聖女様、あなたは聖女ではありません

azuma

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第一章 聖女?召喚

3.聖女

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アムザの話は続く。

「推測ですが、ソフィア嬢の元の世界での聖女様は、神の祝福か加護を受けて、
 治癒や回復、あるいは悪しきものの浄化やそれらからの守護を行える方だった
 のでは?」

「おおむねその通りです。それらを神聖力で行う者が聖女と呼ばれていました。」

ソフィアが答える。

「ありがとうございます。
 で、この世界でのお話になりますが、それらを行っているのが巫女様方です。」

「! 確かに...」

「ただし、巫女様方が女神様のお力を振るえるのは神殿という聖域でのみです。
 もちろん魔法での治癒・回復や浄化は神殿の外でもできますから、力をもった
 巫女様方は神殿の外でも活躍されています。」

「...」

考え込む様子を見せるソフィア。

「ソフィア嬢のためにご説明しますと、巫女様方が振るう女神様のお力は、神殿
 の外にも届くのですが、行使が神殿内に限定されることに加え、お力そのものも
 限定されたものです。女神様と対話し、お言葉を他者に伝えることが巫女様本来
 のあり方でしたから、奇跡の行使が限定的なものであることはある意味当然です。

 巫女様方の位階は、見習いから下級、中級、上級、今は空位である最上級が
 ありますが、中級に至って初めて女神様の御力を奇跡として行使できるように
 なります。まあ、魔力でできることは魔力でなされていますが。
 しかしながら、人の手に余る事態は往々にして発生しえます。上級の巫女様に
 至ってから行使できるようになる神卸しという術は、そういう状況に対応する
 ために女神様がお与えになったものですが、代償が大きすぎる制約があります。

 この世界の聖女様は、女神様の代行者であり、執行者です。神殿という聖域に
 縛られることなく、かつ女神様のお力を十全に行使できます。
 いわば、巫女様の神卸しでさえ対応できない状況が生まれた時に、聖女様は
 顕現されるわけです。

 巫女様と聖女様の違いには、行使が神殿内に限定されるか否かという点のほか、
 もう一つ決定的な違いがあります。
 それは、巫女様には修行を積むことでなれますが、聖女は女神によって顕現
 するということです。」

若干口調が乱れかけた風のアムザ。

「極論するなら、この世界の聖女様というのは女神の依り代、出力装置にすぎま
 せん。女神の力は人には過ぎた力故に人では耐えきれない。上級巫女様方でも
 神卸しは生涯で一度、できて二度が限界でしょう。最上級の巫女様なら数回の
 神卸しに耐えられるのですが、ここ数百年至った方はおらず空席のままです。
 巫女様方の犠牲なくことを収めるためにどうするか。女神が依り代となる人の
 魂魄を作り替え、強化して聖女として顕現させるわけです!
 このため、聖女様は顕現の時点で死んだようなものです!」

聞いていた巫女らもソフィアも、アムザの語る内容とそのヒートアップした様子に
驚きを隠せず口を開けずにいたが、そこに声がかかる。

「アムザ様、熱くなりすぎ。」

平坦なマインの声に振り向くアムザ。

「すまん。」

目を閉じ深呼吸したアムザは話を再開する。

「皆さん、すみませんでした。
 まあ、そういうわけで、ソフィア嬢は聖女様なのですが、この世界の聖女では
 ありえません。」

「...そういうことですか。聖女であることを神殿の皆様に否定されたときは
 憤りもありましたが、確かに私は女神様の聖女ではありませんね。理解はでき
 ました。」

腑に落ちたかのようにソフィアが頷く。

「では、私はどうすればよいのでしょうか?
 元の世界の聖女としてとはいえ、私もそれなりに十分な力を持っていると思い
 ます。民のためこの力を使うことは、女神様の意に沿わないのでしょうか?
 私も神殿で巫女としての修行を始める方がよいのでしょうか?」

ソフィアの言葉に、巫女らも流れ的にそんな結論を予想したのだが、アムザは
ためらいながらも首を横に振る。

「それもありかとは思いますが、もう少しお話を続けさせてください。
 ソフィア嬢を聖女として認定できない理由はご理解いただけたようですが、
 対外的にどうするかという点が残ります。
 また、それとは別に、初めにお話ししたややこしい状況が重なっていると
 いう点もあります。これからその点をご説明しますのでお聞きください。

 ソフィア嬢はこことは異なる世界の聖女様で、この世界に召喚されました。
 そして、聖女様として神殿の認定を求められました。
 でも、これっておかしくありませんか?」

ソフィアも巫女らも戸惑ったようにアムザを見つめる。
その様子を見てアムザは続ける。

「ふつうの人は、聖女様など望みません。女神様のお力を望むのであれば、
 神殿に赴くか、その地に遠征中の巫女様方にすがります。
 聖女様のことなど考えもしないでしょう。
 2000年を超える歴史上でも聖女様の顕現は2回のみ、お伽噺にもある
 瘴気の大発生時代と、星降りの災厄の時だけです。」

「言われてみれば、確かに変ですね。
 私も今回のことがあって、聖典に聖女様の記述があったことを思い出した
 くらいですし、この聖女認定の儀やつかさ殿のことに至っては、女神様から
 ご神託を受けるまでは知りませんでした。」

巫女長の言葉に巫女らも顔を見合わせ同意するように頷きあう。
その様子を見たソフィアが目を丸くする。

「聖女は必要とされていない?いえ、認知されていない?」

思わずつぶやいたソフィアにアムザが苦笑ぎみに笑いかける。

「まあ、そういうことです。
 ソフィア嬢がアッシュフィールド領で行われたことも、普通なら神殿の
 巫女様の活動として認識されるでしょう。
 アッシュフィールド領で未曾有の災害などがあって、神殿や巫女様方が
 手を尽くしてもおさまらないような状況でソフィア嬢が活躍されたとか
 なら、御伽話に残っていますから聖女様と呼ばれることもありえたで
 しょうが、そんな状況ではありませんでしたし。
 アッシュフィールド領の皆がソフィア嬢を聖女様と呼んだのも、何者
 かの意思が介在したとしか思えません。


 さて、ここで重要なのは三点。

 一つ目、聖女様を求めるという発想が普通ではないこと
 二つ目、聖女様を必要とした状況、意図とはなんだったのか
 三つ目、何故異世界のから聖女様を召喚することになったのか

 あ、これは召喚という手段に至った発想と、異世界から
 という発想の2つになるから、全部で4点か。

 この世界の聖女についての正体を知らない者からすれば、他の世界にも
 女神様の聖女がいると考える可能性がないとはいえませんが、ふつうは
 そんな風には考えないでしょう。おかしなことだらけです。」


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