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ノイシュロス市
#36 ルコ・ラッチとラコ・ラッチ
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二十分程歩くと煌々と照らされている基地にたどり着いた。クロは隊長に報告をすると言って先に行ってしまった。私たちは基地を回りながら執務室に向かった。アリーはこの場所をよく知っているようだった。
「アリーさんはここに来たことがあるんですか?」
「この前も言ったでしょ。第三部隊は前衛部隊なの。ここに初めて基地を作るときに来たのよ。避難民の誘導や、要救助者の捜索、それにディモンの殲滅をしなければならなかった。ある程度落ち着いてからは第二部隊に引き継いだけどね。」
「ノイシュロスの方々も避難されたんですか?」
「念のため全員ね。胞子も北東付近までは来てたし、誰もワイルを眺めながら暮らしたいと思う人はいないでしょ。」
確かに私もハイヒブルックにいた頃ワイルを眺める日々を送ったが、あまりいいものではなかった。足が掬われるような、胃の中に冷たい水が入り込むような、そんな感覚。同時に押し寄せる圧倒的敗北感。どれをとっても気持ち悪いものだった。
私たちは執務室のドアの前まで来た。ちょうどドアが開き、その間からクロの顔がひょっこりと出てきた。
「ごめんよ。今、お客さんが来てて…。はははは…」
また苦笑いだ。クロは笑って誤魔化す癖があるらしい。
ドアの向こう側で聞こえてきたのは老婆の声と二人の若い女性の声だった。どうやら口論になってるようだ。
「おばあさん!私たちだって暇じゃ無いんだけど!」
「そうだよ!変な話を聞く時間はないんだって!」
「わからん奴らじゃのう!もう一度言うぞ!あのワイルには近づくな!来るべき時にワイルの真の姿を捉えられる人柱が現れる!!それまで余計なことをするで無い!」
「そんな宗教チックな話信じられるわけないでしょ…。もう出てって!じゃないと妨害行為で逮捕しちゃうよ!」
「ぐっ…職権濫用じゃあ!!」
老婆は口論に負けたのか、こちらに向かってくる。私たちは脇に逸れ、クロが開けたドアを怒りながら通っていく老婆を見送った。
「いいよ。入って~」
「失礼します。」
「し、失礼します。」
入ってすぐに一人の女性がアリーに勢いよく抱きついた。
「アリリ!!久しぶり!!第二部隊に入る気になったの?!」
「久しぶりです。ルコ隊長。私はナマイトダフに行く途中で来ただけですから。」
「え~!!ケチ~!このままここに残ればいいのに!!」
ルコと呼ばれたその女性は隊長らしい。第三部隊のアルティア隊長よりも随分若く見える。ルコは私のことを一切見向きもせずに、アリーにくっついて離れない。
「この子が奇跡の生き残り?」
奥の方から現れた女性を見て驚いた。ルコ隊長と瓜二つではないか。髪型が右縛りか左縛りかの違いだけで、それ以外は全てが一致している。一卵性の双子だろうか。可愛らしい姿には何故か子供らしさを感じる。
「そうです。ベリア・ハイヒブルック、十八歳です。」
私の代わりにアリーが私の紹介をしてくれた。
「は、初めまして!」
「初めまして!よろしくね!ベリアちゃん!同い年同士仲良くしよ!」
「同い年!?」
ルコはアリーから離れて私の手を掴み大きく振った。無垢なその笑顔は子供そのものだった。子供らしさを感じるのは当たり前だ。何故なら子供だから。私と同じ子供なのだ。同い年が一つの組織の長なのだ。これがナマイトダフの常識なのか…。呆気に取られた私に奥にいた少女が近づいてきた。
「初めまして。私はラコ・ラッチ。第二部隊副隊長。そっちのがルコ・ラッチ。一応隊長だよ。」
「一応とは何さ!」
ラコと名乗った少女はルコよりかは落ち着きを払っていた。
「隊長!明日の偵察飛行、この子も乗せていいですか!?」
「いいよん!」
「ちょっとルコ!一般の子は乗せちゃダメでしょ!!」
聞いた本人のクロでさえ即答過ぎて戸惑っている。
「だって、ベリアちゃんも乗せないとアリリは乗れないでしょ?」
「はあ…。」
「あのダメでしたら私無理して乗らなくても…。アリーさんだけでも…。」
「何言ってるの!アリリはベリアちゃんの付き添いが任務なんだよ?ベリアちゃんを置いての行動なんてできるわけないじゃん。」
「確かに…」
「それとも行きたくない感じ?」
ルコの一言でその場が静まった。皆が私を見ている。私はこの世界を変えてしまったものを知りたい。どんな姿をしてどんな状態でいるのか。何者なのか。私は暫くの沈黙を破った。
