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戴冠式

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 ……キスされるかと思った。
 馬車から降りた俺はその場にへたり込みそうになるのを堪えて何とか歩く。

「あれくらいで姿勢も崩れて……足腰鍛えなおせよ」

 父さんはそんな俺を置いて颯爽と歩いて行った。
 というか、手繋いだの見たよな!?反応それだけか!?
 むしろ、同じ馬車に居て会話だって聞こえたかもなのに!?
 父さんの反応も読めなくて余計に疲れた。
 まだこれからやっと戴冠式が始まるが……帰りたい。
 あんな散々好き放題言われて、窮屈な姿勢のまま堪えて、またリューラにも勝手に好き放題されて……。
 何が隣で同じ景色を……だ!!
 それはどこぞの姫に言え!!
 怒鳴ってやれたらどれだけ気も楽になったか。
 無駄に疲れてしまって、俺はどんどん周りから歩みが遅れていく。
 王とか……わかっていたのに……あいつがどんどん遠くなる気がした。
 ふと花の香りを感じて足を止める。
 この先の庭園でよくバラを眺めながら遊んだのに……そんなリューラはもう……。

「サライド様!間もなく戴冠式です!お急ぎ下さい!」

 呼ばれてハッとする。
 急いで列に戻されて、父さんに呆れたような顔をされながら背筋を伸ばした。
 さすがに戴冠式には王族と招待客を始めとする位のある連中ばかりで市民は入れない。
 緊張感漂う空間はさっきまでのパレードとは正反対の雰囲気だった。
 音楽が演奏され始めて重い扉が開く。
 登場したリューラも重苦しいマントを着け、さっきとは別人のようなキリッとした顔で一歩ずつ進んで行った。
 
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