溺愛Domの優しいコマンド

水ノ瀬 あおい

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新学期

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「あー、ダメだ」
「何がですか?」

 朝、出勤中の助手席でバッと両手を顔に当てて隠すと、しばらくして車が停まった。
 信号待ちらしく片手は伸びてくるが前を気にしているのがわかる。

「堕落してない?」

 チラッと指の隙間から先生を見ると、先生はニヤリと笑った。

「エッチをし過ぎだと?」
「そ、それだけじゃなくてっ!!」

 バタバタと慌てると先生はくすくすと笑いながらまた車を走らせる。

「仕事を早く終わらせて帰って、恋人とゆっくり身も心も満たすことは堕落とは言いません」

 前を見て運転しながら左手を伸ばしてきてしっかり握ってくるのはズルい。
 さすがに門が見えたところで手を離すと先生はまた笑って車を停めた。
 降りて二人で職員玄関に向かうと、ちょうど一台の車が入ってくる。
 降りてきたのは悠太で、俺もまた担任として悠太のお母さんと少しだけ話をした。

「まだ早いし、保健室を開けるのでそこで待ちますか?」

 悠太のお母さんが運転していくのを見送って先生が悠太に声を掛けると、悠太は答えもせず口を少し突き出す。
 不貞腐れているような不満げなそれは一体?

「……周防先生……ズルい」
「俺っ!?」

 まさかの言葉に驚くと、悠太はこっちを見上げて更に口を尖らせた。

「や……何でかわかんないけど?」
「僕だって深谷先生のパートナーになりたかっ……」
「ちょっ!!」

 他の先生方も出勤してきて児童たちももうすぐ登校してくる時間。
 職員玄関でそんな大きな声で言われて、俺は慌ててその口を手で塞いだ。
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