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売れっ子スターはお母さんが好き

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夢と現の真ん中の微睡みの中に居るさ中、脳裏に聞こえる音。手だけを動かしてその場所を探る。
「もしもし…」
   目を瞑りながらスマートフォンを取り耳に当てる。向こうの声は何も聞こえない。一体どうなっているのだろう。数秒たってガサガサと何かが擦れている音、はぁはぁと息遣いのようなものも微かに聞こえる。
「え…?何怖いっ」
スマートフォンを耳から離し、直接画面を起きたばかりのはっきりしないしかめっ面の目で確かめる。
「極度のマザコン顔だけ男」
   と表示されていた。最近至る所で見掛けるようになった幼馴染だ。朝からどうしたというのだろう。お母さんの事はこの間三時間も電話をされ、計50問以上の質問に答えたばかり。
 こうゆう時は必ず無言で待機をしないといけない。何故ならもうこの人は一般人とは違い、たった数分の異性との電話でもすぐゴシップになりかねないからだ。そんな事になったら、家と住所を特定されて晒しあげられるに違いない。                           そして叩かれる。ひたすらに。そんなのは嫌だ。まだ彼氏も出来てないのに。それどころか友達と都内の旅行にすらまだ行けてないのよ。
「はぁ…と、もしもし?」
やっと撒いたのか。
「ごほっ、ごほっ、もしもし」
彼と話す時は決まってとても低い声で話さないといけない。世間で私と幼馴染は大親友という設定になっている。勿論男友達としてだ。
「相変わらずイケボだな」
毎回そうやって私の渾身の低い声をからかってくる。
「黙れ」
ははと笑い声が電話越しに聞こえる。
「女の子ってさ良い匂いがして柔らかくて可愛いけど、どうせ追っかけられるなら涼子さんが良いな」
  涼子さんと言うのは、私の母の名前だ。長年お母さんとしか呼んでない私にとってこの呼び方を幼馴染から聞く時が一番ぞくぞくする。勿論、悪い意味で。
「そうか」
   あんた何なのよ、電話の趣旨を言いなさいよ!私の睡眠時間を削ってるのよ。あとね身内の恋愛話だったり、好きとか思われるのは一番精神が削られるのよ。と全力で言ってやりたい。
 しかし私はチキンだ。チキンハートなのだ。そんな事言えない。言えていたらこんな風に男の声を出して茶番の電話に付き合うこともないだろう。

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