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事件簿1

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 しかし、その夜の事でした。いつも執事とメイドが明日に向けてミーティングをする時間になってもアルトが現れなかったのです。
 今日のこともあり、私が率先して手を挙げアルトさんを探しに行きました。
階段を登りきった所で、アルトが廊下に向かい立っておりました。
「アッ、アルト…」
声を精一杯出して、呼びかけようとする。しかし、こちらに気づく様子は全くなく凛とした眼差しのまま、一礼をし部屋へ入りました。
 そうここのフロアは、お嬢様のお部屋なのです。ですから、呼び出されたものしかお嬢様の部屋に入ることが出来ないのです。
 しかし、旦那様の言いつけの際は例外で訪れていいという事になっております。
ノックをして一礼。たったこれだけのこと。出来るはず。そう思い私も赤いカーペットが敷いてある長い廊下を歩きお嬢様の部屋へ向かう。
ゴクリと生唾を呑み、ノックをしようとした時だった。
「よくも私に恥をかかせてくれたわね、ティノを気に入ってるの?」
「いえ、只彼女もお嬢様の事を慕っているということをお伝えしたかったのです。大変申し訳ございません」
「脱ぎなさい」
「……」
「聞こえなかったの?脱ぎなさい」
「…かしこまりました」
「そうよ、貴方は私の言うことだけ聞けばいいのよ。アルト」
   ふふふっと言う声とともに聞こえてきたのは鞭の音。痛みに耐える声が部屋から聞こえる。     
一瞬で喉が凍りつき声が出なくなった。お嬢様がまさかこのようなことをアルトにするなんて。
 それだけではなかった。一時、時間が経つと二人の睦声が聞こえて来て耳を塞ぎたくなった。
 こんな事を、こんな事をしないとお嬢様は許して下さらなかったのだと。腰を抜かしてしまい、冷や汗が大量に出る。
 早くこの場から去らなくては。お嬢様をまた怒らせてしまう。幸いカーペットだったというのもあり、元の道を這いながら戻ろうとする。体が重く、汗の量や息も荒い。お願い、気づかないで。
 ごめんなさい、お嬢様。アルト。私のせいで二人にこんな残酷な関係を築かせてしまっていたなんて。これは二人に対する涙なのか自分の悔しさから流れてきた涙なのかは分からなかったけれども涙が溢れてきた。
廊下の三分の二までどうにか張ってきた。
 けれど、まだ道は遠い。起き上がろうとするものの何度やっても立つことさえ出来ない。
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