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シュタンツファー市
#29 アリー・リーリック後編 (アリー)
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私はどかの病院で療養をした後、ファタング隊のガルカから質問を受けていた。話からすると私は頭を打って、三日間寝ていたらしい。
「君らがトラックに積み込まれた時、アイザー家の物か何かを見てないか。」
「見てないです。」
「そうか…」
「どうかしたんですか?」
「あの後、アイザーに依頼されたのかどうか野郎たちに聞いても、答えないんだ。」
「どうしてですか?」
「何かで脅されているのか、もしくは金目的か…。どちらにしろ今はアイザー家のやったことだという証拠がない。街の雰囲気をあれ程変えてしまうのは相当な圧力がなければ無理なはずなのに。」
「証拠がなくても証人がいるじゃないですか。私だって…」
すると、ガルカは視線を外し、言いにくそうにしていた。しかし、私がじっと見つめていることに気が付くと、私の目を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「君にとっては辛い事実だ。それでも聞きたいか。」
「はい。」
「…わかった。」
ガルカは私から目線を逸らし、小さな手帳を取り出して、それを見ながら話し始めた。
「リーリック市は元々奴隷扱いをされていた街だ。そのせいで今も社会的差別を受けるのは少なくない。」
「…知ってます。」
「だがな、逆手を取ってリーリック出身だからという理由で金目的で訴えてくる人間も少なくないんだ。」
「そんな…。」
「本当のことだ。そのせいでやってもいないのに多額の損害賠償を払わされ、倒産した会社が現実にある。…とても繊細な話だから解決法が未だ見つかっていない。だが、リーリック出身というだけで裁判所は訴訟を認めなかったり、商人として認めないことがあるんだ。それに、それらの機関はアイザーの傘下で動いている。物的証拠でないとまともに相手をしてくれない。」
「じゃあ、アイザーを逮捕することはできないんですか?私たちよりも前に連れて行かれた子達は?私の幼馴染はどうなるんですか!?」
私が乗ったトラックよりももっと先に乗った。幼馴染がいた。名前はクック・リーリック。私にとってとても大切な人だった。
「このままだと、助けることができない。」
「そんな…」
「だから思い出してほしい。どんな些細なことでもいいんだ。」
私は頭を絞るように考えたが、それらしき物を思い出すことはできなかった。
ーー現在ーー
ホテルにチェックインした後、部屋に入り、窓の外の景色を眺めていた。
あの時ガルカは私には言わなかったが、きっと市の人間も金を受け取っているため証人にならなかったのだろう。家族さえも。大人になってから分かったことだ。今はなんとも思わない。
あの後、私はシュタンツファーで里親に引き取ってもらい、暮らした。だが三ヶ月で出て行った。辛かったからだ。私にはない親、夢、希望、友…。それらを持ちながら笑う人間、不満をいう人間どれもが私に腹立たしさを覚えさせた。それだけではない。悔しかった。アイザーが統治するこの地でしか生きられない私が。いつしか私はアイザーを殺してやる、と思い始めた。憎しみから生まれた衝動で私はナマイトダフへ飛び出しって行った。その後は十二歳までナマイトダフの教会で過ごし、ファタング隊に入隊した。最初はアイザーへの復讐を目的に捜査担当の第一部隊に希望していたが、ガルカは私を市民護衛担当の第三部隊に入れた。その後に理由を知って落胆したが、それでも今は第三部隊に入って良かったと思っている。憎しみと復讐で満たされていた心はナマイトダフの人々によって浄化されていった。次第に、私のアイザー家の逮捕の目的はこの人々を守りたいというものになっていった。私はそこで大人になれた気がする。
クックは連れ去られた後、善良なドル市の家族に助けてもらっていた。しかし、十六になる年に私の目の前に現れた。クックはクック・ドルに名を変えていたが、昔と何も変わらない明るい青年だった。私と同じようにずっと私を探していたらしい。一度失ったことのある大切な人だ。私のクックに対する思いはより一層濃くなった。
あの子は、ベリアは大丈夫だろうか。私とは違う立場の子だが、それでもシュタンツファーの人間に対して思うことはほとんど同じだろう。もしベリアがナマイトダフに行きたいと言い始めたらどうすればいいのだろうか。私はずっと悩んでいた。ナマイトダフに行って良くなるか、悪くなるかはあの子次第だ。治安は悪いし、下手をしたら殺されかねない。そんな土地に連れっててもいいのだろうか。私はあの子に、昔の自分に何ができるのだろうか。
