ロウの人 〜 What you see 〜

ムラサキ

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シュタンツファー市

#16 ライヤの涙

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私は晩御飯時になってもリビングに行かなかった。その代わりにライヤが私の部屋に晩御飯を運んできた。

「ベリア姉ちゃん、入るよ。」

ライヤの声はどこか緊張しているようだった。私は返事をする余裕すらなかったが、持ってきたものを突き返すにはいかないので、ドアを開けた。

「ありがとうね…。」
「ベリア姉ちゃん!」

ライヤは私が閉めようとしたドアを止め、涙ぐんだ顔で私を少し見上げて見ていた。昔はあんなに小さかったのに、もうこんなに大きくなったのか、とその時思った。

「ベリア姉ちゃん、ごめんなさい。僕、見て見ぬ振りしちゃって…。僕怖くて…。」

ライヤはいっぱいの涙を浮かばせて、懸命に震えながら言葉を発していた。きっと自分が泣いてはいけないと思っているのだろう。私が一番泣きたいはずと思っているのだろう。私はそれが手に取る様に分かったので、ライヤを責めることができなかった。

「いいよ。ライヤがしたことはいけないかも知れない。人を傷つけるのはもちろんいけないことだし、それを見て見ぬ振りするのもいけないことだよ。でも、ライヤはそれを分かって今謝ってくれたんでしょう?」
「……うん。」
「だったら、これから同じ様に傷つけられてる人を見かけたら助けてあげて。」
「分かった…。」
「簡単にできる事じゃないよ。私だって怖いもん。でも、ライヤならできるよね?」
「…うん。」
「ライヤはいい子だよ。」

私の言葉に安心したのか、はたまた後悔が強くなったのか、ライヤは大きな一粒の涙を流した。

私は皆が寝静まったあと、食べ終わった晩御飯の食器をキッチンに持っていき、風呂に入った。
湯船の中に入っていれば落ち着くはずなのに、今日は全然落ち着かなかった。色々なことがありすぎた。初めて菌扱いをされて、初めて人に殴られた。初めて名前も知らない人と話し込んだ。そして、初めて泣きながら謝られた。少しずつ濃くなっていく心の霧は今日でよりいっそう濃くなった気がする。この霧はなんだろうか。最近、ずっとそのことについて考えている。辛いという訳でもなく、寂しいという訳でもなく、ただただ私の心の中を不透明にしていく。
風呂に上がって、リビングに戻るとリーヌがいた。リーヌは深刻そうな顔をしていた。私が話しかけると、少し驚いた表情を見せた。そして真剣な顔つきで私に話があると言った。

「ベリアちゃん、さっきはごめん。言うべきではなかった事を言っちゃった。」
「ううん。むしろ言ってくれて良かった。私もきつく当たってごめん。全部私のためなのに。」
「私は大丈夫。一番辛いのはベリアちゃんだもん。」

私たちの間に沈黙ができていった。しかし、それを破るようにリーヌが話をし始めた。

「それでね、今日の話と繋がるんだけど、明日からベリアちゃんは学校に行くでしょう?ほとんどの子は常識的に動いてくれるし、ベリアちゃんに何か仕掛けてくるなんてことはないと思うけど、それでもやっぱりよく思わない子達はいるにはいるの。しばらくの間は我慢してもらうことも多いかもしれない。でも心配しないで!きっと時間が経てばなくなると思うから…。ほんとは隠していこうって、私が周りの子達と一緒にベリアちゃんを守ろうって思ってたけど、ここまで言ったら言わなきゃって思って。」
「守ってくれてありがとう。もう十分守られてるよ。私も少しは自分で自分を守らなきゃ。ここに住めるようにさ。」
「ベリアちゃん…。」
「それよりも、リーヌやその周りの子達は何かされてない?」
「ないって言ったら嘘になるけど、全然大丈夫!」

そう言ってリーヌは私にいつもの明るくて柔らかい笑顔を見せた。私たちが寝付く頃には一時を回っていた。
明日はいよいよ学校に行く。怖いが、立ち向かわなければならない。頑張れば良い方向に向かうはずだ。きっと…。
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