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シュタンツファー市
#20 偽善、自戒、不安定
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「偽善ね。」
そう話しかけてきた隣の席のリツロはどうやら私たちの話を聞いていた様だった。
「私がってこと?」
「そうよ。それ以外に誰がいるの?」
「どうしてそう思うの?」
「貴方、何も考えてないのね。じゃあ聞くけど、貴方のアドバイスで音楽の道を目指したマキさんがその道で大失敗したらどうするの?もし死にたくなるような問題に立ちはだかったら?貴方、責任取れるの?貴方のアドバイスがなかったら起こることの無かった不幸をマキさんは背負っていくかもしれないのよ。」
「それは…」
「それは本人が決めたことだって言うの?確かに自分の進路を決めて他人のせいにするのはお門違いよ。でも、軽率な助言をした人間にも責任があると思うけど。
マキさんくらいの音楽好きなんて五万といるの。それでも音楽で生きていけるのはほんの一握り。折角諦めようとした人の決断に口出しするのは違うと思うけど。人の人生に偉そうな助言するくらいなら、もっと責任を持つことね。」
「…ごめん。」
何も言い返せない。確かに私はマキにアドバイスした時、背徳感を覚えていたかもしれない。楽観的になりすぎていた。私の将来は今年受験に落ちても後がある。自治体奨学金によって来年にまた受験ができるようになっている。だが、ここにいる皆は違う。今年しかない子が大半だろう。私の感覚でアドバイスしていい相手じゃ無かった。
しばらくして、戻ってきたマキに私は何も言えなかった。言うべきなのか悩んでいた。
終礼が終わり、帰ろうとしたリツロにもう一度、何故私と仲良くしたくないのかを聞いた。だがリツロは、貴方は誰にでも好かれると思っているのか、と吐き捨てて帰ってしまった。
「ベリアちゃ~ん!リッツヒールの曲、これこれ!」
マキは一番前の席でウォークマンを掲げて嬉しそうに私を呼んでいた。私は荷物をまとめ、マキの元に行った。
「ベリアちゃん!ごめん!なんか今日の昼食後からアイデアがいっぱい出て来ちゃって、早く帰りたいの!
だからこのウォークマン、あげる!!」
「え!?いいの?」
「良いの良いの。私のバイト代で買ったやつだし!私は腐るほどウォークマン持ってるからね!このウォークマンにはリッツヒールの曲全部入ってるから聴いて感想聞かせて!」
「ありがとう。すごく嬉しい。私のウォークマン、ハイヒブッルクの方に置いて来ちゃったから。」
「ううん!むしろベリアちゃんに受け取って欲しい。」
「……マキちゃん。私今日…無責任なこと言ったかもしれない。…音楽の道なんてすごく険しいのに…。」
「そんな!例えこれから苦しくなっても、私の選んだ道だもん。ベリアちゃんは悪くない。それにあのまま中途半端に諦めてたら絶対どこかで泣くほど後悔してたと思う。やるだけやってみるよ。好きになちゃったんだもん。音楽で不幸になったって、それが私の人生何だって納得できる気がするし!
