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ノイシュロス市
#38 老婆
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五時五十分。顔を洗い、新しく貰った服と防寒具を身につけた。新しいといっても襟が少しよれていて古着のようなものだった。古着から知らない土地、もしくは知らない人の匂いがする。昨日クロに突然渡された物だったが、これはクロが元々着ていた物なのだろうか。防寒具は隊員が着るような大型フード付きの防寒コートだった。大きすぎて袖に腕を通しても手が出てこない。
「ベリアが着るとコートに足が生えてるみたいね。」
静かに笑いながらこちらを見るアリーを見ていたら、何だかおかしくなって私も釣られて笑ってしまった。
「そのコートと服はクロがくれたの?」
「はい。」
「……そっか。」
少し寂しそうに、だけど懐かしむようにコートを見ているアリーはとても二十歳の顔つきとは思えなかった。アリーは私が想像している二十歳より沢山の経験をしているのだろうと色々な彼女の仕草から感じる。私も二年後に彼女のようになれるのだろうか。彼女のような逞しい女性に。
「そろそろ執務室に行こうか。」
「はい。」
部屋を片付け、私たちは執務室に向かった。
少し廊下を歩き、執務室の前まで来ると、昨日の老婆の声が聞こえた。アリーがノックすると、苦笑いをしたクロがドアから顔を出し、少し待ってと言って部屋に戻っていった。部屋からは相変わらずの声が聞こえる。
「近づくなと言っておろうが!!」
「見るだけだってば!!」
「信用ならん!」
イタチごっこのように繰り返される口論は終わりが見えなかった。アリーは溜息をついたかと思うと急に無断で部屋に入っていった。私も慌てて、アリーに続いて部屋に入ってしまった。案の定、皆こちらを見て固まっている。そしてアリーはその老婆に向かって話し始めた。
「おばあさま、少しよろしいでしょうか。」
「誰じゃ?お前は…」
「第三部隊所属アリー・リーリックと申します。」
「リーリック…。それはさぞや苦労されたんじゃな…。」
「とんでもございません。」
「ワシはナマイトダフにあるアイズ教のシスターをしている。モウカ・アイザーじゃ。」
「遠いところからご足労おかけします。」
アイザーと聞いて、びっくりしたのは私だけのようだった。アイザーは事実的には敵。こんなに簡単に執務室に入れてもいいのだろうか。アリーは嫌ではないのだろうか。
「ワシに何か言いたいことがあるのか?」
「はい。」
アリーは私の左手を掴み、再び話し始めた。
「この子は奇跡の生き残りの子です。アイザーの管轄地で十八年間を過ごし、自分の土地の外側について何も知りませんでした。加えて、二年間は社会から隔離され自分の土地のことでさえ、知ることができませんでした。もちろんワイルのこともです。ですが、その状態でこの子は今からナマイトダフという厳しい社会で暮らしていかなければなりません…。自分の時間を大切にするために、この子の止まった時間を進ませてあげたいんです。言葉ではなく、感覚で今の現状を教えたいんです。どうか許してください。」
「…女の子や。名前は?」
「べ、ベリア・ハイヒブルックです。」
「……そうか。」
モウカは暫く私の目を見て、納得したのかドアの方向へゆっくり歩き始めた。そして足を止めた。
「おばあさん許してくれるの?!」
ルコが我慢が弾けたような声で聞いた。
「許そう。だが、ワシも連れてゆけ。」
「もう~!そんなに私たちが信用ならないの?」
ルコは再び不満そうな顔をしてモウカを見ている。
「それは信用する。ワシが見たいのはベリアじゃ。」
急に私の名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。それは皆も同じらしく動揺が見て取れた。
「行けば分かる。」
そう言ってモウカは執務室を後にした。私たちも疑問を残したまま執務室を後にした。
「ベリアが着るとコートに足が生えてるみたいね。」
静かに笑いながらこちらを見るアリーを見ていたら、何だかおかしくなって私も釣られて笑ってしまった。
「そのコートと服はクロがくれたの?」
「はい。」
「……そっか。」
少し寂しそうに、だけど懐かしむようにコートを見ているアリーはとても二十歳の顔つきとは思えなかった。アリーは私が想像している二十歳より沢山の経験をしているのだろうと色々な彼女の仕草から感じる。私も二年後に彼女のようになれるのだろうか。彼女のような逞しい女性に。
「そろそろ執務室に行こうか。」
「はい。」
部屋を片付け、私たちは執務室に向かった。
少し廊下を歩き、執務室の前まで来ると、昨日の老婆の声が聞こえた。アリーがノックすると、苦笑いをしたクロがドアから顔を出し、少し待ってと言って部屋に戻っていった。部屋からは相変わらずの声が聞こえる。
「近づくなと言っておろうが!!」
「見るだけだってば!!」
「信用ならん!」
イタチごっこのように繰り返される口論は終わりが見えなかった。アリーは溜息をついたかと思うと急に無断で部屋に入っていった。私も慌てて、アリーに続いて部屋に入ってしまった。案の定、皆こちらを見て固まっている。そしてアリーはその老婆に向かって話し始めた。
「おばあさま、少しよろしいでしょうか。」
「誰じゃ?お前は…」
「第三部隊所属アリー・リーリックと申します。」
「リーリック…。それはさぞや苦労されたんじゃな…。」
「とんでもございません。」
「ワシはナマイトダフにあるアイズ教のシスターをしている。モウカ・アイザーじゃ。」
「遠いところからご足労おかけします。」
アイザーと聞いて、びっくりしたのは私だけのようだった。アイザーは事実的には敵。こんなに簡単に執務室に入れてもいいのだろうか。アリーは嫌ではないのだろうか。
「ワシに何か言いたいことがあるのか?」
「はい。」
アリーは私の左手を掴み、再び話し始めた。
「この子は奇跡の生き残りの子です。アイザーの管轄地で十八年間を過ごし、自分の土地の外側について何も知りませんでした。加えて、二年間は社会から隔離され自分の土地のことでさえ、知ることができませんでした。もちろんワイルのこともです。ですが、その状態でこの子は今からナマイトダフという厳しい社会で暮らしていかなければなりません…。自分の時間を大切にするために、この子の止まった時間を進ませてあげたいんです。言葉ではなく、感覚で今の現状を教えたいんです。どうか許してください。」
「…女の子や。名前は?」
「べ、ベリア・ハイヒブルックです。」
「……そうか。」
モウカは暫く私の目を見て、納得したのかドアの方向へゆっくり歩き始めた。そして足を止めた。
「おばあさん許してくれるの?!」
ルコが我慢が弾けたような声で聞いた。
「許そう。だが、ワシも連れてゆけ。」
「もう~!そんなに私たちが信用ならないの?」
ルコは再び不満そうな顔をしてモウカを見ている。
「それは信用する。ワシが見たいのはベリアじゃ。」
急に私の名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。それは皆も同じらしく動揺が見て取れた。
「行けば分かる。」
そう言ってモウカは執務室を後にした。私たちも疑問を残したまま執務室を後にした。
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