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三十八話 あなたと共に
しおりを挟む 野良犬って逞しいんだな。
オレは日々、会う人に何か食いもんを貰って、公園の水溜りで水を飲んで、歩いていた。店長ももう、探すのを諦めたんだろう。
草むらで丸くなって寝ていたら、今日はそれまでより寒いことに気づいた。
耳に地域猫の証であるカットを入れられた猫が、一瞬オレを見て足を止めたが、ツンとそっぽを向いてまだどこかへ行った。
地域猫は餌を貰っていいという権限があるんだ。でもオレは野良犬だから、そんなものはない。
ただのイヌ好きな人のおかげで、生きている。通報されたら保健所行きだ。
その時、オレの鼻に冷たいものが落ちた。
グッと目を寄せてみたけれど、もうなかった。
太陽が少し近づいてきて、紫色みたいな色をした空から、雪が降っている。
──雪か。
もうオレが店を飛び出してからどのくらい経ったんだろう。
最初は枯葉を踏む遊びすら楽しかったけれどすぐに飽きて、子供と遊んでいたら小さい子供がオレのことを怖いと泣き出して、オレは追い払われてしまった。何もしてねぇじゃんか。
途中、雨も降って身体が濡れ、アスファルトに溜まった雨を車や子供の長靴が飛ばしてきた泥水を食らい、綺麗な白だったオレの自慢の身体はねずみ色になっていた。これでも結構イケメンだったんだぞ。
店には自由がなかったけれど、えっちゃんの温もりが懐かしい。みんなとのお喋りが懐かしい。
夕方、オレはとぼとぼと歩道を歩いていた。
何か、あったかいものを食いてぇなぁ。
『い~しや~き~いも~♪』
石焼き芋をバカ高い値段で売るらしい車が近くを通り、これまたいい匂いを残してゆっくり走っている。
──タッタッタッタッ……!
「すいませーん! 一つ下さいっ……!」
息を切らして遠くから走ってきた女の子が、財布を片手に肩を上下に揺らしていた。
「あいよ! おねぇちゃん可愛いからサービスだ。はい、800円!」
「千円で」
「あい、200万円のお釣りぃ! ちょっと待ってね」
何だその寒すぎるギャグは! この寒い夜に全然笑えねぇよ! しかも高っ!
「ス~あ~美味しそう! ありがとうございます!」
「ありがとね~!」
オレは焼き芋売りのおじさんのギャグがあまりにも寒くて、凍えそうになりながらゆっくり歩道の端っこを尻尾を下げて歩いていた。
──腹減ったなぁ……。
「こら! シロー!」
下を向いて歩いていたオレの前に現れたのは、今さっきバカ高い焼き芋を買っていた女の子……じゃなくて、えっちゃん!
「もうー、こんなに汚くなって! せっかく綺麗な白柴なのに、まるでねずみ男じゃん!」
えっちゃんは焼き芋を持っていない方の手で、オレの身体を撫でた。
──やめろよ、えっちゃんの手が汚れちゃうって……!
そしてえっちゃんは小さいバッグからリードに繋がった首輪を取り出して、オレにつけた。
「動かないでね! もう、みんな心配したんだよー!?」
えっちゃんの温もりに、思わず顔がにやけちまう。えっちゃんはいつオレを見つけてもいいように、いつもバッグに首輪とリードを忍ばせていたんだ。
「そこの公園行こっか」
えっちゃんは、いつも店で駐車場を散歩するように、オレを連れて近くの公園に入った。
「あ、ベンチ濡れてるー」
そういってバッグからまた何か取り出したかと思えば、ビニール袋だった。多分、オレのうんこを持ち帰る用……。
そのビニール袋をベンチに敷いて、えっちゃんが座った。
「シローも座って」
オレはおとなしくえっちゃんの前にお座りする。
「え? シローお座りできるの!?」
──教わったわけじゃねぇよ。腹が減ってるからだよ。
「偉いー! じゃあこれ、半分あげる」
えっちゃんはさっき買ったバカ高い焼き芋を半分に折って、それをまた一口サイズにちぎってオレにくれた。腹が減っている時の焼き芋はどんな飯より美味い!
「あれからみんながどれだけ心配してたかわかるー!?」
それからオレは、長い間えっちゃんからの説教を食らった。
半分こした焼き芋を食べ終えたえっちゃんは、
「じゃあ戻るよ、店」
と言って立ち上がる。
オレがちょっと気まずそうにしていると、
「店でシャンプーしないとダメだってこれは!」
とリードをグイッと引っ張った。
──うかっ!
首が絞まってオレは観念し、えっちゃんについていく。
空の明るさからいって、まだ店は開いているみたいだ。月がまだ低いからな。
「はい、乗って」
えっちゃんがオレを突っ込んだのは車だった。これはえっちゃんの車? ここはえっちゃんの家?