ねえ、ベリアちゃん。今私の頭の中にある曲が完成したら一番最初に聴いてほしい。」
「うん!うん!喜んで!」
「やったね!えへへへ」
彼女は嬉しそうに教室を出ていった。リツロは言った。諦めようとした人の決断に口出しするのは違うと。それは正しい。もしマキの作った曲に才能を感じられなかったらなんと言おう。嘘をついて褒めるのは絶対にいけない。かと言って本当のことを言えば傷ついてしまうだろう。私は本当に無責任なことを言ってしまった。
私は昨日と同じようにリーヌと同じように家に帰った。そしてまた、あのゴミ袋が目に止まった。私は今日思い知った。私は偽善者で、自分のことをよく知らないで、将来も決まらずに不安定なのだと。それに気づいた瞬間、私の中から焦りのような憤りが込み上げてきた。このボロ布は明日の朝には捨てられる。私は込み上げた勢いでゴミ袋を開け、そのボロ布を取り上げた。そして憤りと共にそのボロ布を制服のポケットに押し込んだ。押し込んだ勢いで手に当たったのは、アリーからもらった蝶の髪飾りだった。
そう話しかけてきた隣の席のリツロはどうやら私たちの話を聞いていた様だった。
「私がってこと?」
「そうよ。それ以外に誰がいるの?」
「どうしてそう思うの?」
「貴方、何も考えてないのね。じゃあ聞くけど、貴方のアドバイスで音楽の道を目指したマキさんがその道で大失敗したらどうするの?もし死にたくなるような問題に立ちはだかったら?貴方、責任取れるの?貴方のアドバイスがなかったら起こることの無かった不幸をマキさんは背負っていくかもしれないのよ。」
「それは…」
「それは本人が決めたことだって言うの?確かに自分の進路を決めて他人のせいにするのはお門違いよ。でも、軽率な助言をした人間にも責任があると思うけど。
マキさんくらいの音楽好きなんて五万といるの。それでも音楽で生きていけるのはほんの一握り。折角諦めようとした人の決断に口出しするのは違うと思うけど。人の人生に偉そうな助言するくらいなら、もっと責任を持つことね。」
「…ごめん。」
何も言い返せない。確かに私はマキにアドバイスした時、背徳感を覚えていたかもしれない。楽観的になりすぎていた。私の将来は今年受験に落ちても後がある。自治体奨学金によって来年にまた受験ができるようになっている。だが、ここにいる皆は違う。今年しかない子が大半だろう。私の感覚でアドバイスしていい相手じゃ無かった。
しばらくして、戻ってきたマキに私は何も言えなかった。言うべきなのか悩んでいた。
終礼が終わり、帰ろうとしたリツロにもう一度、何故私と仲良くしたくないのかを聞いた。だがリツロは、貴方は誰にでも好かれると思っているのか、と吐き捨てて帰ってしまった。
「ベリアちゃ~ん!リッツヒールの曲、これこれ!」
マキは一番前の席でウォークマンを掲げて嬉しそうに私を呼んでいた。私は荷物をまとめ、マキの元に行った。
「ベリアちゃん!ごめん!なんか今日の昼食後からアイデアがいっぱい出て来ちゃって、早く帰りたいの!
だからこのウォークマン、あげる!!」
「え!?いいの?」
「良いの良いの。私のバイト代で買ったやつだし!私は腐るほどウォークマン持ってるからね!このウォークマンにはリッツヒールの曲全部入ってるから聴いて感想聞かせて!」
「ありがとう。すごく嬉しい。私のウォークマン、ハイヒブッルクの方に置いて来ちゃったから。」
「ううん!むしろベリアちゃんに受け取って欲しい。」
「……マキちゃん。私今日…無責任なこと言ったかもしれない。…音楽の道なんてすごく険しいのに…。」
「そんな!例えこれから苦しくなっても、私の選んだ道だもん。ベリアちゃんは悪くない。それにあのまま中途半端に諦めてたら絶対どこかで泣くほど後悔してたと思う。やるだけやってみるよ。好きになちゃったんだもん。音楽で不幸になったって、それが私の人生何だって納得できる気がするし!
ねえ、ベリアちゃん。今私の頭の中にある曲が完成したら一番最初に聴いてほしい。」
「うん!うん!喜んで!」
「やったね!えへへへ」
彼女は嬉しそうに教室を出ていった。リツロは言った。諦めようとした人の決断に口出しするのは違うと。それは正しい。もしマキの作った曲に才能を感じられなかったらなんと言おう。嘘をついて褒めるのは絶対にいけない。かと言って本当のことを言えば傷ついてしまうだろう。私は本当に無責任なことを言ってしまった。
私は昨日と同じようにリーヌと同じように家に帰った。そしてまた、あのゴミ袋が目に止まった。私は今日思い知った。私は偽善者で、自分のことをよく知らないで、将来も決まらずに不安定なのだと。それに気づいた瞬間、私の中から焦りのような憤りが込み上げてきた。このボロ布は明日の朝には捨てられる。私は込み上げた勢いでゴミ袋を開け、そのボロ布を取り上げた。そして憤りと共にそのボロ布を制服のポケットに押し込んだ。押し込んだ勢いで手に当たったのは、アリーからもらった蝶の髪飾りだった。
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