トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

不快な目覚め

「起きた？」
如何にも眉をひそめ不機嫌そうに私を見つめる彼は先程の次元の彼とは大違いだった。
「近っ…」
何でこんなに不愉快なんだろう。目覚めが悪すぎる。殺す気満々の刺客にしか感じられない。
「安藤さん、まずは検温です。その後、夕食です」
「はい」
「おい」
「なんですか？」
おいとは何だこのやろう。そんな気持ちを抑えて早く出ていって欲しいから間髪いれずに返事をする。
トントンと彼自身の首を触り、私に合図を送る。
「それどうしたんですか？昨日までなかったですよね。蚊でも呼んだんですか」
近くに置いていた手鏡を見て自分の首を触ると楓先輩と戯れていた時の後が残っていた。
「なっ…」
何でっ、夢じゃないの。途端に怖くなった。あれは現実なんだと。しかし、こちらの世界が本来の世界なはず。そうだとすると。未だに様々な感触が残っており妙な気分な中の目覚めだったためか倦怠感や、泣き尽くしたからか喉が乾ききっている。
「よく気づかないですね、ま網戸開けたの僕なんですけど」
にやりと笑って外に出ていく川神さん。いや、川神！とんでもないやつ。どうしてこんな酷いことを。それじゃあやっぱり虫が居たのか。それを聞くと同時に安堵してベッドに寝転ぶ。良かった、あれは夢だったんだ。その途端に足が痛む。
「痛っ…」
びっくりするほどの痛みに、冷や汗は出るものの今は何処か安堵を覚えた。あれは夢なんだ。そう、良かったと心で繰り返す。しかし、未だに残る下腹部の違和感そして首の跡。本当に何も関係ないのだろうか。楓先輩は無事なのだろうか。そればかり考えてしまう。