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寂しい香り

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妙に鼻につくこの線香の匂いに心做しか視界がぼやけて行くように感じる。

関係者ではないから線香だけあげて行こうとのことだったが、俺は遺族に掛け合い1番後ろの席に参列させて貰った。

薄暗く静かな中、すすり泣く声と新しい花の匂いが線香の匂いとともに香ってくる。

「お名前を頂戴してよろしいでしょうか」
恐らく彼女の母親からそう声をかけられた。
「川神です」
「…あ、いえ。来ていただいたんですね。たしか、学生さんでしたよね?ここまで、ありがとうございます」
一向に目を合わそうとしないその瞳には涙が今にも零れそうになっていた。

「母さん、変わるよ」
低い声と共に寂しそうな雰囲気を纏った男性が母親の肩を抱く。そして、後ろの席へ促した。
その後母親はこちらを見ることも無く席へ着くなり大粒の涙をこぼした。

「席は前の方では無いですが、よろしいでしょうか」

「はい」

「失礼ですが、あの時担当した川神さんですか?」

「はい、そうです」

「…そうでしたか、その節は娘がお世話になりました」

 
「いえ、私は何も…」

「いやいや、娘が元気になったのは君のおかげだよ」

泣き腫らした目が虚ろに揺れている。
先に言おうか、後に言おうか迷っていた。貴方の娘さんは······。

「とても明るくてパワフルですよね」

「ええ」

「お父さん」

後ろから母親が、参列客へ挨拶するよう促した。

「ああ、では。後ほど」

ぺこりと頭を下げ、受付の手続きをする。

「あの…」

後ろを振り向くと、ここに居ないあの生意気娘に似ている女性が立っていた。
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