ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

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シュタンツファー市

#18 黒髪少女、リツロ

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リツロと別れた後、私は茫然と立ち尽くしていた。これがリーヌの言っていたことか。予想していたよりもかなり直球できた。今日一日中、酷い事を言ってくる人は誰一人としていなかった。私もそのせいか最初の身構えが崩れていた。あんなにも受け入れてくれた子達がいたのによりによって隣が私を嫌悪する子だとは。だいぶやりにくくなってきたなと思い、私は自分の足元を見た。自然と涙が垂れてきた。やはり誰かにきつく当たられるというのは慣れないものだ。何度言われようが殴られようが、痛いものは痛い。しかし、心は痛さを覚えたが、心の霧は濃くならなかった。この霧は一体なんなのだろうか。涙はいつの間にか止まっていた。
きっと大丈夫だろう。そのうち仲良くなれるだろう。そう思うことが多分大切なのだろう。

「ベリアちゃ~ん!待たせてごめん!委員会終わったよ~。学校閉まっちゃうから早く帰ろう~。……あれ?なんかあった?」
「うん、それがね…」

私は帰りの道中、リツロとのことをリーヌに話した。リーヌは表情一つ変えずに聞いていた。話が一通り終わるとリーヌはリツロのことを話し始めた。
リツロは元々このシュタンツファー市に住んでいた。三、四年前のシュタンツファーは人口はそこそこで、昔ならではの商店街が並び、懐古的な街だったという。しかし、原因不明の環境汚染やワイルによって来た避難国民が増え、街は懐古的な姿からかつてのナマイトダフのような最先端の街になっていったという。それは多くの人々が喜ぶことであったが、少数派からは反感をくらったそうだ。リーヌ曰く、リツロもその少数派の一人だろうとのことだった。

「だからリツロちゃんは、私が昨日言った様な子達とは違うけど、私たちを余所者って思ってるんだと思う。地元が変わっていくのが嫌なのは分かるけど、私たちだって好きでこんな形でここに来たんじゃないのに…。もう少し分かり合えると良いんだけど…。」
「そうだね…。」

私たちが話終わる頃にはもうすでに家に着いていた。ただいまと言いながら入るリーヌに続いて入ろうとした時、玄関の隅にある一つのゴミ袋が私の目にとまった。よく見ると、その中には男の子が私の頭に巻いてくれた細長い布が入っていた。私はそれを横目に家の中に入っていった。

「ただいま帰りました。ママさん、燃えるゴミの収集日はいつですか?」
「えーと、今日は水曜日だから明後日の朝にゴミ出しするわ。」
「そうですか。ありがとうございます。」

あの男の子が本当にナマイトダフに行くのならアリーと同じ電車に乗るはずだ。アリーと別れて九日経った。出発日はあと五日後だ。私はあの布を見た時にどよめいた心の霧を閉じ込めた。しかし、額の隅にできた傷は何故だか、痛み始めた。
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