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シュタンツファー市
#32 焦りのような憤り
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18:09
リーヌの委員会が終わり、家に着いた。私は制服を脱ぎ、先に風呂に入った。風呂から出て、体を拭き、髪を乾かす。髪は相変わらず櫛通りが良くて艶がある。ここに来てから綺麗になった髪だ。ハイヒブルックにいた時は、毎日風呂に入れるわけではなかった。匂いは酷い。頭皮は痒い。櫛で梳かそうとしても絡まって通らなかった。それでも、二年間ずっと切らなかった。願掛けのようなものだ。そこまでは期待していなかったが助けが来るのでは、と心の何処かで思っていた。私が二年間生きていた証拠だ。私は長くなった髪を根元から毛先まで指を通した。しかし、私の指は最後の毛先で引っかかって通らなかった。
18:38
「ベリアちゃんね」
「あ、はい…。」
母親が作ってくれた温かいシチューを食べている途中に母親に急に呼ばれ、すくった肉を皿に落としてしまった。
「その長い髪の毛なんだけどね。水道代も高くなるし、切ってしまったらどうかしら?」
「え、」
「ほら、これから私たちはずっと暮らすでしょう?ということは七人家族になるわけなのよ。だから節約してかなきゃって最近思い始めてね。」
「じゃあ、私の髪も切った方がいいの?」
そう言ったリーヌの髪を見てみると私ほどでは無いが、肩より少し伸びたくらいの長さだった。
「貴方はそこまでじゃない。ベリアちゃんはもう腰までくらいはあるでしょ?美容院に行きづらかったら、私が切ってあげるからね。」
母親の笑顔はどこか棘があって、心無しか恐怖を覚えた。私は目を逸らし、シチューの肉を一口で食べた。その肉は硬く、今までで一番味のない肉だった。
19:05
歯を磨き終え、自分の部屋に行った。時計の長針は七時を回っていた。私の頭の中に色んな人の声が響いていた。
『もしかしたら、貴方もシュタンツファーに着いたら分かるかも知れないわね。』
『この街は俺らみたいなのが住むところじゃないってことだ…。』
『貴方が持ってる自由を思う存分使いなさいよ。』
『貴方しか私の思いを持って行ってくれる人が居ないからよ。』
私の心につっかかったものばかりだった。私は瞑っていた目を開け、制服のポケットからアリーから貰った髪ゴムと男の子から貰った布を取り出した。そして、違う意味で突っ掛かった言葉が津波のように頭の中に入ってきた。
『もう忘れなさい。辛かったことも悲しかったことも。』『あ~、そんなものあったわね。今はそんなものより栄養価の高くて手軽に食べられるものがあるのよ。あれは体に悪いからね。』『バイ菌だらけの街から来たんだろう!』『一番辛いのはベリアちゃんだもん。』『私頑張ってもう一回目指してみようかな。』『俺のせいであの子は一人になった。』『この曲ね、好きな人を思って作ったの。』『切ってしまったらどうかしら?』
私が制服のポケットにしまったはずの焦りのような憤りは何十倍にも膨らんでいた。私は止められない衝動に駆られ、長い髪をアリーから貰った髪ゴムで団子にまとめ、着ていた寝間着を脱ぎ、私物の服を着て左腕に男の子から貰った布を巻いてキツく縛った。私はそれ以外の持ち物を持たずに、そっとリーヌの家から出て行った。
19:16
リーヌの委員会が終わり、家に着いた。私は制服を脱ぎ、先に風呂に入った。風呂から出て、体を拭き、髪を乾かす。髪は相変わらず櫛通りが良くて艶がある。ここに来てから綺麗になった髪だ。ハイヒブルックにいた時は、毎日風呂に入れるわけではなかった。匂いは酷い。頭皮は痒い。櫛で梳かそうとしても絡まって通らなかった。それでも、二年間ずっと切らなかった。願掛けのようなものだ。そこまでは期待していなかったが助けが来るのでは、と心の何処かで思っていた。私が二年間生きていた証拠だ。私は長くなった髪を根元から毛先まで指を通した。しかし、私の指は最後の毛先で引っかかって通らなかった。
18:38
「ベリアちゃんね」
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「その長い髪の毛なんだけどね。水道代も高くなるし、切ってしまったらどうかしら?」
「え、」
「ほら、これから私たちはずっと暮らすでしょう?ということは七人家族になるわけなのよ。だから節約してかなきゃって最近思い始めてね。」
「じゃあ、私の髪も切った方がいいの?」
そう言ったリーヌの髪を見てみると私ほどでは無いが、肩より少し伸びたくらいの長さだった。
「貴方はそこまでじゃない。ベリアちゃんはもう腰までくらいはあるでしょ?美容院に行きづらかったら、私が切ってあげるからね。」
母親の笑顔はどこか棘があって、心無しか恐怖を覚えた。私は目を逸らし、シチューの肉を一口で食べた。その肉は硬く、今までで一番味のない肉だった。
19:05
歯を磨き終え、自分の部屋に行った。時計の長針は七時を回っていた。私の頭の中に色んな人の声が響いていた。
『もしかしたら、貴方もシュタンツファーに着いたら分かるかも知れないわね。』
『この街は俺らみたいなのが住むところじゃないってことだ…。』
『貴方が持ってる自由を思う存分使いなさいよ。』
『貴方しか私の思いを持って行ってくれる人が居ないからよ。』
私の心につっかかったものばかりだった。私は瞑っていた目を開け、制服のポケットからアリーから貰った髪ゴムと男の子から貰った布を取り出した。そして、違う意味で突っ掛かった言葉が津波のように頭の中に入ってきた。
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私が制服のポケットにしまったはずの焦りのような憤りは何十倍にも膨らんでいた。私は止められない衝動に駆られ、長い髪をアリーから貰った髪ゴムで団子にまとめ、着ていた寝間着を脱ぎ、私物の服を着て左腕に男の子から貰った布を巻いてキツく縛った。私はそれ以外の持ち物を持たずに、そっとリーヌの家から出て行った。
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