ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

文字の大きさ
上 下
19 / 60
シュタンツファー市

#19 夢中になれるもの

しおりを挟む
<リベフィラ国立高等附属中学校-高等部三学年D組>

「ベリアちゃん!お昼食べよ!」
「うん!」

そう言って私の席に駆け寄ったのは明るい茶髪をお団子にまとめている女の子、マキ・ヒューカルだ。
私は早くもリーヌ以外の話し相手を作ることができた。昨日、私がまだ小さい頃に活躍していた歌手、リッツヒールの曲が好きだったということを話したら食いついてくれたのだ。彼女はどんな時も音楽の話を情熱的にする子で色々なことを教えてくれた。特にリッツヒールについては事細かく教えてくれた。今日は帰りに最近のリッツヒールの曲を聞かせてくれるらしい。
リッツヒールの曲は私たちの親世代が若い頃に流行った。彼女にしか出せない独特なリズムとビート、しかしそれに乗る素直で直球な歌詞が若人の心を掴んだ。世代は違えど、私も家にあったウォークマンで聞いた時忘れられない衝撃を受けた。

「…でね、リッツヒールと最近コラボしてるのがね、アッフーっていう女性アーティストなんだけど、すごく素敵なの!」
「……」
「あ。ごめんなさい。また先走っちゃって…。こんな二日間しか話したことないのに、流石に引く…よね…。」
「ううん。そんなことないよ。沢山教えてくれて嬉しいよ。ただ、マキちゃんは本当に音楽が好きなんだなあって思って。」
「あはは…。好きなんてもんじゃないよ。私避難する時、命云々の前に音楽に関するすべてのデータと貯めてたウォークマンのこと心配しちゃったの。おかしいよね。命の方が大事なのに。」

彼女はそう言いながら渇いた笑いをした。

「確かに、それは異常かもね。ふふふ。」
「でしょ!ふふふ……。でも、残酷だよね。こんなに音楽のことが好きなのに才能がないから、これを仕事にはできない。私ね、自分で作ったりしてみてるの!でも全然だめ。最初はちょっとなら希望はあるかな、なんて思ってたけど、今は諦めて受験勉強してる。」
「そんな!まだやってみる価値があると思うけどな。」
「言うだけなら簡単だよ。最初はできるって信じてた。でも、実際問題、自分自身が一番私には才能がないって分かってるの。だから…」
「誰かに聞かせたことはあるの?応募できるとことかないの?」
「聞かせたことは…恥ずかしくて…ない。それに応募できるようなイベントは今ないの。ただでさえ今はプロのアーティストは仕事がなくて困ってるのに。」
「聞かせてみなきゃ分からないよ!自分から生まれたものが誰かにとっては大事なメッセージかもよ?」
「ベリアちゃん…」
「それにさ!音楽は今は肩身狭い分野かもしれないけど、また前の世界のように幅広い分野になってくると思うよ!だって、音楽の力ってすごいもん。マキちゃんの方が一番分かってると思うけどな。やってみなきゃ損だよ。それだけ何かに夢中になれること自体がなかなか無いのに。少なくとも私はマキちゃんが羨ましいけどな。」
「…そんなこと初めて言われた。こんなこと話しても流されるだけだから…。…うん、私頑張ってもう一回目指してみようかな。」

羨ましい。彼女は夢中になれるものがある。自分が何を好きなのかを自分で分かっている。私にはそういうものがない。好きなものどころか、自分の気持ちすら分かっていない。今も心の霧が何なのか分かっていない。
彼女はお手洗いに行ってくると、席を立った。私は彼女の背中を目で追った。何故だか、また心の霧が濃くなっていった。それを無意識に閉じ込めようとしたのか、私の左手が自然に胸に置かれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...