「今から店に行くからね」
えっちゃんは車のエンジンをかけて、店に向かって走らせた。
オレは日々、会う人に何か食いもんを貰って、公園の水溜りで水を飲んで、歩いていた。店長ももう、探すのを諦めたんだろう。
草むらで丸くなって寝ていたら、今日はそれまでより寒いことに気づいた。
耳に地域猫の証であるカットを入れられた猫が、一瞬オレを見て足を止めたが、ツンとそっぽを向いてまだどこかへ行った。
地域猫は餌を貰っていいという権限があるんだ。でもオレは野良犬だから、そんなものはない。
ただのイヌ好きな人のおかげで、生きている。通報されたら保健所行きだ。
その時、オレの鼻に冷たいものが落ちた。
グッと目を寄せてみたけれど、もうなかった。
太陽が少し近づいてきて、紫色みたいな色をした空から、雪が降っている。
──雪か。
もうオレが店を飛び出してからどのくらい経ったんだろう。
最初は枯葉を踏む遊びすら楽しかったけれどすぐに飽きて、子供と遊んでいたら小さい子供がオレのことを怖いと泣き出して、オレは追い払われてしまった。何もしてねぇじゃんか。
途中、雨も降って身体が濡れ、アスファルトに溜まった雨を車や子供の長靴が飛ばしてきた泥水を食らい、綺麗な白だったオレの自慢の身体はねずみ色になっていた。これでも結構イケメンだったんだぞ。
店には自由がなかったけれど、えっちゃんの温もりが懐かしい。みんなとのお喋りが懐かしい。
夕方、オレはとぼとぼと歩道を歩いていた。
何か、あったかいものを食いてぇなぁ。
『い~しや~き~いも~♪』
石焼き芋をバカ高い値段で売るらしい車が近くを通り、これまたいい匂いを残してゆっくり走っている。
──タッタッタッタッ……!
「すいませーん! 一つ下さいっ……!」
息を切らして遠くから走ってきた女の子が、財布を片手に肩を上下に揺らしていた。
「あいよ! おねぇちゃん可愛いからサービスだ。はい、800円!」
「千円で」
「あい、200万円のお釣りぃ! ちょっと待ってね」
何だその寒すぎるギャグは! この寒い夜に全然笑えねぇよ! しかも高っ!
「ス~あ~美味しそう! ありがとうございます!」
「ありがとね~!」
オレは焼き芋売りのおじさんのギャグがあまりにも寒くて、凍えそうになりながらゆっくり歩道の端っこを尻尾を下げて歩いていた。
──腹減ったなぁ……。
「こら! シロー!」
下を向いて歩いていたオレの前に現れたのは、今さっきバカ高い焼き芋を買っていた女の子……じゃなくて、えっちゃん!
「もうー、こんなに汚くなって! せっかく綺麗な白柴なのに、まるでねずみ男じゃん!」
えっちゃんは焼き芋を持っていない方の手で、オレの身体を撫でた。
──やめろよ、えっちゃんの手が汚れちゃうって……!
そしてえっちゃんは小さいバッグからリードに繋がった首輪を取り出して、オレにつけた。
「動かないでね! もう、みんな心配したんだよー!?」
えっちゃんの温もりに、思わず顔がにやけちまう。えっちゃんはいつオレを見つけてもいいように、いつもバッグに首輪とリードを忍ばせていたんだ。
「そこの公園行こっか」
えっちゃんは、いつも店で駐車場を散歩するように、オレを連れて近くの公園に入った。
「あ、ベンチ濡れてるー」
そういってバッグからまた何か取り出したかと思えば、ビニール袋だった。多分、オレのうんこを持ち帰る用……。
そのビニール袋をベンチに敷いて、えっちゃんが座った。
「シローも座って」
オレはおとなしくえっちゃんの前にお座りする。
「え? シローお座りできるの!?」
──教わったわけじゃねぇよ。腹が減ってるからだよ。
「偉いー! じゃあこれ、半分あげる」
えっちゃんはさっき買ったバカ高い焼き芋を半分に折って、それをまた一口サイズにちぎってオレにくれた。腹が減っている時の焼き芋はどんな飯より美味い!
「あれからみんながどれだけ心配してたかわかるー!?」
それからオレは、長い間えっちゃんからの説教を食らった。
半分こした焼き芋を食べ終えたえっちゃんは、
「じゃあ戻るよ、店」
と言って立ち上がる。
オレがちょっと気まずそうにしていると、
「店でシャンプーしないとダメだってこれは!」
とリードをグイッと引っ張った。
──うかっ!
首が絞まってオレは観念し、えっちゃんについていく。
空の明るさからいって、まだ店は開いているみたいだ。月がまだ低いからな。
「はい、乗って」
えっちゃんがオレを突っ込んだのは車だった。これはえっちゃんの車? ここはえっちゃんの家?
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