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驚きの事実

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「手短にきちんと配慮して話してあげてよ」 
そう言うと颯爽と踵を返す彼女。少し私の方を表情の読めない顔で見ながら歩き始めた。
「ありがとう、なず」
柔らかく微笑んだ楓先輩。彼女の方は見ないけど、さっきとは打って変わって和んだ様子。
「どういたしまして」
お互いに打ち解けた様子。急に時空が飛んだような気分になる。さっきまでの剣幕が嘘のように平和な世界に飛んだ様な気がした。
「安藤ちゃん·····?」
「あ、は、はい」
「本題に戻るね、待たせちゃったね」 
「いえ、とんでもないです」
まるで、私の方が他人のように感じてしまってさっきまで感じていた美味しいケーキの味が一気に質素なものに変わる。
「まず言いたいこととしては、そこに入ってるキーホルダーについて教えて欲しい」
「·····」
「なずから聞いてる、変なキーホルダー持ってきていたと」
鞄の方を指さす先輩。
「先輩、あの人はさっきの女性は先輩の何なんですか?」
唐突に騙されたような気分に陥る。それもあって思わず聞かずにはいられなかった。さっきから何が起こってるか全然分からない。
「今は関係ないだろう?」
本当に先輩は手短に終わらせたいようだ。折角この世界で唯一の光を見つけたと思ったのに。
「そうですね、でも、今すぐ見せる訳には行きません。まずは先輩の知ってることを話してください。フェアじゃないじゃないですか」
今までこんなふうに先輩に楯突いたり、反感を買うような真似はした事は一度たりともなかった。だけど、今回ばかりは私のこれからどうなるかも掛かっているから本能的に他人任せに出来ないからそう言ったんだと言い聞かせる。自分もこの世界では旦那さんが居るというのを棚に上げてるのは重々承知だ。でも、楓先輩にファーストネームで呼んでもらえる彼女がとても羨ましかったのだ。もしそれが、この世界に飛ばされた理由と解決に関わっているのは分かっていても。
「フェアも何も俺は何か知ってるなんて一言でも言った?それにまずは君の知ってることを話してって言ってるだけなんだ。その後に、順を追って話すよ」
楓先輩を呆れさせてしまったに違いない。無駄なことが嫌いな彼は私のように感情で人を振り回すような人とは折が合わないのだ。今までもきっと無理をして私に合わせてくれていたのだと思うとやるせない気持ちになったが、自分の足りない頭では何も考えることが出来ない。


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