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シュタンツファー市
#21 一般常識の欠如
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金曜日。朝に玄関を見るとゴミ袋は無くなっていた。父親が朝早くにゴミ出しをしてくれたのだろう。
学校に着くとマキがすぐに駆け寄ってきて、感想を求めた。
「どうだった?」
「全部は聞ききれなかったんだけど、リッツヒールの曲ってカッコいい曲調の真っ直ぐなラブソングが多かったのに、最近のは自己肯定の歌詞が多かったり、励ますだけじゃなくていろんな感情を綺麗な言葉で綴るからすごく共感して聞けた。」
「やっぱり分かってるね~!!でねでね…」
その後は何も起こらず普通に過ごした。リツロとは必要最低限の会話しかせず、特別なことは起きなかった。しかし、私の心は穏やかでは無かった。人問わず、誰かと何気ない会話をしているだけで、心の霧が鈍色に、濃く広がっていった。
土曜日。受験生ゆえ、土曜日でも学校があった。私は皆が参加する課外には出ず、別室で高一の途中からの内容の授業を受けた。そして、今日もまた心の霧は濃くなっていった。
きっとこのように同じ様で同じで無い日々が続いていくのだろう。かけがえのない日々と言われる毎日が。二度と戻らないと言われる毎日が。大切な思い出に変わると言われる毎日が。だが、私の中には最初の頃のような気合は無くなっていた。むしろ、このままここに居ていいのか。ここで私は自分を知ることができるのだろうか。そんな生意気な想いだけが独りでに馳せていた。しかし、言われるのだろう。一日一日を大切にしなさい、と。学生として本業である勉強を優先しなさい、と。そうしなければ、将来の安定はない、と。
私の心の霧がここから逃げろと言ってくる。正体不明のものを信じるつもりはない。ただ、正体が分からずに膨れ上がったものに対してあったものは漠然とした恐怖心だけだった。私が徐々にゆっくりと不透明になっていく。そんな気がした。
私はリーヌと帰った後、自分の部屋で男の子からもらった布とアリーからもらった髪飾りを見つめていた。彼らなら私の心の霧が分かるのだろうか。知っているのだろうか。
アリーは私に『もしかしたら分かるかも』と言った。男の子は私に『いつか分かったら、ナマイトダフに来い』と言った。ナマイトダフ。そこに私の知りたいものがあるのだろうか。しかし、常識的に考えて私のような学生が学校を放棄して出って行ってはいけない。それはいけないことだ。周りに迷惑をかける行為だ。ここに残るのが正しいはずなのだ。なのに、私の思う正しいはナマイトダフに矢印を向けている。私はいつから一般常識を捨ててしまったのだろうか。自戒による自己嫌悪はより増していく一方だった。
部屋を出て、私は明日一人で散歩に行かしてほしいとリーヌに頼んだ。一人になる時間が必要と感じたのだ。リーヌは私のことをよく理解している。私に一人の時間が必要なのが分かったのだろう。リーヌは心配そうな顔つきを見せたが、途中までついて行かせてくれるのならいいと言ってくれた。親には黙っているとのことだった。
いつものように晩御飯を済ませ、いつものように風呂に入った後、いつものようにベットに入った。明日で私の心の霧が晴れればいい。そしたら自己嫌悪もなくなる。私はそう願いながら瞼を閉じ、朝を待った。
学校に着くとマキがすぐに駆け寄ってきて、感想を求めた。
「どうだった?」
「全部は聞ききれなかったんだけど、リッツヒールの曲ってカッコいい曲調の真っ直ぐなラブソングが多かったのに、最近のは自己肯定の歌詞が多かったり、励ますだけじゃなくていろんな感情を綺麗な言葉で綴るからすごく共感して聞けた。」
「やっぱり分かってるね~!!でねでね…」
その後は何も起こらず普通に過ごした。リツロとは必要最低限の会話しかせず、特別なことは起きなかった。しかし、私の心は穏やかでは無かった。人問わず、誰かと何気ない会話をしているだけで、心の霧が鈍色に、濃く広がっていった。
土曜日。受験生ゆえ、土曜日でも学校があった。私は皆が参加する課外には出ず、別室で高一の途中からの内容の授業を受けた。そして、今日もまた心の霧は濃くなっていった。
きっとこのように同じ様で同じで無い日々が続いていくのだろう。かけがえのない日々と言われる毎日が。二度と戻らないと言われる毎日が。大切な思い出に変わると言われる毎日が。だが、私の中には最初の頃のような気合は無くなっていた。むしろ、このままここに居ていいのか。ここで私は自分を知ることができるのだろうか。そんな生意気な想いだけが独りでに馳せていた。しかし、言われるのだろう。一日一日を大切にしなさい、と。学生として本業である勉強を優先しなさい、と。そうしなければ、将来の安定はない、と。
私の心の霧がここから逃げろと言ってくる。正体不明のものを信じるつもりはない。ただ、正体が分からずに膨れ上がったものに対してあったものは漠然とした恐怖心だけだった。私が徐々にゆっくりと不透明になっていく。そんな気がした。
私はリーヌと帰った後、自分の部屋で男の子からもらった布とアリーからもらった髪飾りを見つめていた。彼らなら私の心の霧が分かるのだろうか。知っているのだろうか。
アリーは私に『もしかしたら分かるかも』と言った。男の子は私に『いつか分かったら、ナマイトダフに来い』と言った。ナマイトダフ。そこに私の知りたいものがあるのだろうか。しかし、常識的に考えて私のような学生が学校を放棄して出って行ってはいけない。それはいけないことだ。周りに迷惑をかける行為だ。ここに残るのが正しいはずなのだ。なのに、私の思う正しいはナマイトダフに矢印を向けている。私はいつから一般常識を捨ててしまったのだろうか。自戒による自己嫌悪はより増していく一方だった。
部屋を出て、私は明日一人で散歩に行かしてほしいとリーヌに頼んだ。一人になる時間が必要と感じたのだ。リーヌは私のことをよく理解している。私に一人の時間が必要なのが分かったのだろう。リーヌは心配そうな顔つきを見せたが、途中までついて行かせてくれるのならいいと言ってくれた。親には黙っているとのことだった。
いつものように晩御飯を済ませ、いつものように風呂に入った後、いつものようにベットに入った。明日で私の心の霧が晴れればいい。そしたら自己嫌悪もなくなる。私はそう願いながら瞼を閉じ、朝を待った。
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