1 / 1
朝野佑馬は推理バカである①
しおりを挟む『この一連の連続殺人の犯人は……あなたです!』
ブラウン管に映るスーツを華麗に着こなした男性が、ビシッ! と複数人の中から一人を指さした。
指をさされた男性は、最初こそは馬鹿馬鹿しいとすっとぼけていたが、彼の用意したアリバイを一つ一つ丁寧に崩していく内にみるみる顔が赤くなり、歯をむき出しながら探偵に怒声を浴びせる。威圧によってその場を支配しようとしていた。
しかし探偵は終始落ち着いた様子で事件の全貌を語る。犯人以外の周囲の人間は、探偵の一言一句を聞き逃さないように固唾を飲んで聞き入っていた。
ついに我慢の限界に来た犯人は鬼の形相で叫ぶ。
『偉そうに語ってるけどさぁ! 結局それは全部予想じゃねぇか! 証拠はあんのか証拠はよぉ!』
その言葉を聞いた探偵は待ってましたと言わんばかりに――にやりと口角を上げた。
『ありますよ。証拠ならね』
『なっ……』
動揺した犯人の隙にまるで畳みかけるように探偵はとっておきの証拠を叩きつける。激怒していた犯人は急速に顔を真っ青にして――静寂。
がっくりと犯人は項垂れる。――決着の瞬間だった。
「か、かかかっけぇ……!!」
僕は初めて視聴した推理ドラマの面白さに震えるほど感動していた。グラスに注がれたコーラは炭酸が抜けてぬるくなっていた。
ぶっちゃけ話の内容の半分も理解できていなかったけど、クールに犯人を追い詰める姿がとてつもなく新鮮で、僕にとって戦隊モノよりもかっこよく見えた。
少年時代の僕は、その日を境に推理というものに夢中になった。推理をドラマや推理小説を凄まじい勢いで消費し、小学生の将来の夢には筆圧強めに『名探偵』と書いた。友達には笑われた。ギャグと思われたらしい。
推理に対する情熱は、成人しても消えるどころかさらに強く腹の内で燃え滾っていた。僕はなんの躊躇もなく警察学校を入学し、卒業。厳しい日々だったが、持ち前の明るい性格とハキハキとした語り口が印象を良くするのに一役買っていた。推理がしたいから刑事になりたいだけなんて言ったら教官にブチ切れそうだから秘密にしておいた。
ちなみに探偵にならなかったのは、現実の探偵は殺人事件などの大きい案件に関与できないと知ったからだ。
そんな訳で、僕――朝野佑馬はついに警察官として警察署に配属され、交番勤務が始まったのであった。ここで経験を積み、捜査官として活躍し上司から推薦をもらえば、夢の刑事になることができる!
人生のモチベーションは高く、おまわりさんとしての自分に誇りをもって日々を過ごすこと――数年
。
推薦される気配は一向になく、胸が躍るような謎多き事件にも巡り合うこともなく、大手柄を得る機会を窺う日々であったが、
唐突に、まるで推理ドラマのような謎多き殺人事件に彼は関わるのであった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

姉妹 浜辺の少女
戸笠耕一
ミステリー
警視庁きっての刑事だった新井傑はとある事件をきっかけに退職した。助手の小林と共に、探偵家業を始める。伊豆に休暇中に麦わら帽子を被った少女に出会う。彼女を襲うボーガンの矢。目に見えない犯人から彼女を守れるのか、、新井傑の空白の十年が今解き放たれる。

九竜家の秘密
しまおか
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞・奨励賞受賞作品】資産家の九竜久宗六十歳が何者かに滅多刺しで殺された。現場はある会社の旧事務所。入室する為に必要なカードキーを持つ三人が容疑者として浮上。その内アリバイが曖昧な女性も三郷を、障害者で特殊能力を持つ強面な県警刑事課の松ヶ根とチャラキャラを演じる所轄刑事の吉良が事情聴取を行う。三郷は五十一歳だがアラサーに見紛う異形の主。さらに訳ありの才女で言葉巧みに何かを隠す彼女に吉良達は翻弄される。密室とも呼ぶべき場所で殺されたこと等から捜査は難航。多額の遺産を相続する人物達やカードキーを持つ人物による共犯が疑われる。やがて次期社長に就任した五十八歳の敏子夫人が海外から戻らないまま、久宗の葬儀が行われた。そうして徐々に九竜家における秘密が明らかになり、松ヶ根達は真実に辿り着く。だがその結末は意外なものだった。
若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~
七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。
彼女は香住真理。
東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。
その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。
その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。
「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」
同時期に持ち込まれた二件の品物。
その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる