16 / 60
シュタンツファー市
#16 ライヤの涙
しおりを挟む
私は晩御飯時になってもリビングに行かなかった。その代わりにライヤが私の部屋に晩御飯を運んできた。
「ベリア姉ちゃん、入るよ。」
ライヤの声はどこか緊張しているようだった。私は返事をする余裕すらなかったが、持ってきたものを突き返すにはいかないので、ドアを開けた。
「ありがとうね…。」
「ベリア姉ちゃん!」
ライヤは私が閉めようとしたドアを止め、涙ぐんだ顔で私を少し見上げて見ていた。昔はあんなに小さかったのに、もうこんなに大きくなったのか、とその時思った。
「ベリア姉ちゃん、ごめんなさい。僕、見て見ぬ振りしちゃって…。僕怖くて…。」
ライヤはいっぱいの涙を浮かばせて、懸命に震えながら言葉を発していた。きっと自分が泣いてはいけないと思っているのだろう。私が一番泣きたいはずと思っているのだろう。私はそれが手に取る様に分かったので、ライヤを責めることができなかった。
「いいよ。ライヤがしたことはいけないかも知れない。人を傷つけるのはもちろんいけないことだし、それを見て見ぬ振りするのもいけないことだよ。でも、ライヤはそれを分かって今謝ってくれたんでしょう?」
「……うん。」
「だったら、これから同じ様に傷つけられてる人を見かけたら助けてあげて。」
「分かった…。」
「簡単にできる事じゃないよ。私だって怖いもん。でも、ライヤならできるよね?」
「…うん。」
「ライヤはいい子だよ。」
私の言葉に安心したのか、はたまた後悔が強くなったのか、ライヤは大きな一粒の涙を流した。
私は皆が寝静まったあと、食べ終わった晩御飯の食器をキッチンに持っていき、風呂に入った。
湯船の中に入っていれば落ち着くはずなのに、今日は全然落ち着かなかった。色々なことがありすぎた。初めて菌扱いをされて、初めて人に殴られた。初めて名前も知らない人と話し込んだ。そして、初めて泣きながら謝られた。少しずつ濃くなっていく心の霧は今日でよりいっそう濃くなった気がする。この霧はなんだろうか。最近、ずっとそのことについて考えている。辛いという訳でもなく、寂しいという訳でもなく、ただただ私の心の中を不透明にしていく。
風呂に上がって、リビングに戻るとリーヌがいた。リーヌは深刻そうな顔をしていた。私が話しかけると、少し驚いた表情を見せた。そして真剣な顔つきで私に話があると言った。
「ベリアちゃん、さっきはごめん。言うべきではなかった事を言っちゃった。」
「ううん。むしろ言ってくれて良かった。私もきつく当たってごめん。全部私のためなのに。」
「私は大丈夫。一番辛いのはベリアちゃんだもん。」
私たちの間に沈黙ができていった。しかし、それを破るようにリーヌが話をし始めた。
「それでね、今日の話と繋がるんだけど、明日からベリアちゃんは学校に行くでしょう?ほとんどの子は常識的に動いてくれるし、ベリアちゃんに何か仕掛けてくるなんてことはないと思うけど、それでもやっぱりよく思わない子達はいるにはいるの。しばらくの間は我慢してもらうことも多いかもしれない。でも心配しないで!きっと時間が経てばなくなると思うから…。ほんとは隠していこうって、私が周りの子達と一緒にベリアちゃんを守ろうって思ってたけど、ここまで言ったら言わなきゃって思って。」
「守ってくれてありがとう。もう十分守られてるよ。私も少しは自分で自分を守らなきゃ。ここに住めるようにさ。」
「ベリアちゃん…。」
「それよりも、リーヌやその周りの子達は何かされてない?」
「ないって言ったら嘘になるけど、全然大丈夫!」
そう言ってリーヌは私にいつもの明るくて柔らかい笑顔を見せた。私たちが寝付く頃には一時を回っていた。
明日はいよいよ学校に行く。怖いが、立ち向かわなければならない。頑張れば良い方向に向かうはずだ。きっと…。
