トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

アールグレイ

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研究室

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「取り敢えず今から車置いてあるところに行こう。今日は安藤ちゃん何時までに戻らないといけないの?」
そう言われて初めて気付いたが、私は行く時間については話していたが、帰る時間については全く話してなかった。しかも、ケータイは初日にはるくんに奪われてしまってそのままで連絡の取りようがない。でも、何故今日一日だけでも渡してくれなかったのだろう。そんなに何か隠さないとけない事があるのだろうか。そんな事も考えずに、一心に楓先輩の事しか今日朝から考えてなかったのだと思うと恥ずかしい気持ちになってきた。
「いえ、特に時間は決まってないです」
お互いに立ち上がりトレーを持ちながら話す。外のアスファルトには鳩が餌を求めて何羽も集まっている。木陰が無いところの椅子には誰も座らずに、その反対の場所にはたくさんの人が一息をついていた。小さな赤ちゃんは、太陽の光が眩しいのか、喉が乾いているのか分からないけれど、ぐずぐず泣きそうになっていた。お母さんは、どうやら日本人ではなさそう。という事は、ハーフなのかな。と考えながらも、この赤ちゃんさえも未来へ来ているということは、過去ではまだお腹の中に居るのではと考えると何か不思議な光景を見ているような気がしてならない。ジリジリと床が湯気を立てているように目に見えない波が立っているように見える。頬からは冷たい汗が一雫落ちる。
「なら、家まで送るよ。心配するでしょ」
楓先輩は、伏せ目がちにそう答えた。店内に戻りトレー置き場に戻しに行く途中、先程楓先輩がなずと呼んでいた彼女は接客中でこちらには見向きもしなかった。
「楓先輩、ここから移動するのでご挨拶した方が良いのでは?」
何気に探りを入れようと精一杯出た言葉だけれども、本当にこの人が何者か気になるし、楓先輩にとってもどうゆう人なのかとても気になる。
「いや別に良いよ、また個人の要件でなずとは会うことになってるから」
表情ひとつ変えないその横顔もまた綺麗に整っていた。その一言にとても胸が締め付けられた。そんな風に私も未来ではありたかった。楓先輩にとっていつでも会えるから大丈夫て言われる存在になりたかった。まだ解いてないテストに唐突に考える間もなく回答を配られた気分だ。
「そうでしたか」
さっき聞いてしまっただけに、今は関係ないでしょうとまた言われるのが怖くなってしまい、もう先程のようには関係について聞けなくなってしまった。今日中には、白黒つけたいけれども楓先輩答えてくれるだろうか。
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