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嫌なのに

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「落ち着きましたか?」

 うがいをして戻ってくると、深谷先生は優しい笑みを向けてきた。

「あ、はい。ご迷惑をおかけして……すいません」

 頭を下げると、キュッと両手を握られる。
 その意味がわからず反応に困っているのに、深谷先生はにこにこと笑っていた。

「少しお話しませんか?」
「はい?」
「紅茶ならお出しできるので」

 言いながらカチャカチャともう準備を始められたら断るなんて悪い気がする。
 そういえば話があったようだし、時計を見ても打ち合わせまで時間はあった。
 しばらくすると、香ってくる紅茶の香ばしくて少し甘い香り。
 ふわりと湯気をあげて俺の目の前に澄んだ琥珀色の温かい紅茶が用意された。

「お砂糖とかミルクは要りますか?」
「いえ……大丈夫です」

 遠慮すると、スッと藤で編んだカゴが出てくる。
 その中にはチョコレートやクッキーなど簡単につまめるお菓子が入っていた。

「何から何まで、すいません」

 十分過ぎる持て成しに恐縮してしまう。

「いえ、少し顔色も戻ってホッとしてますよ。ただ……」

 不意に頬に触れられて深谷先生の顔が近づいてきてビクッと身体を硬直させた。
 俺の目の前で茶色い瞳がじっとこっちを見てくる。

「あまり寝てないんじゃないですか?」
「え?」
「そのクマ……どんどんヒドくなってますよね?肌もだいぶ荒れてますし」

 そんなこと自分が一番わかっていて悩んでいるのに……思いつつ、やけに心臓がうるさくて落ち着かなかった。
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