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翌日。

「シオン、すまんが2-3日探索はなしだ。」

キョトンとした顔でシオンが聞き返す。

「え? どうして?」

「ちょっと最下層のボス相手に確認したいことができた。」

それを聞いたシオンが納得したように頷く。

「ああ、魔法攻撃の威力確認? なら付き合う。私が一緒の方が多少は
 ドロップに期待できるでしょ?」

いう通りシオンはドロップ運が非常に良い。まあ、ボスのレアドロップ
なんて、都市伝説並みの超低確率だから気休めには違いないが。

「別にゆっくりしていてもらってもいいが、まあ好きにしろ。」



というわけで、最下層にやってきた。
こっちのエリアの下層域なんて2年ぶりくらいか。転移石で直接50階の
セーフティエリアに降りて、最短距離で降りてきたが、他のパーティには
出会わなかった。途中で倒した雑魚集団が、ステータス宝珠オーブをドロップ
したときは、さすがシオンだとあきれたが。

やはりこちらのエリアだと、低威力の初級魔法でも、雑魚相手には威力が
高すぎる。めんどくさそうな集団以外は、運動がてらボコってきたので、
最下層のボス部屋前にたどり着いた時には、多少汗をかいていた。

ボス部屋前の広間には、挑戦待ちのパーティが3組ほどいた。

「あれ? クロウにシオンちゃんじゃないか。珍しいこともあるもんだ。
 明日は雪でも降るのか?」

声をかけてきたのは、知り合いの剣士だった。

「ザックか。周回中か?」

そこにいたパーティは皆顔見知りだった。というかシオンのファンクラブ
の割合、多くないか? 手を振ってるやつもいるし。

「ああ、今日はまだ3周目だがな。で、いったいどうしたんだ?
 今更こちらに用があるとも思えないが。」

不思議そうに聞いてくる。向こうのエリアで探索しているボク達の稼ぎを
知っているからな、こいつ。

「ちょっとな。こちらのボス様にどのくらいで瞬殺されてくれるか教えて
 もらおうとやってきたわけだ。」

「ぶっ! あはははは、手加減の確認かよ。」

噴き出したザックがさもおかしそうに腹を抱える。

「で、そっちは? もしかして装備狙いか?」

「まあな。やっぱあこがれるじゃんか。伝説にもなってる神装装備って。
 生きているうちにお目にかかりたいもんだからな。」

「うわ! 救えないギャンブラーがここにいる!」

「うるさいわ! 日銭稼ぎの余興だっての! 夢くらい見させろ!」

互いに笑いながら、暇をつぶす。
シオンの方はと見れば、ファンクラブの連中に囲まれて餌付けされてる。
平和だ。

「しっかし、古顔ばっかりだな。若いパーティは育ってないのか?」

バカ笑いを苦笑に変えたザックが、答えを返す。

「今日はたまたまだ、と言いたいところだがな。若い連中も普通にいる
 んだが、限界突破した後、ここに残るやつは今ほとんどいない。」

「ん?」

先を促す。

「聞いたことないか? 皇国の方で、相当深い大規模ダンジョンが見つ
 かったって。現在攻略中ですごい賑わいだそうだ。若い連中は我先に
 そっちに移っているようだぞ。」

「知らんかった...そうなのか。」

「ああ、今は60だか70階層あたりまでだそうだが、200階層級
 じゃないかという噂まで出ているほど、難易度は高いって話だ。
 フィールドエリアのない迷宮型だそうだが、ドロップ率は高くない
 らしい。反面、経験値はおいしいらしいんで、若い連中や功名心の
 高い連中が集まっているらしいぞ。皇国が出している攻略報奨金は
 金貨10万枚って話だし。」

「10万枚! 1回見に行ってみるのも手か?」

「お、行くか?」

「いや、遠いしめんどい。」

「いうと思った!」

またしても大笑いするザックを見ながら、嘆息する。

(やっぱりあの連中、皇国関係者か。)


ふと思いついて、ザックに尋ねる。

「それだけのダンジョンってことは、他の討伐者の噂ってないか?」

番人ゲートキーパー討伐者か? いや、聞いた記憶はないな。」

「そっか。残念。」

まあ、一人は18階層のフィールドで大規模な牧畜業を営んでるから、
あってみたいと思うのはペアだったアヤツと、シオンを育てている時に
世話になった、あの女修行僧モンクのくせに斥候スキルを極めていたアネさん
くらいなんだが。あ、斥候スキルは罠感知や解除、鍵開けだけじゃなく
隠形やら追跡やらの統合スキルだ。シオンはアネさんの弟子として、
この辺りでは有名な斥候職だ。
別の国では盗賊とかいうらしい。人聞きが悪い呼び方だな。


「お、前の連中、皆終わったようだ。」

ザックのパーティが立ち上がって、戦闘準備を始めている。

「そうだ。クロウ、シオンちゃん貸してくれないか?」

「あ?」

ザックを見返す。

「シオンちゃんがいれば、いい装備がドロップするかもしれない。」

思い出した。こいつもボク同様ドロップ運はよくない。

「まあ、シオン次第だな。 おーい、シオン。」

シオンが駆け寄ってくる。

「こいつがさ、シオンに参加してほしいって。」

「ザックさんが?」

「シオンのドロップ運にあやかりたいそうだ。こっちは検証目的だし
 シオンがよければどうだ?」

シオンはボクとザックを交互に眺めて、こう言った。

「多分連携は取れないから、最初は取り巻きの左半分をもらう。
 ボスだけになったら、左から適当にダメージを与えるだけにして、
 メンバーへの支援はしない。それでよければ。
 報酬は頭割り、追加でボス戦1回につき上定食を1週間分!」

うわっ、ちゃっかりしてる。と思ったらパーティの連中から歓声が。

「やったー。シオンちゃんと一緒。リーダー!その条件で。」

そういえばこいつらファンクラブだった。


かくして、そういうことになった。

まあ、戦闘が専門ではなく相性がいいわけでもないが、手足の1-
2本を覚悟すればぎりぎりソロでもいけるんだし、いつもの装備を
身に着けている。
ザックのパーティは全員限界突破したベテランだし、心配するだけ
無駄だとは思うが...

「シオン...、 魔法鎧マジックメイル

シオンが朧な光に包まれる。

「過保護もここに極まれり!ってやつだな、おい!」

「うるさいわ!」

笑い出すザックを軽く睨みつけて、シオンに向かい合う。

「気をつけてな。」

「クロウもダンジョン壊さないようにね。」

ザックがあきれたように、

「どうせお互い周回だからここで顔を合わせるのになぁ。
 まあいいや。シオンちゃん、準備がよければいくぞ。」

シオンと共にザックたちのパーティがボス部屋に向かう。

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