「行かせてください!」
「じゃ、決まりだね。明日の六時半に集合!!」
そう言ったクロの後ろの壁にあった時計はもうすでに深夜の一時を回るところだった。
「アリーさんはここに来たことがあるんですか?」
「この前も言ったでしょ。第三部隊は前衛部隊なの。ここに初めて基地を作るときに来たのよ。避難民の誘導や、要救助者の捜索、それにディモンの殲滅をしなければならなかった。ある程度落ち着いてからは第二部隊に引き継いだけどね。」
「ノイシュロスの方々も避難されたんですか?」
「念のため全員ね。胞子も北東付近までは来てたし、誰もワイルを眺めながら暮らしたいと思う人はいないでしょ。」
確かに私もハイヒブルックにいた頃ワイルを眺める日々を送ったが、あまりいいものではなかった。足が掬われるような、胃の中に冷たい水が入り込むような、そんな感覚。同時に押し寄せる圧倒的敗北感。どれをとっても気持ち悪いものだった。
私たちは執務室のドアの前まで来た。ちょうどドアが開き、その間からクロの顔がひょっこりと出てきた。
「ごめんよ。今、お客さんが来てて…。はははは…」
また苦笑いだ。クロは笑って誤魔化す癖があるらしい。
ドアの向こう側で聞こえてきたのは老婆の声と二人の若い女性の声だった。どうやら口論になってるようだ。
「おばあさん!私たちだって暇じゃ無いんだけど!」
「そうだよ!変な話を聞く時間はないんだって!」
「わからん奴らじゃのう!もう一度言うぞ!あのワイルには近づくな!来るべき時にワイルの真の姿を捉えられる人柱が現れる!!それまで余計なことをするで無い!」
「そんな宗教チックな話信じられるわけないでしょ…。もう出てって!じゃないと妨害行為で逮捕しちゃうよ!」
「ぐっ…職権濫用じゃあ!!」
老婆は口論に負けたのか、こちらに向かってくる。私たちは脇に逸れ、クロが開けたドアを怒りながら通っていく老婆を見送った。
「いいよ。入って~」
「失礼します。」
「し、失礼します。」
入ってすぐに一人の女性がアリーに勢いよく抱きついた。
「アリリ!!久しぶり!!第二部隊に入る気になったの?!」
「久しぶりです。ルコ隊長。私はナマイトダフに行く途中で来ただけですから。」
「え~!!ケチ~!このままここに残ればいいのに!!」
ルコと呼ばれたその女性は隊長らしい。第三部隊のアルティア隊長よりも随分若く見える。ルコは私のことを一切見向きもせずに、アリーにくっついて離れない。
「この子が奇跡の生き残り?」
奥の方から現れた女性を見て驚いた。ルコ隊長と瓜二つではないか。髪型が右縛りか左縛りかの違いだけで、それ以外は全てが一致している。一卵性の双子だろうか。可愛らしい姿には何故か子供らしさを感じる。
「そうです。ベリア・ハイヒブルック、十八歳です。」
私の代わりにアリーが私の紹介をしてくれた。
「は、初めまして!」
「初めまして!よろしくね!ベリアちゃん!同い年同士仲良くしよ!」
「同い年!?」
ルコはアリーから離れて私の手を掴み大きく振った。無垢なその笑顔は子供そのものだった。子供らしさを感じるのは当たり前だ。何故なら子供だから。私と同じ子供なのだ。同い年が一つの組織の長なのだ。これがナマイトダフの常識なのか…。呆気に取られた私に奥にいた少女が近づいてきた。
「初めまして。私はラコ・ラッチ。第二部隊副隊長。そっちのがルコ・ラッチ。一応隊長だよ。」
「一応とは何さ!」
ラコと名乗った少女はルコよりかは落ち着きを払っていた。
「隊長!明日の偵察飛行、この子も乗せていいですか!?」
「いいよん!」
「ちょっとルコ!一般の子は乗せちゃダメでしょ!!」
聞いた本人のクロでさえ即答過ぎて戸惑っている。
「だって、ベリアちゃんも乗せないとアリリは乗れないでしょ?」
「はあ…。」
「あのダメでしたら私無理して乗らなくても…。アリーさんだけでも…。」
「何言ってるの!アリリはベリアちゃんの付き添いが任務なんだよ?ベリアちゃんを置いての行動なんてできるわけないじゃん。」
「確かに…」
「それとも行きたくない感じ?」
ルコの一言でその場が静まった。皆が私を見ている。私はこの世界を変えてしまったものを知りたい。どんな姿をしてどんな状態でいるのか。何者なのか。私は暫くの沈黙を破った。
「行かせてください!」
「じゃ、決まりだね。明日の六時半に集合!!」
そう言ったクロの後ろの壁にあった時計はもうすでに深夜の一時を回るところだった。
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