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第一章 聖女?召喚

4.いにしえの召喚陣

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ソフィアはなんとなく居心地の悪さを感じてしまう。ここにいること自体
いけないことではないのか?


「ソフィア嬢。あなたが召喚されたのは、アッシュフィールド領の西にある
 王領の離宮、その地下で間違いないですね?」

アムザの言葉にソフィアが頷く。

「はい。レティシアの中で目覚めた時は、そこの召喚陣の中央にいました。
 でも、どうして場所まで。」

「それは後程。(中央?)
 それにしてもよく召喚陣だとわかりましたね。あちらの術式に似たものが
 あったのですか?」

「レティシアの知識です。あれが召喚陣であることは知っています。ただ
 術式を完全に解読することまではできませんでしたが。」

それを聞いたアムザは嘆息する。

「まさかとは思いますが、レティシア嬢が召喚者だったと?」

「そうです。何人もの補助術者はおりましたが、主操作は私レティシアが
 行いました。」

ソフィアの答えに、アムザが顔を覆う。

(レティシア嬢が召喚者?贄ではなく?となると...)

「あの、どうされました?」

アムザの様子に心配そうな声をかけるソフィア。しばしの後アムザは顔を上げ、
ソフィアに向きあう。

「すみません。少々予想と異なっていたため、お話するつもりのなかった部分も
 ご説明せざるを得ません。
 一からすべてをご説明します。
 巫女様方にもお聞きいただきますが、とりあえずここだけの話ということに
 してください。女神様にもご了解いただけるはずです。」

ソフィアとの会話を見守るだけだった巫女長が、少し祈りの姿勢を見せた後に
答える。

「女神様も、口外無用とおっしゃられました。どうか私共はお気になさらず、
 お話を進めてください。
 でも、ここはいつもより女神様のお声がはっきりと聞こえます。さすがは
 女神様の神域ですね。」

あたりを見回す巫女長に、若干苦笑をにじませるアムザ。

「ありがとうございます、巫女長殿。
 さて、ここまでの話は一旦忘れてください。
 混乱のもとになりかねませんので。」

椅子に深く座りなおしながら、アムザが説明を始める。

「ソフィア嬢が召喚されたのは、アッシュフィールド領西にある王領の離宮、
 その地下にある召喚陣によるものです。古代帝国時代のものですが、封印
 されて王家の血筋によって護られてきました。

 ご存じの通り、現王家の血筋は女神様の加護の元、古代から続くものです。
 地下への道は、王家の血筋、正確には現王とその直系2世代のみが解ける
 封印によって護られていました。

 今回は多分、あそこのアレが封印を解いたのでしょう。召喚を言い出した
 のも。」

苦々しくいうアムザの言葉に、ソフィアは無意識のうちに頷く。

「まあ、確認や掃除などのために、数年に一度くらいの周期ではいっていた
 はずですから、封印を解いたこと自体に罪はありません。
 ただし、王家に対して女神様は、『陣は禁忌の術式であり、決して触れる
 ことのないように』と指示していました。

 概ね、王家は女神様のお言葉に従って、陣とあの離宮を守り続けていました。
 今回のように禁忌を犯して、陣を使おうとしたものもいたようですが、陣が
 起動することもなく護られてきたのです。

 さて、次はあの召喚陣がなにかというお話になります。
 構成そのものは大規模召喚陣の形式に則っていますが、現代では失われた
 知識や術式が組み込まれているため、全容を理解できるものはいないはず
 でしたが、あの陣は異世界から神、又は神に匹敵する何かを召喚するため
 に作られたものです。」

ソフィアや巫女らは衝撃を受ける。

「女神様ではなく、他に神を求めたというのですか!」

興奮した巫女の一人が立ち上がって叫ぶ。巫女長を含み巫女らの気持ちは同様
だろう。ソフィアのみがそれほど興奮もせずにいられたのは、やはり女神様に
対する感覚の違いかもしれない。

「お気持ちはわかりますが、まずは落ち着いてください。
 簡単に言うと、古代帝国は女神様に守られた地、今の王国の元になった地に
 攻め入るために、女神様の御力を打ち破れる力を求めたのです。当時その地
 は女神様が直接守護結界で保護されていましたから。」

「そんな...」

初めて知る古代の歴史に圧倒される面々。

「陣の脇にある石碑に、女神様からの警告として、陣が禁忌に触れるもので
 あることと、破壊を禁ずることが残されていますので、何かが召喚された
 のでしょうが、それ以外の記録は見つかっていません。

 まあ、古代帝国の消滅は陣の作成から数百年後ですし、女神様は今もおわ
 します。変わったことといえば、女神様が守護されていた土地がなくなった
 ことと、女神様が直接お力を振るうことがなくなったことでしょうか。」

話しつかれたのか、アムザが冷めた茶に手を伸ばす。その時ソフィアが口を
開いた。

「アムザ様は、何故そのようなことまでご存じなのですか?」

それを聞いた巫女らも内心同意する。女神様から『聖女のつかさ』という存在を
聞かされていたとはいえ、この場を支配するアムザは、あまりにも様々な
ことを知りすぎている。

