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ハイヒブルック市
#6 前衛部隊
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「……………リア!……ベリア!!」
アリーの声がする。夢だろうか。暖かい。昔の家のベットで寝ていた時のようだ。風が吹いている。暖かい風だ。それでいて、蒸し暑くはない。風鈴の音がする。頭の中で響いている。
「ベリア!!起きて!」
突如とし、目を開けると目の前には険しい顔をしたアリーがいた。
アリーはすぐに出発の支度をして、とガスマスクを渡すと大部屋を出て、何処かへ行ってしまった。外が騒がしい。何か起きたのだろうか。時計をみるとまだ午前二時をまわったばかりであった。
一緒に寝ていた女性隊員もアリーを含め七人もいたのに誰一人としていない。
寝ぼけた頭を起こし、長い髪を結って大部屋を出た。目の前では隊員が何か急いで支度しているようだった。罵声のような大きい声も聞こえてくる。
何が起きているのか分かっていない私のところにアリーが来て、毛布と食料が入ったリュックサックを私に押し付けた。
「よく聞いて。今ディモンの卵が孵化しそうだという連絡が入ったの。観測した中で最大級のディモンだとも連絡されたわ。今第一部隊の一部の避難と第一・三部隊の出動の準備に取り掛かってる。私とベリアはすぐにシュタンツファーに向かう。」
「クックさんは?」
「…………訳あって第三部隊はファタング隊でも前衛部隊なの。私は貴方の避難を優先させなければいけないから行かないだけで、本来は第三部隊全員が出動しなければならないのよ。」
「……そう、なんですか。」
険しい顔をしていたアリーの表情が一瞬だけ悲しげに見えたが、アリーの長い前髪が邪魔をしてよく見えなくなった。
私たちと馭者は険しい道を少し歩き馬車に乗った。馬車には四頭の馬がいる。おそらく三十人は乗れるだろう。
乗ったすぐに馬車は基地の灯りを背に出発した。私はただただクックの無事を祈ることしかできなかった。
シュタンツファーまでは二日ほどかかるらしい。
出発してからアリーの顔が暗いままだ。
「あの、第三部隊が前衛部隊の理由ってなんなんですか?」
「はは、それ聞きたい?」
「はい。」
わかったと、アリーは外を見ていた顔を私の方に真っ直ぐに向け話し始めた。
「第三部隊アルティア隊長は少し変わったお方でね。訳ありな子供や大人しか隊に入れないの。そのせいか他の隊からは嫌煙されててね。能力の高い部隊だからとかなんとか言って前衛部隊にさせられてるけど、第三部隊は使い捨て扱いされてるのよ。」
「……訳ありって、孤児、とかですか?」
「そうね。そういう子もいっぱいいる。それに社会に馴染めなかったり、一度殻に閉じこもってしまった子とかね。」
「……アリーさんもなんですか?」
「うん、そうよ。私の場合は身分かな。私の下の名前、リーリックっていうのは昔ひっそりと奴隷扱いされていた地域なの。平等を謳った先進国にもそういう差別はまだ根を張っていたのね。
ファタング隊に入る時、有無も言わせず第三部隊に入隊させられたのよ。」
「……聞いたらまずかったですよね。」
「いいの!いいの!気にしてないし、不便もしてないから!」
そう言って微笑む彼女はとてもたくましく見えた。
アリーの声がする。夢だろうか。暖かい。昔の家のベットで寝ていた時のようだ。風が吹いている。暖かい風だ。それでいて、蒸し暑くはない。風鈴の音がする。頭の中で響いている。
「ベリア!!起きて!」
突如とし、目を開けると目の前には険しい顔をしたアリーがいた。
アリーはすぐに出発の支度をして、とガスマスクを渡すと大部屋を出て、何処かへ行ってしまった。外が騒がしい。何か起きたのだろうか。時計をみるとまだ午前二時をまわったばかりであった。
一緒に寝ていた女性隊員もアリーを含め七人もいたのに誰一人としていない。
寝ぼけた頭を起こし、長い髪を結って大部屋を出た。目の前では隊員が何か急いで支度しているようだった。罵声のような大きい声も聞こえてくる。
何が起きているのか分かっていない私のところにアリーが来て、毛布と食料が入ったリュックサックを私に押し付けた。
「よく聞いて。今ディモンの卵が孵化しそうだという連絡が入ったの。観測した中で最大級のディモンだとも連絡されたわ。今第一部隊の一部の避難と第一・三部隊の出動の準備に取り掛かってる。私とベリアはすぐにシュタンツファーに向かう。」
「クックさんは?」
「…………訳あって第三部隊はファタング隊でも前衛部隊なの。私は貴方の避難を優先させなければいけないから行かないだけで、本来は第三部隊全員が出動しなければならないのよ。」
「……そう、なんですか。」
険しい顔をしていたアリーの表情が一瞬だけ悲しげに見えたが、アリーの長い前髪が邪魔をしてよく見えなくなった。
私たちと馭者は険しい道を少し歩き馬車に乗った。馬車には四頭の馬がいる。おそらく三十人は乗れるだろう。
乗ったすぐに馬車は基地の灯りを背に出発した。私はただただクックの無事を祈ることしかできなかった。
シュタンツファーまでは二日ほどかかるらしい。
出発してからアリーの顔が暗いままだ。
「あの、第三部隊が前衛部隊の理由ってなんなんですか?」
「はは、それ聞きたい?」
「はい。」
わかったと、アリーは外を見ていた顔を私の方に真っ直ぐに向け話し始めた。
「第三部隊アルティア隊長は少し変わったお方でね。訳ありな子供や大人しか隊に入れないの。そのせいか他の隊からは嫌煙されててね。能力の高い部隊だからとかなんとか言って前衛部隊にさせられてるけど、第三部隊は使い捨て扱いされてるのよ。」
「……訳ありって、孤児、とかですか?」
「そうね。そういう子もいっぱいいる。それに社会に馴染めなかったり、一度殻に閉じこもってしまった子とかね。」
「……アリーさんもなんですか?」
「うん、そうよ。私の場合は身分かな。私の下の名前、リーリックっていうのは昔ひっそりと奴隷扱いされていた地域なの。平等を謳った先進国にもそういう差別はまだ根を張っていたのね。
ファタング隊に入る時、有無も言わせず第三部隊に入隊させられたのよ。」
「……聞いたらまずかったですよね。」
「いいの!いいの!気にしてないし、不便もしてないから!」
そう言って微笑む彼女はとてもたくましく見えた。
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