ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

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ノイシュロス市

#35 前線の街、ノイシュロス市

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「ベリア、お前は俺たちの希望だ。おじいちゃんと幸せに暮らすんだぞ。」
「お父さんは?」
「父さんはもうここには居られないんだ。」
「どうして?…ベリア、もう会えない?」
「ベリアが大きくなったら会えるからな。」
「お父さん?…お父さん!待って!ベリアを置いていかないで!お父さん!お父さん!」

ーーーーーーーーーーーーー

「おとう…さ…ん。」


「ベリア、大丈夫?」

いつの間に眠ったのだろうか。私はアリーの肩に寄りかかっていた。電車の外はまだ暗い。もう随分長く寝ていたように感じる。

「夢を見てたみたいです…。なんの夢かわかんないですけど…。」
「あまり良い夢ではなかったみたいね。うなされてたから。」

夢を見たのはいつぶりだろう。ハイヒブルックで救助された時以来だろうか。とても懐かしさを感じていたような気がする。
寝起きの頭で呆然としていると、電車はゆっくりと速度を落とし、やがて止まった。

「どうして止まったんですか?」
「今日はここで一泊してから明日また再出発してナマイトダフに向かうのよ。」
「…ここどこですか?」
「ファタング隊第二部隊の活動拠点になっている、『ノイシュロス市』よ。」

午前0時。電車を降りると、目の前に写った街は猛々しい様子は無く、普通の田舎町であった。街頭はぽつりぽつりとあり、時間が時間であるので電車から降りる人以外には人はいない。建物も大きな建物は無いものの、住宅が等間隔を保って散らばるように建っていた。
十一両編成の電車から降りてくる人は意外にも多く、ざっと見た限りでは五十人ほどはいた。

「アリーさん」
「ん?」
「どうしてこんなに人が多いんですか?」
「うーん、ベリアと同じような悩みで抜け出した人もいるだろうし、ナマイトダフに家族がいる人、帰る人、何か考えがあって動いている人…。色んな人がいるんじゃないかな。」

確かに顔つきが人それぞれ違う。きっと内にある思いの違いと同じなのだろう。そういえば、あの男の子はこの電車に乗れたのだろうか。賃金は払えたのだろうか。あの男の子はどんな理由でナマイトダフに向かうのだろうか。私は無意識に腕に巻いた布を触った。

私たち以外の乗客は宿舎に向かって行ったが、私たちはアリーの知り合いに尋ねるべく、第二部隊の基地に向かっていた。十分ほど歩くと、道の途中で隊服を着た女性がこちらに手を振っていた。

「久しぶり!アリー!
……君が話題の奇跡の生き残りの一人だね?」
「は、初めまして。ベリア・ハイヒブルックと言います。」
「初めまして。ファタング隊第二部隊所属クロ・ダルビと申します。アリーとは練習生の頃からの同期だよ。」

少し低めの声でクロと名乗った女性は癖っ毛のある髪を後ろで高い位置に束ね、気さくな笑顔をした優しそうな女性だった。
二人は歩きながら再会の会話をしていた。

「久しぶり。クロ。元気にしてた?」
「どうだろうな。最近任務がキツイからな。はははは…。」
「そんなになのね…。どうして私が来るって分かったの?」
「第三部隊がハイヒブルックのディモンを殲滅した後にこっちに寄ったんだ。その時にクックに聞いたよ。」
「なるほどね。」
「あの…。」

二人の感動の再会に水を差してしまうと、言うのを躊躇ったが、どうしても気になって聞いてみた。

「どうして飛行機があるのに飛行機でシュタンツファーに行かないんですか。」
「うーん。君は逆になんでだと思う?」
「え…、あ、その領土権問題とかですか?」
「少し違うけど似たようなものだね。アイザーの管轄区域には基本的にファタング隊は入れないんだ。特にシュタンツファーに関しては隊員一人が入るにしても面倒臭い手続きがいる。表向きでは一般国民に物騒なものを見せて恐怖心を煽らないようにってことだけど、腹の中は悪行がバレたくないだけなんだと思うよ。」

アイザーとは一体どんな人間なのだろうか。国のトップとは思えないほどのやりたい放題なのだと感じる。戦闘機などよりよっぽど恐怖を感じる。

「そうだ。ベリアちゃんはハイヒブルック出身だよね?ってことはワイルの全貌は見たことないんじゃない?」
「はい。」
「それじゃあ決まりだね!明日朝の偵察飛行をするんだ。一緒に乗ろう!」
「クロ…。一般の人は乗れないでしょ。」
「大丈夫!大丈夫!ベリアちゃんは奇跡の生き残りだし、アリーもいるし!」
「はあ…。」

ここからワイルまではニ〇〇キロほどだろうか。今は暗くて見えないが、日が出たら地上からも見えるかもしれない。この世界を変えてしまったワイル。その正体にやっとお目にかかれる。恐怖心よりも興味が湧いて仕方がなかった。
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