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エピローグ 紫水晶とダイヤモンド
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大陸に数多くある国の中でも屈指の大国、アルクレイド王国。
遥か昔、ある一人の男が大地の精霊と結ばれて興したその王国は精霊の力により水と緑が枯れることなく、戦の炎を被ることもなく発展を続けてきた。
歴代の国王たちの中でもとりわけ王国の発展に貢献した稀代の名君として語り継がれるのは、ヴィオルという名の王だ。
不正を許さず弱き者には手を差し伸べ、人を身分や人種によって不当に扱うことはしなかった。精霊の加護の上に胡坐をかくこともなく自ら先頭に立って国を導く姿は、多くの民の支持を集めた。紫色の髪と瞳を持つ大変美しい容姿をしていたため、民は彼のことを親しみを込め「紫水晶の君」と呼んだ。
彼には多くの逸話があるが、その中でも全国民が知っていたといっても過言ではない話がある。「紫水晶の君は大変な愛妻家だった」というものだ。
名だたる姫君や令嬢との縁談を断り続けてきたヴィオル王がある日見初めたのはエリーズという名前の、貴族ではあったものの社交界では全く知られていない娘だった。一夜にして王の寵愛を一身に受ける立場になった彼女は決して驕り高ぶることはなく、王妃の身でありながら時には自ら台所に立って使用人たちを労うために料理を作り、病人たちの元を訪れて励まし、親を亡くした子供たちが新たな幸せを見つけられるよう懸命に活動した。
また彼女自身も夫のことを大変愛し献身的に支えた妻であり、彼との間にもうけた六人の子を立派に育て上げた母親でもあった。
エリーズ王妃の人気は国王にも並ぶ程で、銀色の髪をしていたことと清らかな心身の美しさからダイヤモンドに喩えられた。絵画を趣味にしていたヴィオル王は妻を題材にした作品を数多く残している。
また、彼らの第一子である王子の誕生と共に流通が開始された新アルクレイド銀貨にはエリーズ王妃の顔が彫られており、ヴィオル王はその銀貨を大陸中に行きわたらせるためより一層王国の発展に尽力した。
国王夫妻の仲睦まじさにあやかろうと、いつしか上流階級の間では結婚する男女が互いに紫水晶とダイヤモンドを用いた装飾品を送り合うことが流行った。それはやがて庶民の間にも広まり、宝石の代わりに紫色のものと銀や白のものを夫婦で交換する風習が今や国中に根付いている。
紫水晶とダイヤモンド、二人の治世は末長く続くと思われたが、第一王子が二十五歳を迎えた時、王冠を彼に渡してヴィオル王は退位を宣言した。
名君の早すぎる隠居を惜しむ声も多くあったが、彼は意志を覆さず妻エリーズと共に彼女の生家に移り住む。二人はそこで子供たちの相談役になり孫たちの遊び相手になりながら、片時も離れることなく――最期まで穏やかで幸せな時を過ごしたという。
遥か昔、ある一人の男が大地の精霊と結ばれて興したその王国は精霊の力により水と緑が枯れることなく、戦の炎を被ることもなく発展を続けてきた。
歴代の国王たちの中でもとりわけ王国の発展に貢献した稀代の名君として語り継がれるのは、ヴィオルという名の王だ。
不正を許さず弱き者には手を差し伸べ、人を身分や人種によって不当に扱うことはしなかった。精霊の加護の上に胡坐をかくこともなく自ら先頭に立って国を導く姿は、多くの民の支持を集めた。紫色の髪と瞳を持つ大変美しい容姿をしていたため、民は彼のことを親しみを込め「紫水晶の君」と呼んだ。
彼には多くの逸話があるが、その中でも全国民が知っていたといっても過言ではない話がある。「紫水晶の君は大変な愛妻家だった」というものだ。
名だたる姫君や令嬢との縁談を断り続けてきたヴィオル王がある日見初めたのはエリーズという名前の、貴族ではあったものの社交界では全く知られていない娘だった。一夜にして王の寵愛を一身に受ける立場になった彼女は決して驕り高ぶることはなく、王妃の身でありながら時には自ら台所に立って使用人たちを労うために料理を作り、病人たちの元を訪れて励まし、親を亡くした子供たちが新たな幸せを見つけられるよう懸命に活動した。
また彼女自身も夫のことを大変愛し献身的に支えた妻であり、彼との間にもうけた六人の子を立派に育て上げた母親でもあった。
エリーズ王妃の人気は国王にも並ぶ程で、銀色の髪をしていたことと清らかな心身の美しさからダイヤモンドに喩えられた。絵画を趣味にしていたヴィオル王は妻を題材にした作品を数多く残している。
また、彼らの第一子である王子の誕生と共に流通が開始された新アルクレイド銀貨にはエリーズ王妃の顔が彫られており、ヴィオル王はその銀貨を大陸中に行きわたらせるためより一層王国の発展に尽力した。
国王夫妻の仲睦まじさにあやかろうと、いつしか上流階級の間では結婚する男女が互いに紫水晶とダイヤモンドを用いた装飾品を送り合うことが流行った。それはやがて庶民の間にも広まり、宝石の代わりに紫色のものと銀や白のものを夫婦で交換する風習が今や国中に根付いている。
紫水晶とダイヤモンド、二人の治世は末長く続くと思われたが、第一王子が二十五歳を迎えた時、王冠を彼に渡してヴィオル王は退位を宣言した。
名君の早すぎる隠居を惜しむ声も多くあったが、彼は意志を覆さず妻エリーズと共に彼女の生家に移り住む。二人はそこで子供たちの相談役になり孫たちの遊び相手になりながら、片時も離れることなく――最期まで穏やかで幸せな時を過ごしたという。
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