁寧に切ったリンゴを皿の上に置き、私の手元に置いた。私は恐る恐る皿を口の近くに持っていき、控えめにかぶりついた。思った味と違い、甘くてみずみずしいものだった。
「美味しい…。」
「そうか、そうか。食べ物が美味しいということは元気な証拠じゃ。」
モウカの微笑みは私の緊張をすっと溶かしていくようだった。モウカは席を立ち上がり、彼女のバックから塗り薬のようなものを取り出した。
「服を脱ぎなさい。痛いところに塗ってやろう。」
「……聖水かなんかですか?」
「はっはっはっはっ、そんな不確かなものではないよ。ナマイトダフの病院でもらった軟膏じゃ。ワシもよう皮膚を痛めるでのう。」
少し怪しさを感じたが、言われてみれば病院で処方されるような見た目をしている。必要以上に警戒しなくてもよいだろうと思い、私は服を脱いで背を見せた。
「やはりか…。」
「何ですか?」
「やはり火傷になっておるな。この形のアザはいつからじゃ。」
モウカが言っているアザというのは生まれつきついている魚型のアザだった。祖父と小さい頃風呂に入っては、このアザがあったらベリアを間違えんで済むなと言われた。
「生まれつきです。偶々、魚型で…」
「魚というよりも、鯨じゃな。」
悲しそうな声をしていた。鯨。またここでもワイルが頭をよぎる。モウカはアザをなぞるように軟膏を塗り始めた。
「昔話をしていいか?」
「…はい。」
モウカは大昔の話をし始めた。このリベフィラ國ができる前のある人の話を。
「ベリア、大丈夫?」
「背中が少しヒリヒリしますね…。」
モウカは私の目をじっと見つめて目を逸らさない。二人の様子が少し変だ。あの後何かあったのだろうか。
「私、急に意識が飛んじゃって……。」
「……あの後、ディモンの群れに囲まれちゃってね。何とか逃げ切ることができたんだけど、その間にワイルとディモンについてわかったことがあるの。」
「なん、ですか?」
「ディモンとワイルは圧力波と呼ばれるものを使ってコミュニケーションをとっていたのよ。…そしてその圧力波はベリアの痛みと関係があると思う。」
「私と…?」
今日初めて見たワイルと私には何らかの関係があるというのか。確かに惹きつけられたのは事実で、その間に意識を失ったことも事実だ。だが、それだけで私とワイルに何らかの関係があるとは言い切れないはずだ。普段なれないものを食べた時のように、見慣れないものを見て体調を崩しただとか、偶然だとか、飛行機に乗ったせいだとか、もっと他に理由があるなかでアリーとモウカはワイルとの関係を疑っていた。
「アリーや。ちとベリアと二人きりにしてくれんか。」
「ですが…。」
アリーは口惜しそうな顔をして私を見つめている。何かに納得したのかアリーは一礼をした後に、部屋を出ていった。
モウカは私の側でまた果物を剥き始めた。モウカは宗教の人だ。そのせいか異様な恐怖と緊張を感じてしまう。
「林檎は嫌いか?」
「リン…ゴ?」
「お前さん、林檎食べたことないんか?」
食べる前に聞いたことも、見たこともない。モウカは苦笑するように溜息をつき、丁寧に切ったリンゴを皿の上に置き、私の手元に置いた。私は恐る恐る皿を口の近くに持っていき、控えめにかぶりついた。思った味と違い、甘くてみずみずしいものだった。
「美味しい…。」
「そうか、そうか。食べ物が美味しいということは元気な証拠じゃ。」
モウカの微笑みは私の緊張をすっと溶かしていくようだった。モウカは席を立ち上がり、彼女のバックから塗り薬のようなものを取り出した。
「服を脱ぎなさい。痛いところに塗ってやろう。」
「……聖水かなんかですか?」
「はっはっはっはっ、そんな不確かなものではないよ。ナマイトダフの病院でもらった軟膏じゃ。ワシもよう皮膚を痛めるでのう。」
少し怪しさを感じたが、言われてみれば病院で処方されるような見た目をしている。必要以上に警戒しなくてもよいだろうと思い、私は服を脱いで背を見せた。
「やはりか…。」
「何ですか?」
「やはり火傷になっておるな。この形のアザはいつからじゃ。」
モウカが言っているアザというのは生まれつきついている魚型のアザだった。祖父と小さい頃風呂に入っては、このアザがあったらベリアを間違えんで済むなと言われた。
「生まれつきです。偶々、魚型で…」
「魚というよりも、鯨じゃな。」
悲しそうな声をしていた。鯨。またここでもワイルが頭をよぎる。モウカはアザをなぞるように軟膏を塗り始めた。
「昔話をしていいか?」
「…はい。」
モウカは大昔の話をし始めた。このリベフィラ國ができる前のある人の話を。
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