トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

準備

「綺麗な海見てさ、今日は帰ろうか」
楓先輩は私をきつく抱きしめ柔らかく微笑む。
「強いよーっ」
ちょっと力が強すぎる。
「可愛いからぎゅーします」
「私はかっこいいからぎゅーします」
お互いに抱きしめ合い、起き上がりボサボサの髪を撫でまくる。
「ふわふわだ」
先輩の髪の毛を撫でまくる。枕の跡が付いていて可愛い。
「優しく撫でて、僕のキューティクルを削らないで」
「削らないですよ」
ふふふとお互い微笑み軽くキスをし、起き上がる。綺麗な海が見えた。ヤドカリが砂浜の上を波に流されないように素早く歩いているのが見える。昨日実際に遊んでいた時には中には波にさらわれどうにか浜辺に戻ろうと波の力を利用して戻れるものも居れば、砂浜に溺れそうになりながらしがみついているようなものが居たのを思い出した。
「ヤドカリ好きなの？」
「好きというか思わず目で追っちゃいます」
「分かる」
そう言うと先輩も遠目にヤドカリを見つめる。少し和んだ後に先輩がご飯食べよっかと言っておもむろに着物を脱ごうとする。
「ち、ちょっと…」
「ん、着替えよと思って」
「ここで着替えないで下さい」
ええ、と言いながら分かったよといい脱衣所で着替えてくれる先輩。
昨日のことを鮮明に思い出し、流石にまだ見慣れないと言うか直視は出来ない。
私も先輩が着替えているうちに着替えを済ませる。昨日の服を着ることに少しの罪悪感を覚える。
帰ったらなんて言おう。不安しかない、怒られたらどうしようか。追い出されたらどこに行けば良いのだろうか。自分から約束を破ったにも関わらずそんな事を思ってしまう。