15 / 60
シュタンツファー市
#15 本当のこと
しおりを挟む
私が男の子を探している間に、リーヌの母親とライヤが私の後ろに来ていた。
「ベリアちゃん!!頭を怪我してるの!?さっきライヤに聞いたのよ。ベリアちゃんが公園で頭から血を流して倒れてるって。一体何があったの?」
「それは……。」
私はライヤを見た。ライヤと一瞬目が合ったが、すぐにライヤは目を逸らした。決まりの悪い顔をしていた。きっと自分たちが何をしたのか分かっているのだろう。それは正義でも何でもない、してはいけないものだということを。私はそれが分かっただけで良かった。それに男の子と話しているだけで怒りは収まっていた。
「ちょっとふらついてこけたら、落ちていた石に頭をぶつけてしまって…。通りがかりの方に治療して頂きました。」
「そう…」
何故だか彼女はどこかほっとしたような顔をしていた。
「もう分かったでしょう。これからは一人にならないでね。まだ体が完全に回復しているわけではないんだから。それにしても治療って言ったって、こんなボロボロで汚い布で巻いてしまったら傷口に触るわ。善意は有難いけど…。すぐに綺麗な布で手当てしましょう。」
「…はい。」
リーヌの母親は家に帰ったあとガーゼと包帯で治療をしてくれた。男の子がくれた布きれは捨てられていた。
しばらくするとリーヌが帰ってきた。私はリーヌに聞きたいことがあると家の庭に連れ出した。
「ここにきてからママさんに一人で出ないようにって言われ続けてる。ママさんは私の体のことを心配してるけど、本当の理由ってそれじゃないでしょ?」
「それは…」
「教えて。どうして私は一人でいるといけないの?どうして私にはテレビも新聞も見せないの?」
「………ベリアちゃん含め取り残された要救助者の身寄りについてはだいぶ前から決まってたの。他の人達もベリアちゃんも身寄りもすぐに決まって、後は本人達が帰ってくるだけだった。ただその後、ハイヒブルックとフェルドオリギーの人達は訳が変わってきたの。」
「なんで?」
リーヌは口を開くのを躊躇っているようだった。しかし、下を向いて口を開いた。
「ハイヒブルックとフェルドオリギーは有毒な胞子が舞っていて、そこにいる人達は未知の病気にかかっているんじゃないかって。」
私はその時、小学生たちの言った言葉を思い出した。『バイ菌女』。そういうことだったのか。私が何も知らなかったのも、何も知らされなかったのも、全て私のためだったのだ。私のため…。
「根拠も何もないんだよ!…ただ、メディアで胞子の確認を報道したばかりに噂が噂を呼んで…。」
私が黙っていると、リーヌは話を続けた。
「お父さんもお母さんも近所の人達に話を聞いてもらってた。だけど全然聞いてくれなくて…。デモ隊の子達でさえ嫌がって…。」
「…分かった。」
「でもベリアちゃんは!」
「ごめん!もう何も聞きたくないの!」
「ごめん…。」
リーヌの声は震えていた。
私にバレずに、ずっと隠すつもりで引き受けたのだろうか。そんな大変なことを背負ってまでも私を迎えたのか。感謝をしなければいけない。いけないのに心の霧が邪魔をして広がっていく。
私はリーヌを置いて、部屋に戻った。晩御飯までは時間がある。ベットで今日あったことを思い出していた。男の子は私に、辛い記憶は忘れると言ったが、私の頭の中は小学生の言葉と石の痛みが繰り返し再生されていた。
明日、私はいよいよ学校に行く。どうやってこの街で生きていけばいいのだ。流れる涙を抑えるように、私は顔を枕に押し付けた。
「ベリアちゃん!!頭を怪我してるの!?さっきライヤに聞いたのよ。ベリアちゃんが公園で頭から血を流して倒れてるって。一体何があったの?」
「それは……。」
私はライヤを見た。ライヤと一瞬目が合ったが、すぐにライヤは目を逸らした。決まりの悪い顔をしていた。きっと自分たちが何をしたのか分かっているのだろう。それは正義でも何でもない、してはいけないものだということを。私はそれが分かっただけで良かった。それに男の子と話しているだけで怒りは収まっていた。
「ちょっとふらついてこけたら、落ちていた石に頭をぶつけてしまって…。通りがかりの方に治療して頂きました。」
「そう…」
何故だか彼女はどこかほっとしたような顔をしていた。
「もう分かったでしょう。これからは一人にならないでね。まだ体が完全に回復しているわけではないんだから。それにしても治療って言ったって、こんなボロボロで汚い布で巻いてしまったら傷口に触るわ。善意は有難いけど…。すぐに綺麗な布で手当てしましょう。」
「…はい。」
リーヌの母親は家に帰ったあとガーゼと包帯で治療をしてくれた。男の子がくれた布きれは捨てられていた。
しばらくするとリーヌが帰ってきた。私はリーヌに聞きたいことがあると家の庭に連れ出した。
「ここにきてからママさんに一人で出ないようにって言われ続けてる。ママさんは私の体のことを心配してるけど、本当の理由ってそれじゃないでしょ?」
「それは…」
「教えて。どうして私は一人でいるといけないの?どうして私にはテレビも新聞も見せないの?」
「………ベリアちゃん含め取り残された要救助者の身寄りについてはだいぶ前から決まってたの。他の人達もベリアちゃんも身寄りもすぐに決まって、後は本人達が帰ってくるだけだった。ただその後、ハイヒブルックとフェルドオリギーの人達は訳が変わってきたの。」
「なんで?」
リーヌは口を開くのを躊躇っているようだった。しかし、下を向いて口を開いた。
「ハイヒブルックとフェルドオリギーは有毒な胞子が舞っていて、そこにいる人達は未知の病気にかかっているんじゃないかって。」
私はその時、小学生たちの言った言葉を思い出した。『バイ菌女』。そういうことだったのか。私が何も知らなかったのも、何も知らされなかったのも、全て私のためだったのだ。私のため…。
「根拠も何もないんだよ!…ただ、メディアで胞子の確認を報道したばかりに噂が噂を呼んで…。」
私が黙っていると、リーヌは話を続けた。
「お父さんもお母さんも近所の人達に話を聞いてもらってた。だけど全然聞いてくれなくて…。デモ隊の子達でさえ嫌がって…。」
「…分かった。」
「でもベリアちゃんは!」
「ごめん!もう何も聞きたくないの!」
「ごめん…。」
リーヌの声は震えていた。
私にバレずに、ずっと隠すつもりで引き受けたのだろうか。そんな大変なことを背負ってまでも私を迎えたのか。感謝をしなければいけない。いけないのに心の霧が邪魔をして広がっていく。
私はリーヌを置いて、部屋に戻った。晩御飯までは時間がある。ベットで今日あったことを思い出していた。男の子は私に、辛い記憶は忘れると言ったが、私の頭の中は小学生の言葉と石の痛みが繰り返し再生されていた。
明日、私はいよいよ学校に行く。どうやってこの街で生きていけばいいのだ。流れる涙を抑えるように、私は顔を枕に押し付けた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる