ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

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シュタンツファー市

#25 水面下の動き

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顔馴染みの二人組はこちらに手を振って近づいてくる。中学の時から一緒にいた子達だ。私とリーヌは元々一緒にいたのだが、そこに集まるように人が来て、私たちは学校でいつも五人で行動をしていた。

「ベリア!久しぶり!良かったよ無事で!」

昔から元気が有り余っているシルルは私たち五人組の盛り上げ役だった。彼女は私の腕を掴み、至近距離で大きな声で話す。

「久しぶり。シルルは相変わらず声がデカい。」
「うるせーよ!いひひひっ」

その横で大人しくいるのは眼鏡っ子のコツキ。コツキは昔つけていた眼鏡を外して髪型も変えており、雰囲気がとても変わっていた。しかし、昔と同様ニコニコして口数の少ない子だった。
彼女たちは歩いているリーヌに話しかけ合流し、公園にいた私にも話しかけようとしたが、リーヌに止められたらしく、しばらく公園の外で三人とも待っていたらしい。

「ベリア、大変だったな。なんでもっと早く避難しなかったんだよ。私らもう高校生が終わっちまうんだよ!?それなのにベリアは…」
「シルル!あんまり辛いことを思い出させるようなこと、ベリアちゃんに言わないで!」
「あ、ごめん…」

リーヌが慌てて怒った時、リーヌが今まで私にハイヒブルックで何があったのかを深掘りしなかったのは、気遣ってくれていたからだと知った。

「いいよ。話す分には辛くないから。ありがとうね。リーヌ。」
「ベリアちゃん…」
「シルルの言ったことはね、救助された時も言われたの。怒られちゃった。なんで逃げる努力をしないんだって。」
「でもそれはおじいさんがいたからでしょ?」
「じいさんがどうかしたのか??」
「寝たきり状態になっててね。なんとか回復して今はナマイトダフの病院にいる…。
でも、じいちゃんのことだけじゃない。近所に頼めば良かったことだし、もっとやれることはあったと思う。」
「そんな大変なことがあったのか…。ごめんな。責めたりして。」
「ううん。本当のことだもん。私のせいでじいちゃんは逃げられなかった。」
「それは違うと思います。」

急に口を開いたのは口数の少ないコツキだった。コツキは私をじっとみて話を続けた。

「ワイルが現れるまでの避難はみんな上京感覚で緊急っていうような様子全くなかったですし、自治体だってアイザー家の汚職疑惑で避難の呼びかけが出来ないほど、うまく機能できてませんでしたし。」
「そうだったの?」
「そうなんだよ。私らが中学生の時はまだ水面下の話だったんだけど、この国のトップのアイザー教皇の汚職事件で自治体は全くっていていいほど動けてなかった。おかしかっただろ?避難すべきかどうか分からないのに自治体は何もしなかった。」

シルルとコツキの言うことはこうだった。
このリベフィラ國の代表者である九十八代目のアイザー教皇は元々汚職のひどい人間だったそうだ。九十七代目が亡くなり、教皇の跡を継いだ後、さらに悪化していったという噂があるらしい。しかし、徹底的な情報はこれまでなく、地震やワイルの件からは拠点地だったナマイトダフに代わり、シュタンツファー市を管轄区域として統治することで言及されることを免れたようだ。一方でナマイトダフをまとめているのがフェイジ団ことファタング隊だそうだ。フェイジ団は政治を担う上層部と五部に分かれているファタング隊で構成されているらしい。
ハイヒブルックは自然が豊かな街だった。しかし十二年前からゆっくりと原因不明の環境破壊が進んでいった。しかしその進度は遅く、自然が全くなくなったということではなかった。だが、住民たちは街の変化に恐れをなし、次々と出て行った。私たちが中学を卒業する頃には、個人経営の店は閉まり、人は消え、店という店は駅近くの大きな店以外無くなり、買い物も不便になっていた。その後もゴーストタウン化は止まらなかった。
シルルとコツキは中学卒業とともにシュタンツファーへと引っ越して行った。

「だから、ベリアちゃんには責任ないと思います。それに近所に頼んだって…。」

その言葉が出た後、私たちは沈黙になった。分かっていた。頼んだって無駄なことは。自分たちの身もどうなるか分からないような状態で、病名も分からない重症な人間を引き受けれるわけがない。それ以外ではない。ゴーストタウンになりかけているような街に残るのは地元愛の強い高齢者か、危機感のない高齢者ばかりで避難の手助けなんてしてくれないし、出来ないであろう。
私は気まずい空気に耐えられず、話題を変えようとした。

「ずっと思ってたんだけど、キキは?」

キキとは一緒に行動を共にしていた五人組の一人である。真顔で目を吊り上げ、いつもつまらなそうに窓の外を眺めているような子だ。少し雰囲気はリツロに似ているかも知れない。あれほどはキツくないが。
私が聞いた後、皆は黙ったままだった。

「あれ?どうしたの?」
「キキは…死んだよ。」

そう言ったのはリーヌだった。訳が分からなかった。手の感覚が奪われていくよに私の血の気が引いていく。あのキキが死んだ。いつも私のそばで弁当を食べていたキキ。口調は少しきついが話を分かってくれたキキ。キキが死んだ。私はそのショックで何も言えなかった。
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