「ベリア姉ちゃん、入るよ。」
ライヤの声はどこか緊張しているようだった。私は返事をする余裕すらなかったが、持ってきたものを突き返すにはいかないので、ドアを開けた。
「ありがとうね…。」
「ベリア姉ちゃん!」
ライヤは私が閉めようとしたドアを止め、涙ぐんだ顔で私を少し見上げて見ていた。昔はあんなに小さかったのに、もうこんなに大きくなったのか、とその時思った。
「ベリア姉ちゃん、ごめんなさい。僕、見て見ぬ振りしちゃって…。僕怖くて…。」
ライヤはいっぱいの涙を浮かばせて、懸命に震えながら言葉を発していた。きっと自分が泣いてはいけないと思っているのだろう。私が一番泣きたいはずと思っているのだろう。私はそれが手に取る様に分かったので、ライヤを責めることができなかった。
「いいよ。ライヤがしたことはいけないかも知れない。人を傷つけるのはもちろんいけないことだし、それを見て見ぬ振りするのもいけないことだよ。でも、ライヤはそれを分かって今謝ってくれたんでしょう?」
「……うん。」
「だったら、これから同じ様に傷つけられてる人を見かけたら助けてあげて。」
「分かった…。」
「簡単にできる事じゃないよ。私だって怖いもん。でも、ライヤならできるよね?」
「…うん。」
「ライヤはいい子だよ。」
私の言葉に安心したのか、はたまた後悔が強くなったのか、ライヤは大きな一粒の涙を流した。
私は皆が寝静まったあと、食べ終わった晩御飯の食器をキッチンに持っていき、風呂に入った。
湯船の中に入っていれば落ち着くはずなのに、今日は全然落ち着かなかった。色々なことがありすぎた。初めて菌扱いをされて、初めて人に殴られた。初めて名前も知らない人と話し込んだ。そして、初めて泣きながら謝られた。少しずつ濃くなっていく心の霧は今日でよりいっそう濃くなった気がする。この霧はなんだろうか。最近、ずっとそのことについて考えている。辛いという訳でもなく、寂しいという訳でもなく、ただただ私の心の中を不透明にしていく。
風呂に上がって、リビングに戻るとリーヌがいた。リーヌは深刻そうな顔をしていた。私が話しかけると、少し驚いた表情を見せた。そして真剣な顔つきで私に話があると言った。
「ベリアちゃん、さっきはごめん。言うべきではなかった事を言っちゃった。」
「ううん。むしろ言ってくれて良かった。私もきつく当たってごめん。全部私のためなのに。」
「私は大丈夫。一番辛いのはベリアちゃんだもん。」
私たちの間に沈黙ができていった。しかし、それを破るようにリーヌが話をし始めた。
「それでね、今日の話と繋がるんだけど、明日からベリアちゃんは学校に行くでしょう?ほとんどの子は常識的に動いてくれるし、ベリアちゃんに何か仕掛けてくるなんてことはないと思うけど、それでもやっぱりよく思わない子達はいるにはいるの。しばらくの間は我慢してもらうことも多いかもしれない。でも心配しないで!きっと時間が経てばなくなると思うから…。ほんとは隠していこうって、私が周りの子達と一緒にベリアちゃんを守ろうって思ってたけど、ここまで言ったら言わなきゃって思って。」
「守ってくれてありがとう。もう十分守られてるよ。私も少しは自分で自分を守らなきゃ。ここに住めるようにさ。」
「ベリアちゃん…。」
「それよりも、リーヌやその周りの子達は何かされてない?」
「ないって言ったら嘘になるけど、全然大丈夫!」
そう言ってリーヌは私にいつもの明るくて柔らかい笑顔を見せた。私たちが寝付く頃には一時を回っていた。
明日はいよいよ学校に行く。怖いが、立ち向かわなければならない。頑張れば良い方向に向かうはずだ。きっと…。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる