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おまけ 夢の続きをあなたと
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わたしとディオンが結婚して、六年ほど経った。
今も変わらずわたしは大魔術師、そしてディオンはわたしの従士を務めてくれている。幸い王国が大きな脅威に晒されることはなく、それなりに忙しくはあるけれど穏やかな日々を送っている。
とはいうものの、もちろん大きな変化もあった。それは――家族が増えたこと。
六年の間に、二人の子供を授かった。五歳のルナリアは何にでも興味を持つ元気いっぱいの女の子。三歳になったばかりのアイザはお姉ちゃんの後ろをいつもついて回る少し甘えん坊の男の子。二人とも、ディオン譲りの金髪だ。
わたしは取り立てて子供好きではなかったけれど、やっぱり自分の子供は格別に思う。たまには姉弟喧嘩をしたり、ランドルフのことを大声でおじさんと呼んでわたしをハラハラさせたりするけれど、この子たちの笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶ。執務部屋にこもっている時、外で遊ぶ声が聞こえるとやる気が湧いてくる。
もちろん、ディオンも子供たちのことをすごく可愛がっている。ルナリアの時もアイザの時も、まだ外目では妊娠していると分からない時期から毎日わたしのお腹を撫でて話しかけ、生まれてからはわたしにしかできないこと以外、すべてのお世話を引き受けるくらいの勢いで頑張ってくれた。
大魔術師と従士、夫婦、そしてお母さんとお父さん。三つを同時にこなす生活は大変だけれど、とても楽しい。そう思えるのはディオンのお陰だ。苦しいと思ったことはきっと一度や二度ではないはずなのに、少しもそんな様子を見せず、わたしにも子供たちにもたくさんの愛を注いでくれる。
ディオンに抱き上げてもらって嬉しそうに笑うルナリアとアイザを見ると、泣きそうなほど幸せな気持ちになる。
そろそろ、あの話をしても良い頃かしら――
***
ディオンと二人で子供たちを寝かしつけ、しばらくその寝顔を眺めた後、わたしたちは揃って夫婦の寝室へ向かった。
上半身は起こしたまま上掛けを腰まで引き上げて、彼に呼びかけた。
「ディオン」
「どうした?」
隣でわたしと同じ体勢になった彼がこちらを向く。
「あのね……わたし、魔物と戦って長く眠り続けた時があったでしょう? その時にね、とても素敵な夢を見たの」
「ああ……結婚した日に話してくれようとしたが、俺がそれを止めたのを覚えている」
まさか覚えてくれているとは思わなかった。
「そう。その夢が本当になった時に内容を聞かせるってことになっていたでしょう? ディオンの言った通りだったわ。今まで誰にも話さなかったから、現実になったの」
彼の瞳が続きを促す。
「不思議なんだけれどね……その夢にルナリアとアイザが出てきたの。あなたがあの子たちを抱っこして、とっても楽しそうに笑ってて、わたしがその様子をずっと見ている夢だった」
結婚する前に見た夢なのに、そこに出てきた子供たちの姿は、ルナリアとアイザと全く同じだった。いくら大魔術師といえど、予知能力があるわけではない。生まれる前の子供の夢を見るなんて、偶然とは言い難い。
どんなに偉大な魔術師だったとしても触れることができない、見えない大きな力がこの世にはあるのかもしれない。
「ディオン、わたしと結婚してくれて、あの子たちのお父さんになってくれてありがとう」
「……礼を言わなければいけないのは俺の方だ」
目を細め、ディオンが言った。
「あなたと出会い結ばれていなければ、俺は一生を闇の中で生きていた。ありがとう、セシーリャ。俺は世界で一番幸福な男だ」
どちらからともなく、キスを交わす。触れ合わせるだけのつもりだったそれはどんどん深くなり、いつの間にかわたしの体はディオンにしっかり抱きしめられていた。
唇が離れたかと思うと、体を仰向けに倒された。すぐに天井がディオンの体で見えなくなる。
「もちろん、今の生活には満足しているが……」
彼の筋張った長い指が、わたしの耳のふちを、首筋をそっとなぞる。
「もっと賑やかな方が楽しいように思う」
何を求められているかに気づき、わたしはふふ、と笑った。
「欲しがりさんね」
「……もう、十分か?」
結婚する前からディオンは素敵な人だったけれど、ここのところ眼差しや仕草から一層、色気がにじみ出ている。それに当てられると年甲斐もなくクラクラして……彼のために何でもしてあげたくなってしまう。
赤ちゃんがもう一人来るわよ、って言ったら、ルナリアとアイザは喜んでくれるかしら。
「楽しいことって、いくらあっても足りないものね」
両手を伸ばし、わたしを見つめるディオンの頬を包む。
「……夢の続き、一緒に見ましょう?」
甘やかな彼の微笑みが、今夜もわたしに魔法をかける。
今も変わらずわたしは大魔術師、そしてディオンはわたしの従士を務めてくれている。幸い王国が大きな脅威に晒されることはなく、それなりに忙しくはあるけれど穏やかな日々を送っている。
とはいうものの、もちろん大きな変化もあった。それは――家族が増えたこと。
六年の間に、二人の子供を授かった。五歳のルナリアは何にでも興味を持つ元気いっぱいの女の子。三歳になったばかりのアイザはお姉ちゃんの後ろをいつもついて回る少し甘えん坊の男の子。二人とも、ディオン譲りの金髪だ。
わたしは取り立てて子供好きではなかったけれど、やっぱり自分の子供は格別に思う。たまには姉弟喧嘩をしたり、ランドルフのことを大声でおじさんと呼んでわたしをハラハラさせたりするけれど、この子たちの笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶ。執務部屋にこもっている時、外で遊ぶ声が聞こえるとやる気が湧いてくる。
もちろん、ディオンも子供たちのことをすごく可愛がっている。ルナリアの時もアイザの時も、まだ外目では妊娠していると分からない時期から毎日わたしのお腹を撫でて話しかけ、生まれてからはわたしにしかできないこと以外、すべてのお世話を引き受けるくらいの勢いで頑張ってくれた。
大魔術師と従士、夫婦、そしてお母さんとお父さん。三つを同時にこなす生活は大変だけれど、とても楽しい。そう思えるのはディオンのお陰だ。苦しいと思ったことはきっと一度や二度ではないはずなのに、少しもそんな様子を見せず、わたしにも子供たちにもたくさんの愛を注いでくれる。
ディオンに抱き上げてもらって嬉しそうに笑うルナリアとアイザを見ると、泣きそうなほど幸せな気持ちになる。
そろそろ、あの話をしても良い頃かしら――
***
ディオンと二人で子供たちを寝かしつけ、しばらくその寝顔を眺めた後、わたしたちは揃って夫婦の寝室へ向かった。
上半身は起こしたまま上掛けを腰まで引き上げて、彼に呼びかけた。
「ディオン」
「どうした?」
隣でわたしと同じ体勢になった彼がこちらを向く。
「あのね……わたし、魔物と戦って長く眠り続けた時があったでしょう? その時にね、とても素敵な夢を見たの」
「ああ……結婚した日に話してくれようとしたが、俺がそれを止めたのを覚えている」
まさか覚えてくれているとは思わなかった。
「そう。その夢が本当になった時に内容を聞かせるってことになっていたでしょう? ディオンの言った通りだったわ。今まで誰にも話さなかったから、現実になったの」
彼の瞳が続きを促す。
「不思議なんだけれどね……その夢にルナリアとアイザが出てきたの。あなたがあの子たちを抱っこして、とっても楽しそうに笑ってて、わたしがその様子をずっと見ている夢だった」
結婚する前に見た夢なのに、そこに出てきた子供たちの姿は、ルナリアとアイザと全く同じだった。いくら大魔術師といえど、予知能力があるわけではない。生まれる前の子供の夢を見るなんて、偶然とは言い難い。
どんなに偉大な魔術師だったとしても触れることができない、見えない大きな力がこの世にはあるのかもしれない。
「ディオン、わたしと結婚してくれて、あの子たちのお父さんになってくれてありがとう」
「……礼を言わなければいけないのは俺の方だ」
目を細め、ディオンが言った。
「あなたと出会い結ばれていなければ、俺は一生を闇の中で生きていた。ありがとう、セシーリャ。俺は世界で一番幸福な男だ」
どちらからともなく、キスを交わす。触れ合わせるだけのつもりだったそれはどんどん深くなり、いつの間にかわたしの体はディオンにしっかり抱きしめられていた。
唇が離れたかと思うと、体を仰向けに倒された。すぐに天井がディオンの体で見えなくなる。
「もちろん、今の生活には満足しているが……」
彼の筋張った長い指が、わたしの耳のふちを、首筋をそっとなぞる。
「もっと賑やかな方が楽しいように思う」
何を求められているかに気づき、わたしはふふ、と笑った。
「欲しがりさんね」
「……もう、十分か?」
結婚する前からディオンは素敵な人だったけれど、ここのところ眼差しや仕草から一層、色気がにじみ出ている。それに当てられると年甲斐もなくクラクラして……彼のために何でもしてあげたくなってしまう。
赤ちゃんがもう一人来るわよ、って言ったら、ルナリアとアイザは喜んでくれるかしら。
「楽しいことって、いくらあっても足りないものね」
両手を伸ばし、わたしを見つめるディオンの頬を包む。
「……夢の続き、一緒に見ましょう?」
甘やかな彼の微笑みが、今夜もわたしに魔法をかける。
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