「君らがトラックに積み込まれた時、アイザー家の物か何かを見てないか。」
「見てないです。」
「そうか…」
「どうかしたんですか?」
「あの後、アイザーに依頼されたのかどうか野郎たちに聞いても、答えないんだ。」
「どうしてですか?」
「何かで脅されているのか、もしくは金目的か…。どちらにしろ今はアイザー家のやったことだという証拠がない。街の雰囲気をあれ程変えてしまうのは相当な圧力がなければ無理なはずなのに。」
「証拠がなくても証人がいるじゃないですか。私だって…」
すると、ガルカは視線を外し、言いにくそうにしていた。しかし、私がじっと見つめていることに気が付くと、私の目を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「君にとっては辛い事実だ。それでも聞きたいか。」
「はい。」
「…わかった。」
ガルカは私から目線を逸らし、小さな手帳を取り出して、それを見ながら話し始めた。
「リーリック市は元々奴隷扱いをされていた街だ。そのせいで今も社会的差別を受けるのは少なくない。」
「…知ってます。」
「だがな、逆手を取ってリーリック出身だからという理由で金目的で訴えてくる人間も少なくないんだ。」
「そんな…。」
「本当のことだ。そのせいでやってもいないのに多額の損害賠償を払わされ、倒産した会社が現実にある。…とても繊細な話だから解決法が未だ見つかっていない。だが、リーリック出身というだけで裁判所は訴訟を認めなかったり、商人として認めないことがあるんだ。それに、それらの機関はアイザーの傘下で動いている。物的証拠でないとまともに相手をしてくれない。」
「じゃあ、アイザーを逮捕することはできないんですか?私たちよりも前に連れて行かれた子達は?私の幼馴染はどうなるんですか!?」
私が乗ったトラックよりももっと先に乗った。幼馴染がいた。名前はクック・リーリック。私にとってとても大切な人だった。
「このままだと、助けることができない。」
「そんな…」
「だから思い出してほしい。どんな些細なことでもいいんだ。」
私は頭を絞るように考えたが、それらしき物を思い出すことはできなかった。
ーー現在ーー
ホテルにチェックインした後、部屋に入り、窓の外の景色を眺めていた。
あの時ガルカは私には言わなかったが、きっと市の人間も金を受け取っているため証人にならなかったのだろう。家族さえも。大人になってから分かったことだ。今はなんとも思わない。
あの後、私はシュタンツファーで里親に引き取ってもらい、暮らした。だが三ヶ月で出て行った。辛かったからだ。私にはない親、夢、希望、友…。それらを持ちながら笑う人間、不満をいう人間どれもが私に腹立たしさを覚えさせた。それだけではない。悔しかった。アイザーが統治するこの地でしか生きられない私が。いつしか私はアイザーを殺してやる、と思い始めた。憎しみから生まれた衝動で私はナマイトダフへ飛び出しって行った。その後は十二歳までナマイトダフの教会で過ごし、ファタング隊に入隊した。最初はアイザーへの復讐を目的に捜査担当の第一部隊に希望していたが、ガルカは私を市民護衛担当の第三部隊に入れた。その後に理由を知って落胆したが、それでも今は第三部隊に入って良かったと思っている。憎しみと復讐で満たされていた心はナマイトダフの人々によって浄化されていった。次第に、私のアイザー家の逮捕の目的はこの人々を守りたいというものになっていった。私はそこで大人になれた気がする。
クックは連れ去られた後、善良なドル市の家族に助けてもらっていた。しかし、十六になる年に私の目の前に現れた。クックはクック・ドルに名を変えていたが、昔と何も変わらない明るい青年だった。私と同じようにずっと私を探していたらしい。一度失ったことのある大切な人だ。私のクックに対する思いはより一層濃くなった。
あの子は、ベリアは大丈夫だろうか。私とは違う立場の子だが、それでもシュタンツファーの人間に対して思うことはほとんど同じだろう。もしベリアがナマイトダフに行きたいと言い始めたらどうすればいいのだろうか。私はずっと悩んでいた。ナマイトダフに行って良くなるか、悪くなるかはあの子次第だ。治安は悪いし、下手をしたら殺されかねない。そんな土地に連れっててもいいのだろうか。私はあの子に、昔の自分に何ができるのだろうか。
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