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シュタンツファー市
#13 流血
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私はある日の昼過ぎ、約束を破ってリーヌの家から一人で外へ出た。一人になりたかった。どうしようもなく膨らんで広がっていく心の霧が分からなかった。苦しいわけでも、辛いわけでもなかったが、ただただ私の中が不透明になっていった。
私はしばらく歩いて行った。車の中で見たはずの景色なのに、視点が変わるだけで初めて来たように思えた。私は心の霧のことは忘れて、涼しい秋風を感じながら歩いていた。とても心地が良かった。ハイヒブルックにいた時、似たような風を感じながら街を眺めていたことを思い出した。どうしてだろうか。自決を考えたくらい辛いはずだったあの暮らしが、最近はいい思い出として蘇ってくる。私は久しぶりに穏やかな気持ちになった。
歩き続けていると、公園で小学生五人組が遊んでいるのを見かけた。中にライヤがいたので私は手を振った。しかし、ライヤは私から目を逸らし、その代わりに周りの小学生たちが騒ぎ始めた。
「おい!ライヤ!バイ菌女が手振ってるぜ~」
「…。」
私はその小学生の言った言葉が一瞬分からなかった。私が固まっている間に最年長らしき子が私の一メートル先くらいまで近寄ってきた。
「父ちゃんから聞いたぜ!お前、バイ菌だらけの街から来たんだろ!父ちゃんが変な病気持ってるかも知れないって言ってた!」
「え…。」
「バイ菌は正義のヒーローがやっつけなきゃいけないんだよ!だから俺はお前を倒す!」
そう言った小学生は私に石ころを投げてきた。咄嗟に庇った腕に小さな石ころが直撃した。痛かった。私はその場で倒れてしまった。脚に力が入らないのだ。人生で人にバイ菌扱いされたことも、石ころを投げられた事もなく、ショックでその場から動けなかった。ライヤは私の方を見ようとしない。私とリーヌが中学生の頃は、一緒に楽しそうに遊んでいたのに。
ライヤを見ていた隙に小学二、三年くらいの子が私の頭上で、両手が塞がるくらいの大きさがある石を振りかざしていた。私は怖さから、その場から逃げられなかった。石は私の視界を一瞬で埋め、私の頭を殴打した。激痛が走った。人生で一番の痛みだった。激痛に唸っていると、私の目の前のアスファルトに血が滴り落ちていた。生暖かく、生臭い血液が私の右半分の顔を染めていくのが分かった。
「おい、やりすぎだよ…」
「なんかやばくね?…」
小学生たちが戸惑っていたが、私にはどうでも良かった。ただ痛い。だが、それは頭の傷だけではない。胸が痛かった。震えていた。
「おい。何やってんだ。お前ら。」
「やべ!人が来た!逃げるぞ!」
小学生たちとは違う、低い男の子の声が聞こえた後、小学生たちはすぐさま逃げていった。
「立てるか?」
その言葉が聞こえた時、私の目の前に色白の掌が伸びていた。その腕をつたって上を見上げると、同い年くらいの色白の男の子が私を真っ直ぐに見つめていた。
私はしばらく歩いて行った。車の中で見たはずの景色なのに、視点が変わるだけで初めて来たように思えた。私は心の霧のことは忘れて、涼しい秋風を感じながら歩いていた。とても心地が良かった。ハイヒブルックにいた時、似たような風を感じながら街を眺めていたことを思い出した。どうしてだろうか。自決を考えたくらい辛いはずだったあの暮らしが、最近はいい思い出として蘇ってくる。私は久しぶりに穏やかな気持ちになった。
歩き続けていると、公園で小学生五人組が遊んでいるのを見かけた。中にライヤがいたので私は手を振った。しかし、ライヤは私から目を逸らし、その代わりに周りの小学生たちが騒ぎ始めた。
「おい!ライヤ!バイ菌女が手振ってるぜ~」
「…。」
私はその小学生の言った言葉が一瞬分からなかった。私が固まっている間に最年長らしき子が私の一メートル先くらいまで近寄ってきた。
「父ちゃんから聞いたぜ!お前、バイ菌だらけの街から来たんだろ!父ちゃんが変な病気持ってるかも知れないって言ってた!」
「え…。」
「バイ菌は正義のヒーローがやっつけなきゃいけないんだよ!だから俺はお前を倒す!」
そう言った小学生は私に石ころを投げてきた。咄嗟に庇った腕に小さな石ころが直撃した。痛かった。私はその場で倒れてしまった。脚に力が入らないのだ。人生で人にバイ菌扱いされたことも、石ころを投げられた事もなく、ショックでその場から動けなかった。ライヤは私の方を見ようとしない。私とリーヌが中学生の頃は、一緒に楽しそうに遊んでいたのに。
ライヤを見ていた隙に小学二、三年くらいの子が私の頭上で、両手が塞がるくらいの大きさがある石を振りかざしていた。私は怖さから、その場から逃げられなかった。石は私の視界を一瞬で埋め、私の頭を殴打した。激痛が走った。人生で一番の痛みだった。激痛に唸っていると、私の目の前のアスファルトに血が滴り落ちていた。生暖かく、生臭い血液が私の右半分の顔を染めていくのが分かった。
「おい、やりすぎだよ…」
「なんかやばくね?…」
小学生たちが戸惑っていたが、私にはどうでも良かった。ただ痛い。だが、それは頭の傷だけではない。胸が痛かった。震えていた。
「おい。何やってんだ。お前ら。」
「やべ!人が来た!逃げるぞ!」
小学生たちとは違う、低い男の子の声が聞こえた後、小学生たちはすぐさま逃げていった。
「立てるか?」
その言葉が聞こえた時、私の目の前に色白の掌が伸びていた。その腕をつたって上を見上げると、同い年くらいの色白の男の子が私を真っ直ぐに見つめていた。
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