上 下
22 / 22

おまけ 夢の続きをあなたと

しおりを挟む
 わたしとディオンが結婚して、六年ほど経った。
 今も変わらずわたしは大魔術師、そしてディオンはわたしの従士を務めてくれている。幸い王国が大きな脅威に晒されることはなく、それなりに忙しくはあるけれど穏やかな日々を送っている。
 とはいうものの、もちろん大きな変化もあった。それは――家族が増えたこと。
 六年の間に、二人の子供を授かった。五歳のルナリアは何にでも興味を持つ元気いっぱいの女の子。三歳になったばかりのアイザはお姉ちゃんの後ろをいつもついて回る少し甘えん坊の男の子。二人とも、ディオン譲りの金髪だ。
 わたしは取り立てて子供好きではなかったけれど、やっぱり自分の子供は格別に思う。たまには姉弟喧嘩をしたり、ランドルフのことを大声でおじさんと呼んでわたしをハラハラさせたりするけれど、この子たちの笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶ。執務部屋にこもっている時、外で遊ぶ声が聞こえるとやる気が湧いてくる。
 もちろん、ディオンも子供たちのことをすごく可愛がっている。ルナリアの時もアイザの時も、まだ外目では妊娠していると分からない時期から毎日わたしのお腹を撫でて話しかけ、生まれてからはわたしにしかできないこと以外、すべてのお世話を引き受けるくらいの勢いで頑張ってくれた。
 大魔術師と従士、夫婦、そしてお母さんとお父さん。三つを同時にこなす生活は大変だけれど、とても楽しい。そう思えるのはディオンのお陰だ。苦しいと思ったことはきっと一度や二度ではないはずなのに、少しもそんな様子を見せず、わたしにも子供たちにもたくさんの愛を注いでくれる。
 ディオンに抱き上げてもらって嬉しそうに笑うルナリアとアイザを見ると、泣きそうなほど幸せな気持ちになる。
 そろそろ、あの話をしても良い頃かしら――

***

 ディオンと二人で子供たちを寝かしつけ、しばらくその寝顔を眺めた後、わたしたちは揃って夫婦の寝室へ向かった。
 上半身は起こしたまま上掛けを腰まで引き上げて、彼に呼びかけた。

「ディオン」
「どうした?」

 隣でわたしと同じ体勢になった彼がこちらを向く。

「あのね……わたし、魔物と戦って長く眠り続けた時があったでしょう? その時にね、とても素敵な夢を見たの」
「ああ……結婚した日に話してくれようとしたが、俺がそれを止めたのを覚えている」

 まさか覚えてくれているとは思わなかった。

「そう。その夢が本当になった時に内容を聞かせるってことになっていたでしょう? ディオンの言った通りだったわ。今まで誰にも話さなかったから、現実になったの」

 彼の瞳が続きを促す。

「不思議なんだけれどね……その夢にルナリアとアイザが出てきたの。あなたがあの子たちを抱っこして、とっても楽しそうに笑ってて、わたしがその様子をずっと見ている夢だった」

 結婚する前に見た夢なのに、そこに出てきた子供たちの姿は、ルナリアとアイザと全く同じだった。いくら大魔術師といえど、予知能力があるわけではない。生まれる前の子供の夢を見るなんて、偶然とは言い難い。
 どんなに偉大な魔術師だったとしても触れることができない、見えない大きな力がこの世にはあるのかもしれない。

「ディオン、わたしと結婚してくれて、あの子たちのお父さんになってくれてありがとう」
「……礼を言わなければいけないのは俺の方だ」

 目を細め、ディオンが言った。

「あなたと出会い結ばれていなければ、俺は一生を闇の中で生きていた。ありがとう、セシーリャ。俺は世界で一番幸福な男だ」

 どちらからともなく、キスを交わす。触れ合わせるだけのつもりだったそれはどんどん深くなり、いつの間にかわたしの体はディオンにしっかり抱きしめられていた。
 唇が離れたかと思うと、体を仰向けに倒された。すぐに天井がディオンの体で見えなくなる。

「もちろん、今の生活には満足しているが……」

 彼の筋張った長い指が、わたしの耳のふちを、首筋をそっとなぞる。

「もっと賑やかな方が楽しいように思う」

 何を求められているかに気づき、わたしはふふ、と笑った。

「欲しがりさんね」
「……もう、十分か?」

 結婚する前からディオンは素敵な人だったけれど、ここのところ眼差しや仕草から一層、色気がにじみ出ている。それに当てられると年甲斐もなくクラクラして……彼のために何でもしてあげたくなってしまう。
 赤ちゃんがもう一人来るわよ、って言ったら、ルナリアとアイザは喜んでくれるかしら。

「楽しいことって、いくらあっても足りないものね」

 両手を伸ばし、わたしを見つめるディオンの頬を包む。

「……夢の続き、一緒に見ましょう?」

 甘やかな彼の微笑みが、今夜もわたしに魔法をかける。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

続・恋の魔法にかかったら~女神と従士の幸せ蜜月~

花乃 なたね
恋愛
王国の中でも優れた力を持つ大魔術師であり、「氷晶の女神」という二つ名を持つセシーリャは、務めを手伝う従士であり夫でもあるディオンと共に公私ともに充実した日々を送っていた。 これまでの功績が認められ、国王から貴族たちが多く集う保養地「カーネリアス公国」への新婚旅行をプレゼントされた彼女は、ディオンと一緒に意気揚々とその地へ向かう。 日常を忘れてラブラブ全開に過ごす二人だったが、とある出来事をきっかけに夫婦仲を引き裂こうとする人物が現れて… 見た目はクール系美女だけど旦那さまにはデレデレな女魔術師と、彼女のことが大好きすぎて頭のネジが外れかけのスパダリ紳士の新婚旅行のお話 ※1 出会いから結婚までのお話は前作「恋の魔法にかかったら~不器用女神と一途な従士~」にて語られております。(作者の登録コンテンツから読むことができます) 前作を読んでいないと何のこっちゃ分からん、とはならないように気を付けましたが、よろしければ前作もお読み頂ければと思います。 ※2 〇.5話となっているものはセシーリャ以外の人物の視点で進むエピソードです。 ※3 直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が時々出てきますためご注意ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

処理中です...