ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

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ノイシュロス市

#40 ワイルの姿

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 飛行場からワイルの姿をみれると思っていたが、朝霧が濃すぎて見えなかった。そんなことを思っている間にクロとアリーは話を終えたのかすぐに飛行機に乗った。その後にルコとラコそして五名の隊員が搭乗した。
 六時三十分。ルコとラコ、アリーとクロ、そして、私とモウカの組み合わせで席に着いた。

「V1スポットより出発。許可を願う。」
「こちら第2管制塔。了解。」

隊員たちの掛け合い後に飛行機は大きくゆっくりと動き始めた。

「離陸、一二〇秒前。」

カウント共に徐々にスピードを上げていく機体は私の心の高揚感をせきたてた。窓から見える景色が早い流れで過ぎていく。少しの揺れは次第に大きくなり、エンジン音も大きくなっていった。体が強張っているのが分かる。

「十秒前、八、七、…」

六、五、四、三、二……

「離陸。」

隊員たちの声と同時にみぞおちに浮遊感を感じた。そのあと、体験したことのない重力がかかった。これが飛行機か。飛行機はまだ上昇を続けている。大気圧のせいなのか耳がおかしい。揺れも先程より大きくなっている。皆慣れているのか、平然とした顔をしていた。

「高度三万三千フィート。時速四五〇キロ。」

隊員が言った言葉を後に揺れはそれ以上大きくなることはなかった。

「ベリア?大丈夫?」
「すごく…怖かったです。」
「ふふっ。初めての飛行機だものね。」

アリーとクロは初めて立った赤子を見るような目で私を見て微笑んでいた。なんだか小恥ずかしい。

「ベリアちゃん!見て!あれがワイルだよ!」

ルコはこちらを見ること無く、窓の外を食いつくように見ていた。私は左にあった窓をそっと覗いた。

 


『いずれ分かる時が来る。』
    『お前の身の半分を。』




ーーーーーーーーーー

私の目の前に広がったのは地中からでた巨大な怪物の顔だった。大きすぎて距離感がわからなくなる。生き物ということは分かっていたが、こんなにも恐ろしく、しかし神秘的な生き物だとは夢にも思わなかった。

「すごい…。」
「三千年前にいた哺乳類と似ているんだよ。名前は鯨。もっともワイルとは違う色だし大きさも違うんだけどね。」

説明を始めたのはラコの方だった。

「魚類には見えないですね。」
「大昔の人は航海で鯨に遭遇して巨大魚が出たなんて恐れてたみたい。そこから研究が進んで、そのあとは海の主なんて呼ばれるくらい有名な生き物になったらしいわ。第三次滅亡期で絶滅しちゃったらしいけどね。」

そんな大昔に消えた生き物がどうして大きさを変えて今の時代に現れたのだろうか。何か世の中に思い残すことがあったのだろうか。ここからワイルまでは二〇〇キロ近くあるというのに、何処か悲しげなワイルの瞳ははっきりと見える。

「頭部だけでも推定約十万メートルある。もしワイルが鯨と同じ胴体を持つとしたら、その体長はおそらく三十万メートルを超えているとされてるの。」
「規模が大き過ぎて何が何だか…。」

ラコの説明からするとワイルの大きさで街が二、三個消えるだけで収まったのは奇跡に近いらしい。色々と聞きたかったがあくまで私は一人の市民なので内部機密になっていることは教えられないと断られてしまった。

「九時の方向。五キロ先に飛行型ディモン中型を三体、発見。」
「ルコ隊長。こちらに近づいています。」
「すぐに引き返せ。今朝の偵察は終了だ。」

その言葉を合図に飛行機は大きく旋回し始めた。その瞬間窓から見えるワイルが一瞬虹色に光ったように見えた。旋回し終わった後私はすぐに右手の窓に映ったワイルを見返した。しかし、そこにあったのは先程まで見ていた色白のワイルだった。

「……アリーさん、ワイルは光るんですか?」
「え?」

口から自然とこぼれた質問は自分でもよく分かっていなかった。私はワイルから目が離せないでいた。ワイルの目がこちらに向いている気がしたのだ。目が合っているという言い方のほうが正しいかもしれない。

「前方からもディモンが来ています。」
「少しまずいな。……戦闘機の応援要請をしろ。中型なら足止めはできる。」
「了解。………おかしいです。管制塔との無線が途切れています。」
「何かの音波のようなものが邪魔しているようです。」

機内の空気が少しピリつき始めていた。それでも私はワイルへの興味でいっぱいだった。機内の様子そっちのけで再びワイルに目を移した。その瞬間、また同じようにワイルは虹色に輝いた。今度は一瞬では無く、深海魚の鱗が輝くように、靡くように光っていた。すると突然私の背中は熱くなり、激痛が走った。私はうずくまり体を窓に預けた。痛みで呼吸がうまく出来ない。

「ベリア!?」
「背…中…が……」

意識が遠のく。左でアリーとクロが私の名前を呼んでいる。左隣に座っていたモウカが私の体を自分の方に引き寄せ、腕をさすってくれていた。その感覚を最後に私の意識は途絶えた。
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