「私は好奇心旺盛なんですよ。賢者という職業を極めるくらいにはね。
 聖女のつかさとして必要だったというわけではないけれど、恩恵として
 女神様に知識をもらったこともあるし。あの陣については昔に知り合いの
 王家の人に連れて行ってもらって実際に見ました。見たものは忘れない
 特技もあって、興味本位ではあったけれど、陣の解析はしたんですよ。
 数年はかかりましたし、一部は女神様の助力もありましたが、あの陣に
 ついてはほぼ完璧に理解しているつもりです。」


そういえば先ほど見せられたステータスには、賢者の職業があったなと
何となく納得する面々。

「まあ、そんなところです。

 で、あの召喚陣での召喚なんですが、実は非常に難しいのです。
 4つの補助陣にそれぞれ数人のサポートを受けた強力な術者が必要で、
 主制御を受け持つ召喚者も、強力な術者を配置する必要があります。
 当然術式を理解していなければ召喚などなせません。ですから私も
 禁忌を犯そうとするものが現れても問題になるとは思っていません
 でした。

 ところが今回、召喚は成功してしまった。
 先に、ややこしいことが重なっているといいましたが、この成功して
 しまった召喚がその一つ。女神様から陣が起動して召喚が成功したと
 聞いて、状況を調べてみたのですが、いくつかの要因が重なっていま
 した。詳細は省きます。

 召喚が成功したのは、召喚対象が神ではなく人である聖女様だったこと
 で、起動に必要な力が非常に少なくて済んだことが一番大きかったよう
 です。

 ただ、召喚者が陣を完全には理解していなかったことは明白で、その結果
 いくつもの悲劇が起こっています。」


「「悲劇、ですか?」」

ソフィアと巫女長の声が重なる。
 
「はい。
 一つ目は多分20人位でしょう、召喚者以外の術者の消滅。肉体の一部
 くらいは残ったかもしれませんが、魂魄まで消えたはずです。」

「「「そんな!」」」

重なる悲鳴。中でもソフィアの声が大きい。それを見やりながら、
あくまで冷静な様子で続けるアムザ。

「まあ、召喚者の魔力が足りない場合に贄となる、陣本来の動作ではあり
 ますが、お気の毒なことです。
 二つ目は、ソフィア嬢です。三つ目にもかかわってくるのですが。多分
 ソフィア嬢は現在魂がレティシア嬢の中に入った、いわば憑依のような
 状態だとお考えでは?」

「そうではないのですか?身体はレティシアのものですし記憶もあります。」

言いづらそうにアムザが尋ねる。

「ステータスは如何でしょう?」

「ステータスですか?」

自身のステータスを確認するソフィア。

「職業に聖女が増えていますが、その他はレティシアのステータスにソフィアの
 ものが混じった感じです。
 召喚後に確認した時と変わりはないですね。」

それを聞いたアムザが続ける。

「レティシア嬢は何を召喚するおつもりだったかわかりますか?」

ソフィアは何かを思い出すように目をさまよわせる。

「あの時は...エルリク殿下のご要望で、聖女様を召喚しようとしました。」

「その時のレティシア嬢は、聖女様とはどんな存在か理解されていましたか?
 多分明確なイメージはなく、大まかなソフィア嬢の元の世界の聖女様に
 近いイメージでの召喚だったのではないですか?」

「あの時のレティシア...そう、そんなイメージでの召喚でした。」

一連のやり取りを終えて、アムザは嘆息する。

「やはり。
 多分異世界からの召喚という意識もほとんどなかったでしょう。
 あの召喚時は神を召喚するためのものでした。神を求めたならおそらく
 陣は起動しなかったでしょう。聖女様という位階の低い召喚対象故に
 陣は起動してしまい、陣の検索でソフィア嬢に道がつながってしまった
 のだと思います。」

アムザは一旦言葉を切った。

「・・・そうしてソフィア嬢が召喚されたところで、悲劇はおこったのです。
 ソフィア嬢は陣の中心に召喚されたといわれましたが、本来なら、中央に
 ある2つが一部重なった円陣の片方に召喚されるはずでした。
 2対の円陣は被召喚者と贄のための配置です。多分レティシア嬢はそれを
 理解されておらず、単純に中央ということで円陣の重なった部分で召喚を
 おこなったのでしょうね。
 中央は、本来なら贄に非実体の被召喚者をおろす位置です。
 ソフィア嬢は顕現時に贄としてレティシア嬢を融合というか、取り込んで
 しまったのでしょうね。陣の動作としては、レティシア嬢は贄として扱わ
 れたはすですので。
 今のあなたは召喚されたソフィア嬢です。レティシア嬢は存在しません。
 ところが姿はレティシア嬢です。これは今のところ何故かわかりません。」
 
 





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